冷蔵庫は冷やさないためにある?

極寒の地のビールと日本酒とウイスキー



厳寒のメジロ

(2010年8月記載)

木下眞二

 8月も終わるというのに、今年の日本列島は35度を越す猛暑が続いている。「暑気払い」に、逆に、今日は極寒の季節の経験を思い出してみる。

 昭和37年の冬、私は、まだ,独身で無給医局員であった頃のことです。生活費を稼ぐために、極寒の無医村に出張した時のことです。北海道名寄から、蒸気機関車の汽車に乗って、一の橋という所の診療所で、一冬を過ごしました。その村には、他に医者は誰も居りません。気温が、マイナス30度以下に下がると、小学校が休校になっていました。一週間も連続休校になったこともあり、マイナス34度にまでになったこともありました。
(逆に、10年ほど前の夏に、札幌でプラス36度を経験したので、一生の間に、プラスマイナス70度の落差を体験したことになります。)

 往診が終わった後、診療所の隣の一軒家で、独り寂しく、薪ストーブにあたりながら、読書をして夜を過ごしていました。お酒をちびちび飲みながら過ごすことが、唯一の楽しみでした。診療所には、まだ、テレビも冷蔵庫もありませんでした。しかし、極寒と猛吹雪で、しばしば交通が途絶し、お酒を買いに行けないことがあるのです。それで、好きなお酒の買いだめをしておきました。
ビールはサッポロビール黒ラベルを2ダース、日本酒は多聞の一級酒の一升瓶、ウイスキーはサントリー角瓶1本であったと記憶しています。

 その冬のある日、隣の町・下川にある本院の病院に行って、一晩だけ泊まって来た時のことです。極寒の夜でした。診療所の隣の住宅に帰ってみると、大変なことになっていました。ビールの瓶が、皆、粉々に割れてしまっているのです。当時の私にとっては、乏しい小遣いから買っておいた貴重品です。
気を取り直して、氷った断片を集めて、やかんに入れて溶かして飲んでみました。しかし、ただの水分のみで、まったく酒の味はありませんでした。

 今の時代なら、ビールは冷蔵庫に入れておけば、氷らないはずです。
つまり、極寒の地では、冷蔵庫は冷やすためではなく、冷やし過ぎないためにあるのです。ビールのアルコール分は5パーセントです。

 一升瓶の中の日本酒も、ガチガチに氷っていました。しかし、暖めて溶かしてみると、美味しくないが、アルコール分だけはありました。
なお、日本酒に相当するアルコール15パーセントでは、氷点はマイナス7度です。

 度数の強いウイスキーだけは、まったく、そのまま生きていました。純アルコールは寒暖計として使っていますから、氷らないはずです。ちなみに、純アルコール(100パーセントエタノール)の氷点はマイナス114.5度です。極寒の地シベリアで生活しているロシア人がアルコール度数の強いウォッカを愛用しているのが納得されます。

 なお、今は、いつも、サッポロビール黒ラベルの瓶を冷蔵庫に入れてあり、毎晩(原則1本だけ)取り出して、猛暑を凌いでおります。


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