ネクタイの益と害
ネクタイは交感神経刺激
木下眞二 (2005年6月3日記載)
政府が提唱する夏の軽装化(愛称・クールビズ)で、衆院の予算委員会では、閣僚席に、小泉純一郎首相らも(普段締めている「逆縞ネクタイ」を止めて)ノーネクタイで並びました。日本では、職場を始め、公式の場所では、男性はネクタイを着用することが義務づけられてきていました。ここで、ネクタイを締めることの益と害について、考えてみたいと思います。
ネクタイを締めていない場合は、本人はリラックスした感じがするけれど、周りから見ると、緊張感を欠き、なんとなく、だらしなく感じられるようです。できれば、ネクタイ無しで、リラックスした軽装で行きたいところですが、周りの人たち、とくに上司に、仕事に緊張感を欠いていると思われないように、しかたなく締めていく人が多いように思います。
このような感じに、正当な理由があるのでしょうか。
首を強く絞めると迷走神経反射で失神
ネクタイは首を(「締めて」ではなく)絞めているのです。首の前方の左右には、頚動脈があります。心臓から大脳に血液を送る重要な動脈です。触ってみると、脈動しているのがわかります。ここを、強く絞めると、迷走神経(副交感神経)が、反射的に刺激されて、一時的に心臓が止まり失神します。柔道の「絞め」(今は「締め技」)です。
このような「急所」は、首だけでなく、顔面にもあります。眼球の上部を圧迫することによっても、同様な迷走刺激反射が起こります。(木下眞二、真下啓明:心室の自律神経支配:迷走神経興奮によって刺激生成が抑圧される心室性副収縮の1例よりの考察.心臓1:1185‐1194、1969; Kinoshita
S, Konishi G, Okada F: Differentiation between parasystole and reentry in
concealed bigeminy. Cardiology 81: 100‐106, 1992)
ネクタイは交感神経を刺激
このように、首を強く絞めると、迷走神経反射で一時的に心臓が止まります。しかし、その前の状態で、圧迫の程度がそれほど強くない状態では、かえって、脈拍数が多くなっています。迷走神経緊張によって起こる失神を防ぐために、反射的に交感神経が刺激されるためと思われます。血液中にアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されるためと思われます。
自律神経には、交感神経と副交感神経(迷走神経)があります。一般に、仕事をしている時の緊張時には、交感神経が支配的に働き、休んでいる時のリラックス時には迷走神経が支配的に働いています。
ネクタイなどで、首の部分を、ゆるく圧迫した状態では、こうした適度の緊張状態をもたらし、仕事を進めていく上で好都合と思われます。
首以外の部分でも交感神経反射
このような交感神経反射を誘発して、適度の緊張感を起こす「急所」は、首だけでなく、他にもあります。眼球の上部を軽く圧迫すると、交感神経反射が起きて、「目覚め」の感じが起きます。現代人は、朝起きると、顔を洗うのが通例です。しかし、「顔を洗う」のは、「顔の汚れを取る」のが主な目的でなく、軽い眼球圧迫と温度刺激による交感神経反射を介して「目覚めさせる」ことが、主な目的と考えます。
相撲で力士が、最後の仕切りに入る前に、顔面を軽く叩くのも、交感神経反射を利用しているものと思われます。
管理者にとってネクタイは有利
このように、ネクタイを締めることは、適度の緊張状態を保持させ、仕事を能率的に進めて行く上で、管理者にとって有利なことと思われます。ネクタイだけでなく、他の服装についても同様のことが言えます。軍隊を始め、制服の詰襟も、頚部を軽く圧迫することで、緊張感を持続させます。頚部以外でも、帽子、ベルトによる圧迫も、同様の交感神経刺激を介して緊張感を保持させるものと思われます。
このような一律な服装は、集団に緊張感を持続させて、一体感をもって、効率的に仕事を進めて行く上で、管理するものにとって、好都合であると考えます。
持続的交感神経緊張は長期的疲労をもたらす
しかし、一時的には、緊張感を高め、仕事を能率的に進めて行くには効果的だが、長時間のアドレナリン分泌による交感神経の緊張状態は、身体的疲労を蓄積させます。長期的には、血圧を高めたり、心臓や血管に持続的負担を与え、ストレスによる生活習慣病を起こしやすくすると考えられます。管理者にとっては有利だが、個人の健康にとっては、負担を強いられているように思います。男性と女性の平均寿命の大きな違いの原因の一つに、服装の違いもあるかもしれません。
個人生活のための服装と、集団生活のための服装の違いを、区別して考えることが大事と思います。
(なお、余談ですが、「俳句は迷走神経リズム」と考えますので、背広、ネクタイでは、名句が浮かばないのではないかと思います。)