誤 解

 

冬の空気を玄関の扉で閉め出したとたん、リーマスはオレンジとチョコレートの匂いに包まれた。

どうやら台所から漂う甘い香りが、狭い居間を通り越し廊下に溢れている。

「おかえり」

伸び始めた黒髪をまとめ、腕まくりしてスプーンを動かす友人の笑顔につられて、自然に笑顔になる。

「ただいま、シリウス、いい匂いだね。

何を作ってるんだ?」

彼の手元をよく見ると、天板のうえには直径5cmほどの平たいチョコレートが等間隔に並んでいた。

「オレンジメレンゲのチョコレートがけ…こら、つまみ食いをするな」

「?」

手を伸ばしかけたところを制止されて、改めて友人をみる。

「お茶の時間のお菓子じゃないのか?」

「これからココアをまぶして冷ます。

これは夕食のデザートだ」

「……そんなに甘い物が欲しかった?」

「…お前の分だ」

しばらく考えてみるが心当たりは無い。

天板のチョコレートはほとんど同じ大きさだったし、間隔は測ったみたいにそろっている。

彼の手はボールを置いて、今度はココアの粉末をチョコレートの上に叩いていく。

危なげなく動く手に、友人はほんとに器用だなあ、と感心する。

「今日はなにか会ったっけ?」

「別に何も無い」

手を休めずにシリウスは続ける。

「いろいろ考えたんだが、これが早そうだからな」

そういって、シリウスが自分を見て笑った。

「?」

「ここに来て半年、俺の身体は大分回復したが、

同じ食事を取っているのに、お前はちっとも体重が増えないだろう?」

指摘されて、自分の腕をおもわず見てみるが、変ったとも変らないともわからなかった。

「もっと食べる量をふやすべきだ」

「以前に比べれば、増えたんだよ。

三食ちゃんと食べるわけだし」

オレンジメレンゲののった天板を持ち上げながら、シリウスが断言した。

「摂取量が増えるなら、体重だって増えるだろう?」

「そりゃそうだけど…」

まるで、きちんと食べていないといわんばかりの口調に、

子供じゃあるまいし…、と言いかけておもいついたことを口にした。

 

「ああ、最近、運動するようになったから、その分のエネルギー消費量が増えたんだよ、きっと」

 

天板が、シリウスの手からテーブルへ墜落しがちゃんと音をたてた。

 

 

'06.11.13 

つぶやき
最近、先生はパッドフットと一緒に、毎日2時間くらいは散歩をする。
なのにシリウスが動揺したのはヤマシイ心当たりがあったせい。



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