彼女にキスすると中庭中の枯れ木に花が咲いた




 

リリ−とのはじめてのキスは、記憶にある限り最悪の状況だった。

 

その数日前に僕とシリウスは彼女を怒らせたばかりだった。

薬学の時間にスネイプの鍋に膨れっ面粉(もちろん僕の特別調合だ)を放りこむ瞬間を見つかったのだ。

彼女は当然それをスネイプに伝えようとし、…鍋が拭きあがった。

危うくリリー(とスネイプ)はまともに被るところだったが、僕はとっさに魔法で空気の笠を張って(結果的に)二人を守った。

スネイプの調合ミスと思った教授は、彼に注意を促し、彼女(…達)を守った僕を誉めた。

 

教授に告げるタイミングを逸した彼女は、僕の仕業と言い損なったわけだが、以来僕を見てくれない。

 

夕闇に暮れかかる石の廊下で、僕の方を一瞥たりとしないで足早に歩くリリーに、僕はずっと食い下がって彼女の視線を振り向けようとしていた。

夕焼けが彼女の紅い髪を金色に縁取っていた。

延々と紋きり型の返事しかしてくれない彼女に、ちょっと驚かすつもりで、僕はキスをしようと考えた。

 

彼女のバラ色の頬に。

 

それだけだった。誓っても良い!

 

…まあ、そんなことをされて、彼女が怒らないわけは無いのだが、結局は最悪のタイミングを選んだらしい。

最前の話題がリーマスのことだったからかもしれない。

振り向いた彼女の顔が何かを言いかけたまま凍りついた。

僕等はこれまで無いほど至近距離で目を合わせていた。

2人とも、目をまん丸にした状態で。

柔らかい唇の感触に、思考が消失して僕は一瞬真っ白になった。

クディッチの優勝決定戦でだって無かったくらい心臓が大きく鳴った。

状況なんて頭から吹っ飛んだ。

為す術なんか本当にまったく無かった。僕は動転した自分というものを10数年ぶりで見出した。

何処かで何かがつぶれるような音がして、それが自分から出た声だと気がついたのはあとのことだった。

…僕の身体は巨大な皮表紙の本を抱え込んだまま、中庭の噴水に突っ込んだ。

 

 

 

こんな最悪の状況で、僕ときたら熱が出たみたいにぼうっとしていた。

こんな大失態をどうしようかと、堂々巡りする思考を横目に、彼女の感触を頭の中でこれまたぐるぐる繰り返した。

泣きたいのか、歓んでいるのか。

そんなことすらわからない。

 

頭に浮かんだ呪文を大声で唱えた。

 

中庭の樹と云う樹が、灯りをともした様に花を咲かせた。

気温の下がり始めた晩秋の夕映えのなかで。




つぶやき
あれ?
…この鹿帝王、なんか可愛い…


05.12.30


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