荒井公康:短歌集


ひらひらとささめく木の葉風に舞い秋の光はただ柔らかく

淡き雪いと淡き雪ふりそそぎ静かなるかな冬のしののめ

陽の光枝の間でダンスして森の大地の花は揺らめく

軽やかに木の葉の踊る窓の外秋風に乗るワルツのリズム

見も知らぬ国に行きたや夏の風僕を追い越す白い雲たち

懐かしくワルツに踊るピアノの音今よみがえる彼の面影

流れくるワルツに踊る心には白き衣装の舞踏の夕べ

神聖な山奥の森そこに住む妖精たちと戯れていたし

ロンドンの椅子と語らう昼下がり僕にはほかに友なきゆえに

陽を受けて光り輝く噴水の落ちる姿は祈りの形

還らない少年の日の夢の中今はまどろむ春の日の朝

人生はわずかに長い夢のようでもこの夢は神様のもの

懐かしく桜の花咲く小学校この手握りし母の温もり

辛き時楽しき時も共にいた母の面影春の霞に

初夏の日の森に入ればそよ風に香るみどりは木漏れ日に揺れ

異国にて風と香りに包まれる僕のはかない夢の行方よ

イパネマの娘眼をふせて僕には振り向きもせず風のように行く

雨の降るこの悲しみの隙間から得られしものの流れ去る日々

「アパートの鍵貸します」と今頃はあの二人どうしているのかな

静寂と永遠を夢見て時計は静かに時を奏でている

吹く風に木の葉のそよぐ夏の日の森の木陰のあなたとわたし

あなたから手紙の届く梅雨の午後雨に濡れても口笛吹いて

冬近く赤き紅葉は地に落ちて真白き雪に包まれてほしく

静寂の夕暮れの森降りる落ち葉は光と音の神の賜物

雨上がり葉っぱの上の水しずく五月の午後の日差しの中で

空晴れぬ先程までの雨の後光る車道と街路樹の葉と

雪降ればセーヌの如き鶴見川白く輝く異国への夢

「ありがとう」甘き夢見る黄昏にワルツを紡ぎ更なる夢を

ひとときの風に波立つ水面には光そそぎて白ききらめき

静けさに輪を描きつつ積もりゆく白き小雪は時を知らせる

今日の日もまたぼんやりと過ぎてゆく望みは持たず心やすけし

ゆるやかなワルツの調べに思い出す幼心と母の優しさ

心地よく心に浮かぶワルツの音夏の暑さも少し和らぎ

夏の日のお昼にいれたアイスティー汗をかいてる氷のグラス

秋深き海辺にはまだ美しく二人歩みし波寄せる道

道に咲く花の名前を知りたくて君に尋ねしあの秋の日に

口笛の暖かき響きが聞こえます心に浮かぶ君の想い出

言の葉は浮きて流れて秋風に舞いし木の葉とただたわむれる

卒業のアルバムを見てあの頃の夢を忘れずこの日を生きる

もつれあうふたつの音に心揺れ目をつむれば静けさの中

おおらかな秋空の下我ひとり歩みを止めて風を感じる

ともしびを木々に灯して十二月きらきら光る夜の街角

この道はなぜか懐かし街路樹の木の葉色付く秋のひととき

軽やかにボサノヴァ流れ涼しげに静かに揺れる白いカーテン

手のひらに淡雪は落ち一粒の涙のように融けて流れる

ダンディにピアノを弾くビルの姿が心に浮かび伝説を知る

還らない少年の日の夢の中今はまどろむ春の日の朝

虹色の雪の水玉枝先に映る姿は夢のいざない

知らぬ間に静かな時間過ぎてゆく古き写真を見てる間に

モノクロの古き写真に目が留まりそっと重なる幼かりし日

オルゴール遠い昔を思うよう懐かしき音幼き心

音楽に思い出してるあの頃の君の笑顔と僕の笑顔と

よく晴れた小春日和の午後の部屋明日もよき日とふと思いけり

一日を川辺に座り過ごしたりさすがに和む我が心かな

静かな日心に浮かぶ旋律を書き留める時何故か嬉しく

あてもなく友の便りを待つ僕は郵便受けに行ったり来たり

懐かしきギターの音色思い出す幼き日への甘き郷愁

バスの中椅子を枕にまどろみて流れる景色夢と間違え

ゆらゆらとワルツに揺れる我がこころ夢見心地の新年の朝

手水鉢冷たき水は透き通り晴れゆく空を水面に映す

美しい音楽にふと我を忘れ冬の陽だまりにたたずむ時

明るい午後の日差し暖かく寂しき身でも心は和み

初恋の淡き想い出にうっすらと街の夕暮れ染まりゆきけり

バスを待ち光まぶしく目をとじるただひとり知る朝の秘め事

冬の日にハープのワルツ聞き入れば日差しもありて寒さ忘るる

幼き日若き父母との晩餐会月一回なれど幸せなりき

茶の香りふと和みたる君の目につられし我もふと和みたり

若き父母に連れられ行きし遊園地想い出深きメリーゴーランド

夜更けまでギターを弾きし若き頃まだ見ぬ人に聞かせたかりし

冬の空淡き光はふりそそぎ海にたたずむ僕らをつつむ

山の雪冬の名残をとどめても海を望めば霞立つ春

沈丁花甘い香りの春が来る寂しき身にもまた春は来る

寒き夜に外に出たなら星の群れこの星のもと君も住むとは

そこはかと春の気配の訪れに心浮かれて君に会いたし

映画見てこころ洗われ外に出る仰ぐ夜空に光る星屑

ゆりかごに眠る幼子のごとく静かな心の雨の降る夜

知らぬ間に揺れるブランコを見つめいて一緒に揺れる我が心かな

小さな子リュックをしょってどこへ行くここにもあるよ不思議なオモチャ

ワルツに乗って踊るように春風と桜の花は寄り添うてをり

夜の雨空から落ちるワルツかとおもてに出れば濡れるばかりなり

砂浜に貝を探しに行ったきり君は帰らず時は過ぎ去り

想い出は闇の中へと消えいりて寂しきワルツを紡いでおりぬ

バスの窓白くくもりて移り行く外の景色は淡く輝く

外に出て涼しき風に吹かれれば立秋過ぎの季節を感ず

夏の日のスコールを浴び爽やかに木々の緑は風にそよいで

あこがれしモノクロ映画の美女たちも時は過ぎ去り我より若く

軽やかに心は歌うボサワルツ何もかも忘れ君を想う

台風のもたらす雨の打つ音がいつのまにかワルツの調べに

失いて得られしものに感謝してジムとデラには神の祝福

並木道秋の紅葉は色付きて淡き光は木の葉を照らす

ひらひらと雪の舞う庭外に出て遊ぶ子供達クリスマスの朝

クリスマス全てを包む白き雪みんなの家もやさしく包む

白き雪ワルツを踊り降り下りる子供も子犬もはしゃぐクリスマス

いつまでも覚えているよ初めての父母からのクリスマスプレゼント

雪の降るクリスマスの夜祈り終え眠りにつこうワルツ聴きつつ

鈴の音とトナカイの引くそりの音待ち焦がれていたクリスマスイヴ

静けさに雪を見ながら朝を待つ夢のようなクリスマスイヴ

目が覚めて表を見れば白き雪我に還ればひとりなりけり

降りてくる不思議な光に誘われて幼き日への扉を開く

早春の春風に乗るハーモニー遠く流れてあなたに届く

僕ひとり桜楽しむ春の日にビルの面影ワルツとともに

もういない母への手紙五月の日思えば昨日は子供の日

今もなおかすかに聞こゆ子守唄いとやさしく母は歌いし

物憂い雨模様の午後ポストには思わぬ人より葉書がありて

静かなる五月の日に憂いし人の面影心に浮かぶ

気が付けば激しい雨が降っているつまらぬ曲を笑う如くに

我が父母とたびたび行きし伊豆の海忘れがたきは旅路のこと

よく晴れた爽やかな五月ひとりでも幼き頃を想えば楽し

南方の海に浮かぶ孤島にて潮騒の音ひたすら聞きたし

ひそやかな想いをはせる梅雨の午後誰も知らない遠き追憶

真夏でも雪が降るという白き国幼き僕に母は語りし

夜更けまでワルツを紡ぐ我なれど想い浮かぶは幼き日ばかり

飽きもせずワルツを紡ぐ我なれど窓を開ければ外はもう初夏

木の精がおりてくるまで木陰にて緑を見つつ過ごす初夏の日

梅雨空と紫陽花色の園生には淡く流れる想い出の時

涼しげな風鈴の音そよ風がひととき心を通り抜ける

悲しみの中から見えるトンネルのかなたむこうの微かな光

爽やかな初夏のそよ風に誘われて心も軽くあふれるメロディー

秘めやかなかなわぬ恋をあきらめるこのワルツさえ貴女に届けば

梅雨の雨遭う人もなき日曜日ひとり書を読み不思議と出会う

梅雨明けに心浮かれてまぼろしの貴女と踊るおかしな男

外は雨涼しき風が訪れて静かに終わる夏の想い出

夏の夜にきらきら光る星たちは小さな声で語り合うよう

過ぎし日よ夢幻の人生よ思いがけない夏の夜の夢

たまゆらの君の気配に振り向けど甘く切なく君去りし後

クリスマス僕は確かに恋してる雪降る街であなたを待ちて

水溜りスズメ飛び込み水浴びる小春日和の川の岸辺で

東方の三博士の見たという星やいずこに僕を誘う

雪は降り人は優しいクリスマスもみの木の星ベツレヘムへと

イギリスのことわざにあり5月には4月の雨が花をもたらす

空くもり心もくもり僕はまた君といた日を思い浮かべる

学問は極め難しと悟る夜何故か虚しく本を見つめる

心地よく音楽流れるこの部屋で本を読むなり学者の如く

梅雨に入り紫陽花の花色を変え掴めない君の心の如し

カンバスの緑の中の紫は想いと同じ秘められし色

晴天の五月五日の子供の日お風呂の中は菖蒲の香り

一夏を静かに過ごすこの身にはもはや過ぎにし恋へのプレリュード

雨と風台風過ぎにしこの国にもたらされるは南国の歌

雨のほか誰も語らず我ひとり音に託すは都会の孤独

涼しげに霧雨の降る秋の日に流れ始める不思議なワルツ

父母に手を握られし幼き日ふと懐かしく思いだされる

回路図を見ても分からず情けなや九月になりても暑さ変わらず

降り注ぐ色と音にも秋は来ぬ行き交うものの過ぎる礎に

テンダリー少し寂しく優しげに部屋をあやどるワルツのリズム

我が心今風となり木に寄せて枯葉と散りてああ秋を知る

通り雨街を濡らして鮮やかに空に描いた七色の虹

睦月の日長くなりつつ気がつきて西を見やれば紅の空

穏やかにワルツに踊る若葉たち木漏れ日の下ひとり歩めり

わが名をば呼ぶ気がした幼き日の母の声かな父の声かな

教会と保育園と公園の光の中の秋のひととき

限りなき寂しさの中ふと香る金木犀と秋の訪れ

寂しさに目が覚める朝楽しかりし幼き日へ想いを馳せて

肌寒い秋の朝方お日様と私は遊び暖かくなる

寂しくも何故か嬉しい昼下がり我ひとりでも思い出があり

秋の日に遠い昔を思いけり揺れる心と楽しき想い

ただ一人首を垂れて亡き父母を想う朝方秋の寂しき

僕の夢君とふたたび恋をするあの秋の日のふたりのように

朝焼けの美しい秋われひとり黙然として外を眺める

朝方に神の御前で孤独より救いたまえと心を込める

わが父母よ子供の頃の想い出は励ましとなり慰めとなる





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