観察

 

 

シリウスは高貴な生まれに相応しく(叩きこまれた、と彼は言う)優雅さも教養も備えている。

めったに見せないが、礼儀も完璧だ。

そしてどんな『技術』でもすぐに会得して使いこなす、ある種のセンスとリズム感を十二分に持っている。

 

なのに

 

人に対して、彼は時々不器用になる。

例えば、今朝の出来事もそうだろう。

 

 

 

赤い顔をして服を着替えているリーマスにぱたぱたとピーターが近付く。

彼は気配や空気を読むのが苦手なので、こういうときには強い。

触れられるときにリーマスは一瞬だけ怯えるような顔をしたけど、ピーターは気がつかなかったようで、そのまま額に手を当てた。

「やっぱり、熱っぽいよリーマス。

マダム・ポンフリーのとこに行ったほうが良いよ」

「あ、ありがとう。でも…」

そういう言い方では彼は動かせない。

彼は自分の規律を守る事に恐ろしく頑固だ。

そして隣を見ると、相棒の気配がきっちり変わっている。

「構うなよ、」

一瞬前まで心配そうな顔をしてリーマスの方を見ていたくせに、もう怒っている。

まったく、本当にわかりやすい奴だよ。

「…リーマス、授業が遅れる心配は判るが、最近流行ってる風邪は悪性らしい。

早めに見てもらって余計なリスクは排除してくれると同室の人間としてはありがたい」

彼は、あ、という顔をした。

ほら、もうヒト押しだ。

「朝食前に行けば、授業にはまにあうんじゃないかな?」

「そうするよ、ポッター」

ローブを着こむのもそこそこの彼が部屋から出て行くと、とたんにシリウスが文句をつけ始める。

「ジェームズもピーターもほっときゃいいだろうあんな奴!」

え、でも同じ部屋だし…とピーターが口篭もる。

「別にかまわないだろう?君は彼をほっとけばいいじゃないか。

気にするようなことじゃない」

力いっぱい口元をへの字にまげて、不満を表現する彼に肩をすくめて見せる。

これで、彼は意外に面倒見の良い方だ。

入学当初、どうにもひ弱そうな人見知りの激しい少年に、ついつい世話を焼こうとしたのはむしろシリウスの方だ。

おとなしげな少年は、好意の安売りはめったにしない友人の手を、決して受け取ろうとせず、それに腹を立てて、なのに無視も出来なくて、やっぱりその少年のほうを見ていることに、友人はまだ気がつかない。

 

彼は時々、本当に不器用だ。

 

そこが良いところなんだけどね。

 

 

つぶやき

鹿帝王にとっては、まわりにある何もかもが好奇心の対象でした。
というはなし 

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