ようこそ、いらっしゃいませ。
こちらはリンダ・ハワード著 「ふたりだけの荒野」 ネタバレOKのお部屋です。



表の「みどころ」に書いた通り、
この作品の特徴のひとつが、登場人物の少ない逃避行ものであるとすれば、
もうひとつの特徴はヒロインのもつ特殊能力。


リンダの作品には、たまにこういうサイキックが登場しますが、
面白いのが特殊能力を持つのはいつもヒロインの側で、ヒーローは
その大切さを知って守るという展開になること。
(最近出た 「ホテル・インフェルノ」 は男性も特殊能力の持ち主ですが
これは他作家とのリレー作品なので、ちょっと別モノかと。)
どうしても体力の点で劣る女性の方が、こういう目に見えない部分で
ヒーローの上をいくという設定にした方がバランスも良いのでしょうねきっと。

 

さて 「ふたりだけの荒野」 の感想。
初めてこの作品に出会ったのはずいぶん前になりますが、前半は
アニーにとって辛いことの連続なので、読んでいて
少々疲れるところもありました。
特に、寒さと疲労に堪えながら彼女ひとりで小屋を整える場面なんて
なんだかこちらもヘトヘトですよ(笑)。


そんな中で前半の好きな場面を上げるなら、アニーがレイフの前で
髪を結って身支度をするところかな。
男性の大きな革手袋の上から、ほっそりした彼女の手が
「小鳥が餌をついばむように」 ヘアピンを取っていくという表現が
とても綺麗だなあと思った記憶があります。
本文にもありますがちょっとした女性らしい仕草に、焼けつくような
憧れを持つレイフの心情がひしひし感じられました。


考えてみるとリンダ作品には時折、こういう女性ゆえの女性らしさを
根元的に男性が求める描写がありまして、こういうのが
ある意味、いろいろなものの原点なんだろうなあと思ったり。
全くの余談ですけど、ホンダの創始者・本田宗一郎氏が昔、
「女性が世の中にいなかったら、男は洋服のかわりに麻袋をかぶっていても
構わない。女性がいるから私も毛生え薬が欲しいと思う」
というようなお話をしていらしたのを思い出します。
つまり女性を求め、女性に好意を得たいという欲求があればこそ、
男性にもファッション的に進化する余地があったわけで、もし男ばかりの
世の中だったら、人類はいまだに猿のままなのかも(笑)。



と、横道はさておき。
レイフとアニーの最初のラブシーンは、逃避行最中の小屋の中。
外は雪、互いを惹きつける化学反応にあらがっていたアニーが
ついに自分の気持ちを認めるところから始まります。


あいかわらずリンダらしい詳細すぎるほど(笑)詳細でホットなベッドシーンが
展開されますが、個人的にはその翌朝、レイフがだまって彼女のために
下着を火にかざしてあたためる場面が良かったな〜。
それまでにも、アウトローらしからぬ心遣いを見せる
レイフですが、このへんから真の人間性を発揮するというか
彼らしい愛情表現が解放されてくるんですね。
アニーもそのあたりちゃんととらえておりまして、この場面で
茫然と彼を見つめます。
彼女の心情について 「根本となるなにかが永遠に変化した。」 
という表現は、さすがリンダ!と感心してしまいます。



後半の山場は、アパッチのテントで二人が5日間にわたって
病気のインディアンを看病し、アニーがついに自分の力を知る場面。
スピリチュアルで神秘的な表現は、インディアンの血が流れている
というリンダの出自にも関係があるのでしょうか。



で、このタイミングで登場するのが、レイフの名誉回復に手を貸す
連邦保安官ノア・アトウォーターですね。
汚い言葉を女性の前で口にするたびに、律儀に謝る
「悪いね、マダム」 というセリフが、いかにもクラシカルで面白いなあ。
左のまぶたがウインクしているように少し垂れた痩身の保安官。 
正義や真実を求める心を持ち、なんとも味わい深いこの人物が
レイフ達と共に幸せになってくれてホントに良かった。



全体にシビアな内容のせいか、ユーモアという点ではいまひとつでしたが
色々な形の勇気や信頼、人間心理の深さや強さを感じる作品でした。
ウエスタン三部作の中では、これが一番好きです。


ただ、難を言えばリンダの他作品ヒロインに比べると、アニーの魅力が
弱く感じられるのがちょっぴり残念。
当時としては年長者扱いのもうすぐ30才、偏見と闘いながら
仕事をはたす腕の良い女医というわりに、
妙にうぶというか、恋愛面ではやや幼くてアンバランスな上
「癒しの手」 への心情が描ききれてない印象のせいかも。


でもそのぶんレイフが色々頑張ってくれたので良しとしますか(笑)。
(と、えらそうなことを言ってますねスミマセン)






さて、次回のピックアップ。
予告してもなかなか作成が進まない状況で、申し訳ないのですが
自分への課題のためにも、作品は決めておきたいと思います。


現代を舞台に、アニーとはまた違う特殊能力を持つヒロインが、
連続殺人事件に関係してしまう 「夜を忘れたい」。
リンダお得意の警察官ヒーローが、これまた良い味出してます♪





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