手触り
私は二人ですごすこの『時間』を気に入っている。
うっかり感覚に流されるままに振舞えば、翌日は起き上がるのさえ辛いことになるのだが、止めようと言うつもりも無い。
好意と、ちょっとした独占欲と、たまに悪戯心と茶目っ気と。
シリウスはどうやら私よりは気遣いとか心配とかが混じることもあるようだが。
彼は昔から、ひどい悪戯をしかけて楽しむのと同じその思考回路で、人のことを真剣に案じたりも出きる人間だった。
なぜ、それが個人の資質として両立し得るのか、当時の私にはなかなか理解しづらいものがあった。
彼は自分の行動に関して極めて真摯で、感情に率直なのだ。
私達が自分たちの関係を改めて認識しなおすことになったとき、私は彼の真剣としか言いようの無い顔を眺め、そのことを思い出すに至った。
頬を擦り付けるようにして首筋にキスを落とす。
小さな笑い声が上がって、彼の手が自分の肩や背中を覆う。
囁く様に耳に落とされた彼のキスに、少し背中がすくみ、自分の口元からも忍び笑いがこぼれ出す。
言葉にすれば楽になるような気がするが、複雑なこの感情に対する正確な表現を思いつけない。
なので自分は何も言わないまま、彼の耳元で彼の名を囁く。
お互いが相手の着ている物を剥がしていって、直に相手の皮膚をさぐる。
与えられる刺激は脳内で止むことなく発光して意識を焼いていく。
羞恥心とか恐怖心とか、これまでの12年間、忘れた事の無い外界への警戒まできれいに吹き飛んで、強い感覚に飲みこまれて溺れる。
それは決してイヤな事ではない。
自分が触れるのは何とも感じないのに、他人の手が触れるとそれが強い刺激として感じられるのは何でだろう?
もちろん触れる相手が好悪どちらにせよ何らかの強い感情を抱いているのが前提だとしても。
感触、匂い、姿形、声という可能性も十分にあるだろう。
何が引き金なのだろうか?
以前シリウスは、こうして過ごすときは、要求でも希望でも感想でも押さえる必要なんか無い、と言った。
が、それじゃあ、と、このことについて私が幾つか質問すると虫歯を我慢するような顔になって、そういう話題は別の機会にしないか?と言われた。
そういうものかと考えてそれ以後、質問については後で聞こう、と考えるのだが大概忘れてしまってそれっきりになる。
…まあ、色々と考えてしまう事もあるが、概ね私はこの行為をそれなりに楽しんでいる、と思っている。
つぶやき
悩まないバージョンと、悩むバージョンがあります。
でも、今自分が疲れているから悩まない方で。
うん、でも本当に『接触』って不思議ですね。
他人が触れるのと自分が触れるのでは全然違う。
知ってるとか、知らないとかで想起される感情がまったく違う。
物理的には同じ強さであってもですよ。なんかなあ。
接触の強度とか予測が出来ないからとかあるのだろうか?
05.12.30