どうして日本の魚の絵は左向きか                   

追加 「オレンジページ」取材に答える

6月2日発売号「オレンジページ」「あなたの見聞帖」掲載予定

木下眞二

2006年4月

 

生活情報誌「オレンジページ」の編集部より委託を受け、「あなたに代わって見聞帖」という雑学のページを担当しております、フリーライターの東裕美と申します。

「オレンジページ」6月17日発売号の「あなたに変わって見聞帖」におきまして、「どうして図鑑の魚は左を向いているの?」というテーマで、1ページの原稿をまとめたいと思っております。

 

【質問事項】

@    日本の文字は本来縦書きで右から左に進むため、魚のイラストを挿入する場合は、その進行方向に従って魚を左向きにしたほうが、読んだときに違和感がないとのことですが、目が文字を追う進行方向と魚の進行方向が反対だと、なぜ違和感を感じてしまうのでしょうか。

答え:
 日本では、人間や馬の行進の絵が入っている、昔の長巻絵巻物では、文章の進んで行く方向に、人間や馬も進んで行くことになります。つまり、右から左に向かって進みます。その後、本の形になっても、ページの進む方向に、進行する人間や馬だけでなく、停止している人間や馬も、単数の場合は、左向きになったと考えられます。このように、(単数の)人間の左向きの絵が基準となって、魚や鳥の場合も、これに準じて、左向きになったと考えられます。魚の方向を決めるのは、右から左に進む、生きている魚であります。このような、古来の日本の慣習が、料理に使う死んだ魚でも、右向きになると、違和感を感じるようになったものと考えます。ただし、私のホームページで説明したように、魚の種類や、特殊な場合によっては、例外があります。

 

A    右利きの人は動物の頭を左向きにしたほうが絵を描きやすいとのことですが、右利きの人が左から右に向かって線を描くほうが手指が動かしやすいのはなぜでしょうか。

答え:
絵を描くときは、通常は、筆や鉛筆を持って描きます。これを右手で持つて、筆(または鉛筆)を、紙の上に置くと、筆先は左上に向きます。したがって、この筆を動かして、線を描くには、(左から)右の方向に、または、(上から)下の方向に、引いて動かすことが自然となります。魚は、横長なので、左から右に向かって引く線が基本となるように思われます。実際に、右利きの人に魚の絵を描かせると、ほとんどの人が左向きに描くという調査があります。(一方、左利きの人は、右向きに描く人が多いが、右利きの人との差ほど、比率の違いがありません。これは、「右利き文化」に先入観が支配されているためと思います。)以上のように、多数派である右利きの人は、左向きに、魚の絵を描きやすいと考えられます。和文の文章が左に進む日本では、これと一致して、魚の絵は左向きになります、しかし、右向きに文書が進行する欧米の国では、魚の絵は、多くは右向きになるが、左向きになることもあって混乱しているのは、このためと思われます。 
 なお、筆や紙がまだ無い古代では、事情が違うようです。漢字は象形文字です。「魚」という漢字は、魚の頭が上で、尾が下向きになっている状態を表しています。これは、漢字の出来た頃の甲骨文字は、亀の甲羅や牛の骨という素材の上にナイフで刻まれたからで、非常に硬い物体に刃物で直線を刻みつける時には、ナイフを左右よりも上下に動かす方が便利でした。(内林政夫さんより)
 (なお、現代でも、用具によって進行方向が違うことがあります。左官屋さんの道具と、塗装屋さんの道具では、進行方向が違うようです。私のホームページの「塗装は和文 左官は英文」を見てください。)

 

B    人は絵を描くとき大切な部分を先に描くので、魚の場合は頭、胴体、しっぽの順となり、左向きの絵になりやすいとのことですが、大事な部分を先に描くのは脳がそのように命令するからですか。なぜ、脳はそのような命令を出すのでしょうか。

答え:
残念ながら、脳の専門家でないので、確答できません。

 

C    欧米では魚の図鑑は右向きが多いものの、文字が左から右に進むほかの国でも、日本同様に左向を向いている図鑑があるとのことですから、魚が左を向いているのは文字の進行要因よりも、人種に関係なく人間の多くが右利きであることが大きな要因となっているということでよろしいでしょうか。

答え:
そのように考えます。しかし、アメリカでは、魚の専門書は、ページの進行と同じく、右向きになるように規定されているようです。(羽田野六男先生談) 

 

D    人は右側よりも左側にあるものに先に目が行くという説を読んだのですが、これは事実でしょうか。事実だとすると、どのようなメカニズムでそうなるのでしょうか。

答え:
これも残念ながら、脳の専門家でないので、直接の説明はできません。
動きのない、切手の(単数の)肖像画では、西欧のものでも、左向きの顔が多いようです。つまり、左顔が多いようです。児玉譲次さんの外国切手コレクションでは、39例中30例(76.9%)が左顔、9例(23.1%)だけが右顔でした。脳の解剖学が専門である児玉教授によると、「人間は右脳に情動の中枢があり、これは(神経が交叉するので)左顔に良い表情が出る」と言われているそうです。