この世界の何処かに咲く花を彼女は愛する

 

 

自分のどこに自己があるのか分からない

それは僕の抱える唯一最大の問題だった。

 

常に相対する人間の感情を的確に予想し、相手の望む対応を取る。

結果についての予測は外れない。

鏡のように他人を的確に把握できること。

対象と自身は同一ではありえないのに。

 

自己のあやふやさを補う代わりに僕は自分の能力を試す。

難しくて複雑な案件を見つけてはそれを解決すること。

他人から見て下らないことも一見有意義なことも関係無くそれを設定していく。

解決のためには幾つものハードルを自分に設ける。

付随する条件は多ければ多いほど、厳しければ厳しいほど愉しい。

それは自分の感情を明確に感じられる数少ない機会でもある。

 

この学校で、僕は今まで見たことの無いいろいろな人間を見ることが出来る。

この目の前で僕の仲間のレポートを手伝っていた赤い髪の少女もそうだ。

彼女に質問するのは面白かった。

はたして生まれが異なるとこうなるのか、

彼女は、僕が予測する答えを返したことが無い。

それは僕にとって、とても貴重なことだ。

 

いつものように僕はおもいついたことを質問する。

 

愛する人と世界とを取引にだされたらどちらを取る?

 

世界、と簡潔に彼女はいった。

彼女は、大事な人間を持たないようなタイプではなかった。

なにより、自分の願望のために他人を供するようなタイプでもなかった。

僕はその理由を尋ねる。

 

何も無い処へ大事な人間だけ残そうとしても結局その人は生きていられない。

その人だけが助かるのでは本当は取引の意味が無い。

 

だからわたしは世界を選ぶ、と。

 

答えの簡潔さと裏腹の貪欲さに眩暈のような誘惑を感じた。

取引を迫る神に向かって、リリーは言うだろう。

自分たちに手を出すな、と。

大事なものが無くなったら、世界がどうなろうと僕には興味がない。

興味の無いものが目の前に在ったからって、それが何になるのか解らない。

僕には彼女が解らない。

そして気がつく。

 

僕は彼女を映さない。

彼女の前で僕は鏡ではない。

 

息が詰まるような感情の高ぶり。

なんてことだ、なんてことだ。

彼女の前で僕は鏡ではありえない。

そして急速にそれは収束する。

 

 

彼女はこの世界に恋をする。

それがどれほどの貪欲さなのかも気がつかず、この世界を等しく愛する。

彼女に愛されるということは、途方も無く恐ろしくて、魅惑的な状態だ。

 

 

 

 

今、なにになりたいか?と聞かれたら、僕は答えるだろう。

彼女に愛されるものになりたい、と。

政治家や代表選手になるより遥かに難しい課題だ。

当然、そのための努力は多大なものになって、僕に休む暇など与えないだろう。

 

それは悪くない生き方だ。

 

たぶん。

僕は彼女に恋をした。

 

 

つぶやき

ああ、ついに百合鹿でバレンタイン更新…

 

09.02.14


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