ハッピーバースデー


人気の無い昼下がりの談話室で、読む気もなしに呪文集をめくっていたら、イキナリ笑顔全開のジェームズが俺の正面に座った。
「シリウス!君の無駄に豊富な経験を、僕が生かしてあげようではないか!」
「…何が言いたい」
「今年こそリリーの誕生日プレゼントをかっこよく決めたい!」
「…かっこよくも何も、箱に触ってももらえない状態じゃ…」
「何か言ったかわが半身よ?」
「…わかった。わるかったよ本当のことをいって。喉から杖を外せ」
目がマジだ。逆らわないでおこう。
「…まあそうだな、相手の好きなものを送るというのはオーソドックスだろう?
外れる確率は少なくなるし、喜んでもらえる確率も上がるぞ?」
「彼女の好きなものは…本と花と鳥とカエル、それから…」
「いや、それくらいで良い。その中からこれはと思うものはないのか?」
「リリーだったらカエルだろう…、しかしただカエルを贈ってもつまらない。
強力に自分をアピールできなくてはライバルに勝てない。…カエルの手触りのドレス…」
はたして女がそんなものを着るだろうか…
「…それはどうかと思うが…」
「カエルになれるドレス…」
「やめろ、ジェームズ。いくら彼女が物好きでもカエルになるのが好きだとは思えないぞ」
「では、カエルが集まってくれるドレスのほうが喜ぶだろうか?」
「どうやって?」
「彼女がカエルの好物にみえる魔法をかけるとか」
「カエルの好物…?」
「ハエかバッタ…」
「生命が惜しいなら止めろ」
奴の発想は根本的に問題がありすぎる。
「…他のやつが贈って喜ばれたものは何だ?そういうところから考えようぜ?」
「去年、リーマスは植物成長呪文のを本を贈った。その前が鳥寄せ呪文のかかった手袋だった。飛び出す南の鳥の図鑑を贈ったのはフォンツイ。月光薔薇の苗を贈ったのはチャペックだった。下級生の女子生徒が何人かで描いたカエルが本物そっくりに動く羽根ペンを渡していたのは見た」
「お前は?」
「実物そっくり竜花火セット」
…去年談話室半分焼いたあれか?お前のだったのか?
談話室のテーブルで置き去りにされていた箱を生徒が開けたとたん、チャイニーズファイヤーボールが出現して部屋を飛びまわり、箱を開けた5年生男子は髪の毛がアフロヘアになった。
「彼女はまだ竜を見たことがない、あこがれているって、同室の子達から聞いて、中国からわざわざ取り寄せたんだ…」
つまり、リリーはプレゼントを置き去りにしたのか。…まあ、その判断は正しかった。
リリーや同室の女生徒たちをアフロにしていたら、半殺しにされても文句は言えないところだ。
「…おまえ、箱を開けたら問答無用で飛び出して暴れるような代物を、女の子に本気で喜んでもらえると思ったのか?」
「彼女の精神は非常に柔軟で好奇心と向学心に溢れている。
彼女はあれで人を驚かせるのも、驚くのも好きだよ」
「お前に関して以外はな。
…わかったから、杖から手を放せ」
こいつの場合、警戒させないためにも包装なんかしないで渡したらどうだろう?
「いっそ、マグル界で探してくるんだな」
「なぜっ?マグル生まれのリリーにマグル製品を贈ってもインパクトに…」
「リリーに受け取ってほしいなら、魔法がかかっているものは贈るな、お前は。
これが俺の心からのアドバイスだ」
「…そうか。…うん、今回はそれで試してみよう…」
うんうんとうなづいて、ジェームズを見送る。
うなだれて談話室を出ようとするジェームズ。
黙って見送ったが、結局、手の中の本を閉じると、ドアに向かった。



'11.01.03

つぶやき

正確には、ハッピーバースデーをいうために、だな。
最後に、
シリウスはジェームズがちょっとかわいそうになった。
シリウスはリリーがちょっとかわいそうになった。
シリウスは、あとで八つ当たりされる自分がちょっとかわいそうになった。

どれでしょう。




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