魔女の焚き火

 


外に出ないか?といわれてシリウスはパッドフットと夜の散歩か?と聞き返した。リーマスはゆっくり首を振って笑った。

「今日は『愚者の夜』だよ。観光客も多いから、君みたいな人間でも目立たない。」

 

 

夕暮れになってから、彼らは広場への道をゆっくりとたどる。

同じように流れる人の群れや、反対方向へ急ぐ人を避けるようにゆっくりと。

 

広場には大きな火が焚かれはじめていて、そのまわりに香木の束を抱えた祭りの実行委員や子供たちが集まり出していた。

時計塔の鐘が鳴り始めると同時にそれをかき消す轟音が響いて、青くなった空に合図の花火が上がった。

 

『冬を払え!』

 

誰かが声を上げる。

直ぐに幾つもの声が続き歓声が上がった。

『愚者の王』の持つ大きな香木の束に火がともされたからだ。

長い縄の先でゆっくりと回される間に薪の火はどんどん鮮やかになり火の輪を描き始める。

実行委員の大人達が次々に『愚者』の薪に火をつけて子供たちや観光客に返す。

 

火と煙は熱で雪を溶かし冬を払う。

広場は瞬く間に燃え落ちた薪の残骸が転がり、愚者の回す火の輪と中央の大きな火壇の煙で、周りに立ち尽くす人の姿すら翳み始める。もう建物や木々の影どころか、10フィート先の人物の形すら怪しい。

雪の上に幾つも焚かれた大きな火。

香木をまとめた小さな薪に火がともされ、結界のように炎で輪を描きながら人々の間を回り、魔を払う。

細い香木は直ぐに燃えつき、次々に人が変わり、新しい火をまわす。

焦げ臭い空気に辟易し、飛び散る火の粉に軽く口笛を吹く。

 

 

ちらちらと雪が舞い始めていた。

広場の焚き火から離れると気温が急速に下がってきているのがわかった。また嵐がくるかもしれない。

背後の建物の屋根にはレースのような雪がかかり始めている。

 

でも春が来る。

嵐の向うには春が来るのだ。

友人はまぶしいのか目を細めながらこちらを見て楽しそうに笑う。

煙の中、子供たちの歓声や大人の笑い声が幾つも上がる。

 

側に立つ人の肩に手を伸ばした。

怒られるかもしれない、と思ったがそのまま、引き寄せる様に腕に力をこめる。

少し驚いた顔の恋人がこちらを見たが、穏やかな笑みを見せると呟いた。

「春が来るね」

声に含まれる穏やかで辛抱強いけど諦観とは異なる明るさに安堵する。

コートの中に入っていた彼の手が背中に回され、犬を宥める様にぽん、と置かれた。

幾分そのことにむっとして、シリウスは直ぐ隣のにある頬にキスをした。

 



つぶやき

頼まれて、デジカメで火のお祭りの写真を取ったら、戦場か地獄の風景といった感じに写ってました。

こう、火の明るさにレンズが負け、立ちこめる煙がハレーション気味で、肝心の人の姿はかげになっている。

…写ルンのほうが使いでがあるかも、なデジカメ初体験でした。




040219


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