おやすみのキス
夜半、二人でジェームズ達のアパートを出ようとした時だった。
ジェームズが玄関でリーマスを呼び止めておやすみ、といって彼にキスをした。
リーマスはちょっと驚いて、小さく笑っておやすみジェームズ、とキスを返す。
それから傍らのリリーが、冷え込んできたから貸してあげる、と言ってリーマスの体に肩にかけていた淡いオレンジの大判のショールを巻きつける。
そして同じようにおやすみのキスをリーマスに贈る。
一番あったかいショールだから、とリリーが言い、借りられない、と呟いたリーマスに、だから必ず返してね、と笑いかける。
リーマスはちょっと固まって、それからやっぱり同じようにおやすみなさい、とキスを返す。
すこしはにかんだようなリーマスの笑顔に雪が降りかかる。
こっちを向いたジェームズが突然にやりとした。
「なんだ、うらやましそうな顔をして。
お前もほしいのか?パディ?」
「…お前のキスなんぞいるか!」
もれなく奴の呪い付き、うなされるに決まっている。
「ああ、じゃあ私があげましょうか?」
脇でリリーそれ贔屓じゃないの、と阿呆がいい、リリーの後ろでリーマスが笑う。
「…いえ、遠慮しておきます」
眼が笑ってないぞ、リリー。俺はいったい何かしたのか?
「ずいぶんだね」
そういって襟首をつかまれた。
リリーの眼がまっすぐにこちらを見上げる。
「あなたもリーマスにあげればいいでしょ?」
キスの代わりにささやかれた言葉に、俺は多分、酢を飲んだような顔をした。
二人で、駅までの道を歩く。
「なにもらったんだ?」
「リリーからは携帯救急魔法のセット。
ジェームズが手製の特大花火型煙幕玉セットだって」
…ろくなもんじゃねえ、とつぶやくと、ジェームズの特製じゃあね、といってリーマスが笑った。
「シリウス、今日はありがとう」
笑顔。
久しぶりに見る屈託の無い、彼の笑顔。
うん、今日は。
今日くらいは。
一歩近付いて、リーマスの頬にキスをする。
「おやすみ、リーマス、いい夢を」
うっすらと積もり始めた雪の中、暖色のショールに埋もれかかった顔に、もう一度笑顔が浮かんだ。
つぶやき
ネズミはたぶんチョコレートの箱を。
黒田は魔法生物学の小さな古書を。
ハリー誕生前ってことで。
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