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 かつて、彼は自分から誰かに触れようとはしなかった。

 触れないように細心の注意を払っていた。

 自分達といたあのときですら彼はもはや習性と化した用心深さを手放そうとはしなかった。

 持ち前の強情さと慎重さと鈍感さで誰にも触れないように、誰からも触れられないように。

 だから自分はあのとき彼がまっすぐに近寄って自分を抱きしめたことに心底驚いたのだ。

 

 

 

「お前はこの関係をどう思っているんだ?」

 不意にこちらを覗きこんだシリウスが、恐ろしいほど真剣な顔で質問したとき、リーマスは彼の表情の深刻さに質問の意味をしばらく吟味した。

 自分が現実にダンブルドアの手駒として動いていることへの反発…はたぶん無いとして、ウォルデモードへの対抗勢力として現在の自分たちがおかれている立場の危うさのことか

 それとも人狼が脱獄犯をかくまうというリスキーな状態のことか。

 余りにいろんな想定が出て、今一度確認すると果たしてシリウスはがっくりと項垂れた。

「寝室で寝間着姿でキスをしているというこの状況において、そういう返答を返せるあたりはまさに『ムーニー』だな」

 リーマスが思わず詫びそうになるほど疲れた声が呟いた。

「俺が云いたいのは、同性の人間とそれも元友人だった男とベッドと時間を共有するというこの二人の関係をお前がどう考えているのか、だ」

 元友人というのは当たらない、君は今も私の大切な友人なのだから。少し驚いてリーマスがそう言うと、シリウスの顔が歪んで、リーマスは更に驚く。シリウスがむしろどこか不安そうな目をしている(彼は相変わらず全ての感情が表情に表れる)のに気がついて、困惑する。

 シリウスはなにか問題がある、と考えているのだろうか? 

 彼の言う『この』関係が、リーマスにとって何か問題があるのかといわれれば否である。

 さすがに対外的に説明しづらい関係だとは認識があったが、誰かを危険にさらす可能性はないし、迷惑になっているとも思えなかった。

「…ああ、でもハリーには説明すべきかな…たしかに難しいね」

 シリウスは目眩を覚えた。認識がかみ合わない、どころかどんどんズレていく。

 業を煮やして、ふっと彼に唇を寄せると、リーマスはかすかに引くそぶりを見せる。

「…ほら、やっぱり怖がってるだろう?不快じゃないのか?」

「ああ、いや、キスは確かに少し苦手だけど、こういうのはたぶん慣れなんだろうし、べつに…不快じゃない…」

 言っているうちに、リーマスはしばらくじっと考えるような表情をして、目がこちらに向いた。微かに首が傾く。

 リーマスの腕が伸ばされて、彼はゆっくりと、強く抱きしめられた。

 それから腕の力は幾分ゆるみ、肩にリーマスの頭が乗せられる。

「…うん、こうやって君を抱きしめるのも、君に抱きしめられるのも、私は好きだよ。

私はこの時間が好きだと思う、よ。たぶん」

 ずいぶん頼りない答えだ、とその肩を抱き返しながら考える。

 シリウスは実のところ更に、たぶんというのは何だ?とつっこみたかった。もともと疑問をそのままにしておける性分ではない。しかし結局は、自分の疑問を肯定されたら2度と口に出来なくなった言葉を音にすることを選んだ。

 

「好きだ、リーマス」

「うん、私も好きだよ」

 そして彼は、溜息をつくかわりに太平楽な恋人の口唇をさっさと塞ぐことにした。

 

 

つぶやき

 

『誰の迷惑にもならない』には生産性が無いという意味も含まれてます。だから先生の倫理規定には引っかからず、気にしてない。

先生の感情は思いっきり未分化です。友人も愛人も家族もごちゃです。

彼のカテゴリーには『大事な人』と『その他』の二つしかない。

憎しみも悲しみも『大事な人』だから抱え込む感情です。大事な人が欲しがるもので自分が提供できるものなら生命だってあっさり出すでしょう。

もともと倫理観とか言う代物はシリウスさんとは思いっきりずれてます。ある意味危険人物です。まあ、感情爆発黒犬男も危険物ではあるけどさ。

春だもの、ピンク色使おう! …なんて…バカの考え休むに似たり… 


’04.03.16 



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