御伽噺




 薄い闇の中で、横たわりながら、何処かさえたままの精神をもてあますとき、隣の友人になんでも云いから、一人だったときのことを話してくれないか、と呟く。
 そう、本当になんでもいい。孤独にされたことへの苦痛でも、自分への怨嗟でもいいから。
 しかし、彼は穏やかな声で、自分の見た光景や出会った人のことを話す。
 ベッドに持ちこんだ本の中から悪戯や冒険のきっかけを探し出すように、彼にしては幾分楽しげな声で、いろんな話をする。

 やわらかな声から映し出される風景は何時もきれいだったり、優しかったりする。
 その目は、美しい世界ばかりを見れたとは思えないのに、それでも彼の語る世界は美しい。
 旅先で出会った印象深い人物。
 以前住んでいた家の近所の猫や白い花の咲く大きな古木。
 仕事で訪れた異国の風景。

「…すごいんだよ、庭園のように駆りこまれた土の道が矩形に土地を区切っていて、畑と言う畑がすべて水を張られていて、そこに枯れもせずに作物が育っているんだ。何日間も一日中雨が降って、空気まで水中のように重くなってね…」
 それなのに、気温がロンドンの真夏より高くて、なれない私にはかなりきつかった、と彼は小さく笑う
 なんでそんなところに住んでいるんだ?と呟く。

 僕らにはとんでもないところでも、彼らにはそれが当たり前の季節なんだ、と彼が返す。
 自分の常識が通じなくて、くらくらした、とも。

 彼がアジアの東端の国へ行ったのは、何時のことだろう?
 彼が過ごした、自分の知らない時間。
 彼がたった一人で過ごした時間に美しいものや優しいものがあることに安堵する自分がいる。
 その身勝手さ、醜さを自覚しつつ、止めることもまた出来ない。
 彼の語る光景を想像してみる。
 庭園のような緑の空間。島のように浮かぶ屋敷森の家に住む人々。
 豊かな森に覆われた山々と小柄で妖精のような若々しい人々。

 雨季が終わると今度は強烈に日差しが照りつけて、昼間は物の形が良く見えないくらいになった。周り中の木立からとんでもない音量で虫が鳴くんだ。びっくりしてあれは何かって、ホストに尋ねたら、2インチも無いような虫が鳴いているんだって教えてくれた、と指で目の前に大きさを示す。
「カッパの保護システムは面白かったよ。かなり積極的に地域のマグルが保護していて、驚いた…」
 カッパの好物を、毎日川へ置きに行くんだ。
 冗談にも、捕獲に来たなんて口にはしないように、と注意されたよ。あの地域のマグルにとっては、カッパは幻獣じゃない…友人や親戚みたいなものなのだからって。
そういって、楽しげに笑う。

 夜の川面に飛ぶ、光る虫の乱舞。
 言葉も通じない老人の寄越した果物の形。

 やつれた頬やかさついた手の皮膚の内側に、彼が持つ美しい世界に触れる度、僅かづつ自分の内側も和いでいく。

 乾いた身体に、水を注がれているような錯覚を覚える。
 自分が彼にもたらした孤独を思い、彼の抱える世界を思うとき、自分は静かに祈る。こんなふうに、彼に返せるものが自分にもあれば良いのに、と思う。彼を癒せる手を、持っていれば良いのに。そう思いながら、彼の声を聞く。抱き合うわけでもなく、眠りにつくまでの時間を、時々、こうして過ごす。





つぶやき

…夜伽話(違)。
こういうのも寝物語と言うのか悩む。

カッパ捕りだし、一応フェアリーテイルで良いよね→御伽噺。

ああもう。



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