血圧に対する温泉の効果




昭和31年昆布川温泉 地域住民の温泉浴

加藤広三: 温泉浴の循環機能に及ぼす影響
日本温泉気象学会雑誌 24: 258−273、1960 より

 

ほっとするひととき

 日本人にとって、風呂、温泉は、最も「ほっとするひととき」です。

私の勤務していた女子大学で、アンケート調査した「ほっとするひととき」でも、一番多かったのは、「風呂に入っているとき」「温泉に入っているとき」でした。

二番目は「ベッドやふとんに入ったとき」、三番目は「おいしいものを食べているとき」でした。

高度成長の頃、会社で疲れきった亭主が、家に帰って奥さんに言う言葉は、「ふろ」「めし」「ねる」の三つだけ、と言うことを思い出します。

最近の小学生の調査でも、「風呂」「温泉」が、「ほっとするひととき」のベストスリーの一つになっています。

昔も今も、男も女も、おとなもこどもも、日本人は「風呂」「温泉」が好きなようです。


温泉と血圧

 血圧はストレスによって上がることが知られています。このような日本人の温泉好きからして、高血圧の人の血圧も、温泉浴によって安定することが予想されます。

昆布川温泉で地域住民について、調査してみました。


温泉一回浴の血圧に及ぼす効果

 熱すぎる湯に入ることは好ましくありません。とくに、重い心臓病などのある人は、注意しなくてはいけません。入浴の前に心電図検査などで、このような人が居ないことを調べておきました。

調査は、38度から39度くらいの、ぬるめの温泉に20分間入浴する人たちと41度の温泉に10分間入浴する人たちに分けて、入浴前、出浴後の血圧を測ってみました。

 最高血圧(収縮期血圧)の変動(平均値)を、次の図の上の方のグラフで示してみました。



温泉浴による血圧の変動

 破線で示すのは、38度から39度のぬるめのお湯に20分入浴した22人の血圧の平均値です。

最高血圧は、入浴前は30分以上安静にした後で、112から230mmHgの間にありました(平均157.7mmHg)。

出浴直後から、血圧は下がっており(平均15.7mmHgの低下)、出浴後30分では、入浴前に比べ、平均17.8mmHgと、著明に低下していました。

その後、徐々に、もどってくるが、120分後でも、入浴前に復していませんでした(13mmHg低値)。

 最低血圧(拡張期血圧)でも、同様の傾向が見られました。また、41度10分浴でも、同様でした。


血圧の高い人だけが下がる

 次の図は、41度10分入浴の22人で、入浴前の最高血圧の値と、出浴後、最も下がった時の最高血圧の差との関係を示したものです。



浴前最高血圧と 浴後最高血圧最大変化量との 相関図
(41度10分間)

 入浴前の最高血圧が150以上の人たちでは、高い人ほど、浴後の血圧が下がって安定した値になっています。

一方、入浴前の最高血圧が150以下の人たちでは、浴後、僅かに低下しているだけです。つまり、過度に低血圧を起こすことはありませんでした。


連続浴の血圧に及ぼす効果

 このように、最初に血圧を測定した人たちに、その後も連続して入浴に来てもらいました。すべて、地域住民の人たちで、いつもと同じ生活を続けたままの状態で測定に来てもらいました。

 次の図には、入浴前の最高(収縮期)血圧、最低(拡張期)血圧を示してあります。



連続浴による血圧の変動

 最高血圧は、2日目より明らかに下がり、3日目には、さらに下がり、その後、7日目までも低い値を保っています。

最高20日間観察した例もあるが、依然として、低い値を保ったままでした。

 最低血圧についても、同様の傾向が見られました。

 次の図は、連続浴で、最初の日の入浴前最高血圧に対し、最も低下した変化量との関係を示したものです。



浴前最高血圧と 連続浴における最大変化量との 相関図

先に述べた一回浴の場合と同様に、150以上の血圧の高い人は、良く安定して下がっていますが、150以下の人では過度に低下することありませんでした。

 これらの調査結果から、重い心臓病などの障害のない人は、ぬるめの湯に長めに入ることが、高血圧の治療効果として、とても有効であると考えられます。

 この調査は、昭和31年に行ったものです。当時は、有効で副作用の少ない高血圧の薬はほとんど無い時代でした。それに比べると、温泉療法は副作用の無い有効な治療法の一つであると考えられます。

 なお、調査は、血圧の他に、健康相談、心電図、循環時間、バリストカルヂオグラム、心拍出量、指尖光量容積脈波などの測定を行いました。詳しい内容については、加藤広三君が論文としてまとめたものを、次に掲載しました。



加藤広三: 温泉浴の循環機能に及ぼす影響
日本温泉気象学会雑誌 24: 258−273、1960


















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