溺愛

 

 

 

犬に抱きつかれても彼は笑い声を上げて、無防備に抱きしめて首に顔を埋める。

彼の警戒心は極端に下がって、目許や口元にキスをしても怒らない。

すごく嬉しそうな、子供のような表情をする。

ちょうどよい力で耳の下や喉や額をかくときの楽しそうな顔

彼の心理状態は確実に伝わって、自分は安心して身体を伸ばす。

 

リーマスは心理的な距離において明らかに両者を別物としている。

たとえば人の姿で目許にキスをすると、彼はいかにも困惑した顔でこちらを見る。

そのたびに自分は抱きしめようと廻しかけた腕を解く。

いったい、この違いはなんだろう?

そもそもどちらも紛れも無く『俺』なのだ。

何時だって、リーマスを抱きしめたいし、抱きしめたいし、笑いかけて欲しいし、

犬のときのように抱きしめてくれれば良いのに、ともおもう。

人のときにはあんな笑顔が見られないのは非常に面白くない。

 

…ああ、つまり自分は今のこの状態が不満なわけだ。

 

俺は黒い犬の姿で、彼のそばによる。

ソファで本を読む彼の隣にのって丸くなる。

彼の左手が、犬の首をなでる。

毛皮の横に感じる気配がまるくなる。

彼が嬉しそうにするから、匂いでもそれがわかって、自分はそれにうっとりする。

笑いかけた彼の気配が広がって、手の力がゆっくりと大きくなる。

そのままうっかり眠りそうになるのを堪える。

彼の手が毛皮を滑るたび、左右に揺れる尾をくるんと丸めて、体を起こす。

突然人に戻った俺に驚いたのか、彼の手から本が滑り落ちた。

足もとの本を拾い、テーブルの上に置くと、彼の顔を見つめる。

すぐ緊張したのが分かる。

 

 

 

『リーマス、話がある』 

 

 

 

 

つぶやき

黒田さんは自分たちの関係をもうすこし肯定した上で、明確なカテゴリーにあてはめたいと考え始めたようです。
犬に向けてる笑顔を人に向けて欲しいとか、はっきりいって、犬の自分にヤキモチデス。

彼が駒を進めたことで、盤上の動きは新たな局面に。



'06.10.31



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