恋人は精霊



この病を抱えている以上、他人とのかかわりをなるべく少なくするのは、自分の安全のために必要なことだった。
だから、自分は恋人を持つつもりはないといったが、シリウスはまったくそれを意に介しない。
俺は人間じゃないから、人のための安全対策は必要無い、といわれて、リーマスはそのことをつい失念する自分の迂闊さに腹を立てる。
彼は獣の姿と人の姿を自由に変えるが、どちらにせよはっきりとした実在感があって、話すことも触れ合うことも出来るので、リーマスはしばしば彼が人間ではないことを忘れている。
彼の説得にはべつの理由付けが必要になる。
私は同性の恋人を持つつもりは無いんだ。
異性でも同性でも持つつもりはなったが、とりあえずそれでこの議論を終わらせるつもりだった。
ああ、そいうことか。
彼は納得したように呟いた。
その態度にリーマスがほっとしたのもつかの間で、彼は晴れやかに笑う。
俺達の存在は人間と違って肉体に依存する訳じゃない。
女の身体の方が良いならそう言えば良いのに。

いや、そういう意味じゃないよ、という言葉は口の中で空しく消えた。
黒髪の女神のような美女が目の前に居た。
闇色の髪、夜色の瞳の優美な女性の姿をしているのに、その漆黒の中に光の砂子を降りまいたような輝かしい気配はまったく変ることが無くて、リーマスを感心させた。
なるほど、肉体に依存しないというのは、こういう意味なのか。
なんと言うか男の姿でも女の姿でも獣の姿でも本当に美しい人(人ではないが)だなあ、とうっかり見とれてしまう。

どうだリーマス、きれいか?
ちょっと得意そうに自分を見る美女に思わず噴出す。
妖艶といえるかもしれない姿態の内側には、子供の様に真っ直ぐな感情が見え隠れしてそのアンバランスさもやはりシリウスそのままだった。
笑いを抑えるのに苦労しつつも視線を戻すと少しむくれた表情がこちらを見ている。
いや、すごく綺麗だよ、本当に。
笑ってしまったのは…目の前にいるのははっきり女性で、すごくきれいな人で、なのにやっぱりシリウスだとわかるから、だった。
ならこれで問題はあるまい?
ずい、とシリウスが近付いた。
なんの問題かを思い出し、あわてて再度説明しようと開きかけた口は、柔らかく紅い口唇で塞がれた。




つぶやき

超書きかけ。
精霊の住む古い森に調査に出かけた研究者(狼人間)と、そこにほんとに根を張っていた精霊(その1)。もちろん黒い犬に変身できます。出会いと仲良くなれるまでのすったもんだは、今回まとまりませんでした。


’10.12.31

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