駅前の鳩は毎日通勤して来る

木下眞二

2006年6月1日記載



1992年10月25日北海道新聞読者の声欄

「おばあさん」は私の母です

 

 札幌駅前には、いつも、百羽くらいもの鳩が居ます。駅前のドーム状の建物の屋根の上に、とまっていることが多く、餌をくれる人がやってくると、下に舞い降りて来るようです。

 私が駅前診療所の窓から、観察した状況を、次に述べてみます。


駅前の鳩は
 毎日「通勤」して来る

 日中、百羽もの大勢の鳩が居るのですが、夕方を過ぎると、一羽も居なくなってしまいます。

札幌駅前は、今は札幌一番の繁華街で、電光で、夜も明るいのですが、鳩は、どこにも見えません。

夕方、日が暮れ始めてくると、数羽から十羽くらいの鳩が群となって、飛び去って行き、日が暮れた頃には、駅前から、みんな、どこかへ行ってしまうようです。

 しかし、よく観察してみると、鳩の群によって、飛び去っていく方向が違うようです。

ある群は、駅前の西かどを回って、北に向かいます。その方向には、北海道大学の構内に、ポプラ並木や、イチョウ並木などの多くの樹木があります。

ある群は、駅前の西かどを、そのまま西に向かいます。その方向には、北大植物園があります。

ある群は、西かどから南に向かいます。その方向には、道庁前の並木があります。

また、別の群は、東に向かって行きます。その方向には、創成川の並木があります。

このように、それぞれの群によって、帰っていく所が違うようです。

 つまり、駅前の鳩は、同じ「住家」に帰るのではないようです。

それぞれ、違う「住家」から、毎朝、札幌駅前に「通勤」して来るようです。

そして、夕方になると、「帰宅」するという「通勤」生活を、土曜、日曜の休日も無く、一年中続けているように思われます。


餌をくれる人が出てくる入口を覚えている

 毎日、何人かの決まった愛鳥家が、鳩に餌を与えに来ます。

餌を与え始めると、いっせいに、その前に、鳩が群がって降りてきます。餌を与える人の、肩や頭の上にのぼってくる鳩も居ます。

 一部の鳩は、餌を与え始めてから降りて来るのではなく、いつもの人が出てくる時間と入口を覚えていて、その人が来る前に、入口付近で待って居るようです。


白い鳩が威張っている

 大勢の鳩の群に、一羽だけ、白い鳩が見られます。

その白い鳩が、他の鳩と違って、「威張っている」ように見えます。

その鳩が歩いて行くと、他の多くの鳩が、その後に従って歩いているように見えます。

どうして、「白い鳩」は「威張っている」のでしょうか。

 餌を与える愛鳥家は、なるべく多くの鳩に餌を与えたいと思っていることでしょう。

しかし、百羽もの大勢の鳩の違いを見分けて、皆に餌を与えることは困難です。

一羽しか居ない白い鳩は、明らかに見分けが可能なので、必ず餌をもらえるのです。

このことを、他の鳩たちも学習して、「白い鳩」について行けば、餌を与えてもらえる可能性が高いことを知ったためではないでしょうか。


スズメは
 うしろの方でおこぼれを

 駅前には、スズメも10羽くらいは居ます。スズメは、鳩のうしろについて、餌のおこぼれを食べています。

この冬の札幌は、厳寒豪雪で、スズメが絶滅したのではないかと心配されていましたが、この頃、やっと、スズメの姿を見るようになりました。

何千年もの間、人類といっしょに共存しているスズメが居なくなるということは、不気味な感じがします。

 人間と共存しているが、とくべつ愛されてもいないが憎まれてもいない。普段は存在感がないもの。鳥はスズメ。花はタンポポ。昆虫はモンシロチョウ。

居なくなったと思ったスズメが帰って来て安心しています。タンポポとモンシロチョウは、いつもの年のように、今年も見ますので安心しているところです。


カラスは
 うしろの木から監視

 鳥の中では、多分、最も知能が発達しているカラスは、人間に嫌われているということを自覚しているようです。

餌を与えている人が居る間は、うしろの方の木に止まって、じっと様子を観察しているだけです。

その人が居なくなるのを待って、木から降りてきます。そして、鳩たちを威嚇して追いやり、残っている餌を食べるのです。


鳩は「飛ぶ鳥」より「歩く鳥」か

 鳥は「飛ぶ動物」であると、常識的に信じられています。

しかし、駅前の鳩は「飛ぶ」ことは、ほとんどないようです。大部分の時間は、ドームの上に「止まっている」か、地上を「歩いている」のです。

1時間に1度くらいだけ、ドームの上から、いっせいに、すべての鳩の群が舞い上がって旋回します。

数回旋回した後に、再び、ドームにもどって止まりますが、その時間は、せいぜい五、六分というところでしょうか。

「通勤」のための「飛ぶ」時間を加えても、「飛んでいる」時間より「歩いている」時間の方がずっと多いのです。

 つまり、鳩は「飛ぶ鳥」というより、「歩く鳥」であると言えるかも知れません。


糞の掃除経費より観光効果の方が大きい

 通勤者や観光客に、多くの慰みを与えている、駅前の鳩ですが、一つだけ困ったことがあります

それは、百羽もの鳩が道路だけでなく、人が座るベンチにの上にも、糞を落とすことです。

 しかし、駅前の道路もベンチも、いつも、きれいで、ほとんど鳩の糞を見ることはありません。何人もの、駅の清掃係員が、30分置きくらいに、頻回に掃除をしているからです。

 人件費などで掃除経費も、かなりの金額になることと思います。しかし、鳩が癒しを介しての観光客に与える経済効果は、掃除経費や餌代をふくめたものより、ずっと大きいことでしょう。

糞便清掃費用と餌代は、「観光補助員」として「通勤」して来る鳩たちの「報酬」と考えられます。

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