ルドルフ・ザ・ラストキス 



                                      帝国劇場 1階 S席 J列 




                      当日のキャスト



  ルドルフ 井上芳雄  マリー・ヴェッツェラ 笹本玲奈  スティファニー知念里奈
  ラリッシュ 香寿たつき  フランツ・ヨーゼフ 壌 晴彦  ヨハン・ファイファー 浦井健治
  ツェップス 畠中 洋  プロイセン皇太子ウィルヘルム 岸 祐二
  英国皇太子エドワード 新納慎也  オーストリア首相ターフェ 岡 幸二郎
  ブラット・フィッシュ 三谷六九


  音楽 フランク・ワイルドホーン

2008年5月23日(金)マチネ

※きみこむ日記からピックアップした再録プチレポです。

   (その1)

   「ルドルフ」 観劇に行って参りました。
   たまたま私が行った23日から、舞台写真集が発売開始だったので
   開演前に購入しようとしたら 「販売は終演後になります」 とのこと。
   なぜ?と思ったら、どうも現物の劇場到着が遅れてたようです。


   終演後に入手した別冊プログラムは600円。 
   全体的には 「レベッカ」 舞台写真の方が出来が良いような気もしますが、 
   「ルドルフ」 は登場人物が多い&大舞台に大セットで見えないところが
   多かったので、別のありがたみがありますね。


   黄金色の双頭の鷲、額縁やイタリア絵画をあしらったセットに
   とりどりの衣装など、家に帰ってからも飽きずに眺めてしまいます。
   そんなわけで、観劇の感想より写真集の話が先になっちゃいますがお許しを。


   岡幸二郎さん演じるオーストリア首相ターフェが、
   皇太子の恋人になったマリー・ヴェッツェラを部屋におびきよせて
   「私たちは野心家同士。 さあいくら欲しい?」 と、金で解決しようとする場面があります。
   自分達の愛は本物ですと抵抗するマリーを、歌であざ笑いながら追っかけ回す岡さんの
   コートさばきとステッキ扱いのスマートさは、さすが元ジャベール(笑)。


   別冊プログラム 「私のお気に入りの1枚」 は、この場面です。
   床に倒れ伏したマリーの片手をねじり上げて立つ
   ターフェの写真ときたら、不謹慎ながらサディスティックで美しい〜☆


   今回の岡さんは謀略でルドルフを追いつめる(というより追い払う)悪役的ポジションなんですね。
   きっちり着込んだ黒スーツ+黒ロングコートが長身に映えるし
   クールな美貌と腹黒さの対比も良かったです。
   いやーこういう雰囲気をかもしだせるミュージカル俳優さんは
   やっぱり貴重だなあとしみじみ。 


   ご本人も派手な見せ場と、作りこみがいがあるルックスのターフェは
   演じていてとても楽しいのではないでしょうか。


   ただ、惜しむらくは岡さん自身のブログにもあったように
   ターフェのナンバーがカットされていること。
   どんな内容の曲かはわからないけど、
   再演の折には、ぜひ復活をお願いしたいところです。


   ついつい岡ターフェ話で長くなりました。
   本編の感想は、次回に譲りたいと思います。




   (その2)


   この作品は開幕前から、題材はもちろんのこと
   井上芳雄さん、笹本玲奈さん、岡幸二郎さん、浦井健治さんら
   東宝ミュージカル常連キャストさんに、ワイルドホーン氏の音楽も楽しみにしていました。


   で、観劇してみての感想なのですが
   率直にひと言でまとめるなら 「エリザベートって、よくできてるんだなあ」。


   初めて 「エリザベート」 を観たとき、わかりにくい部分もあるとは思ったものの
   史実の皇后の人生に擬人化した死 (トート) という虚構をうまくからめることで
   哲学の趣や演劇的な面白みを増幅させた脚本に感心した記憶があります。
   トートのキスが死をもたらすというロマンティックな約束なぞは
   いかにも舞台映えのする 「仕掛け」 ですよね。


   そういう意味で、「ルドルフ」 は演劇としての仕掛けがあまり感じられないのが
   一番もったいない点だと思います。
   物語は、妻との関係が冷え切っているルドルフがマリーと出会い恋に溺れる場面と
   政治的な理想を持ちながらも、フランツ皇帝や首相ターフェにうとんじられて
   挫折する場面が若干のエピソードを含みながら、交互に表現される構図。 


   もちろん大筋としてはそうならざるを得ないのでしょうが
   せめてどうやって恋に落ちるかという場面に、ドラマティックな演出とか
   破滅を予感させる伏線が欲しかったな〜。


   今回の舞台では、舞踏会で2人が出逢うと白いライトが当たり、
   一目惚れ状態ですぐに好意を持ってしまうし
   次にスケート場で会ったら、スパイをまくために恋人同士のふりをしながら
   あっというまに恋も最高潮。


   マイヤーリンクの心中に関しても、冒頭で先に見せてしまうので
   ラストで同じ心中シーンを繰り返してもさほどの衝撃がなく、
   やっぱりもったいないなーという気がしました。


   なぜ、他の女性ではなくマリーこそが運命の人なのか? という問いに答えるために、
   なにか特別なエピソードが必要だったのではないでしょうか。
   たとえば不倫に胸を痛めるマリーが、ルドルフとのキスをずっと拒んでいたけれど
   心を決めた時に与えた口づけが文字通り 「ラスト・キス」 になるとか、
   2人に共通する 「終末への想い」 が前半で表現されるとか・・。


   と、いきなりあれこれとシロウト考えを述べてごめんなさい。
   決して嫌いな作品じゃありません。 再演されたらまたぜひ観たいと思うのですが、
   ここ数日、なんとももどかしい思いにとらわれているのも確かです。 


   全体的は印象はこんな感じでしたが、明日は心惹かれた場面や
   俳優さんのことなど、もう少し語らせて頂きたいと思います。
   なんだかんだ言いながら、実は結構ハマッてるような気もする私(笑)。




   (その3)


   今回 「レベッカ」 観劇の翌日に観たせいもありますが
   あらためて帝劇の舞台の大きさ、客席からの遠さを実感しました。
   あれだけの空間をどうやって埋めるのかというのは大変な問題ですね。


   「ルドルフ」 美術担当は松井るみさん。 「ペテン師と詐欺師」 をはじめ、
   「スウィーニー・トッド」 「トゥーランドット」 など
   宮本亜門さんの舞台美術も色々と務めていらっしゃる方みたいです。


   冒頭のマイヤーリンクでの心中は四角に切り取った森の絵の中で行われるし
   過去にさかのぼった宮廷シーンは、黄金色の巨大な双頭の鷲に
   抽象的な花がデザインされた黄金のプロセニアムアーチがあしらわれて、
   まるで西洋の絵画に入り込んだよう。


   絵画的といえば、ルドルフの部屋やマリーの部屋等の壁が
   巨大なイタリア絵画のコピーになっているのも珍しかったなあ。
   ひとつはウフィツィ美術館収蔵のウルビーノのビーナスだなあと思った記憶が
   ありますが、あとは何の絵だったのかな?


   全体に大がかりなセットが多くて、見ごたえがありましたが、
   特筆すべきはルドルフを乗せた馬車が疾走するシーンの照明。
   いくつもそそぐシャワー状のライトが、回転するように舞台をなめていくので
   スピード感があってとても良かったです。


   衣装は狂言回しの手品師ファイファーをはじめ、主人公以外は緑や赤、紫や紺の
   暗くてときにはキツイ色合いのものが多かったのが特徴的ではないでしょうか。
   ルドルフは青か黒、グレー、マリーは基本的には赤い衣装の場面が主だったけど、
   最初の出会いは2人とも白。 ラストのマイヤーリンクも白の簡素な寝間着姿(?)になるので、
   このへんはルドルフとマリーの内面を表現しようとしていたのかもしれません。


   でも、心中シーンはせっかく高さ3メートル横幅6メートルくらいの額縁の中に入ったのに、
   最初にマリーが地面に倒れ、ルドルフも頭を撃ってそのそばに倒れちゃうって、
   絵画として見たてるにはあまりに美的でないというか、普通すぎるような。
   レ・ミゼのアンジョルラスみたいに逆さ吊りとは言わないけれど
   2人の最期が額縁の中で 「絵になる」 さまを見せてこそ完成する
   この美術セットだったのではないかなあ。


   ファイファーがテーマとして繰り返し 「ここはウィーン ウィーンらしさ見てみな」 と歌うのだから
   たとえばウイーン出身の画家グスタフ・クリムトの 「接吻」 みたいな退廃の美や
   陰鬱な死のエロティシズムを、ラストで感じたかった気がします。
   今回の井上ルドルフだって 「エリザベート」 に出てくる母に見捨てられた
   可哀想な少年を表現するだけではないはずですし。


   というわけで、終わりそうで終われない 「ルドルフ」 レポ(笑)。
   まだ続きます。




   (その4)


   物語展開や演出には「?」という点があったものの
   魅力的な場面もいくつか心に残りました。


   まずマリーと友人のラリッシュが洋服屋で買い物をしながら
   女性達10人以上と歌い踊る 「美しき戦争」。
   「アイーダ」 で、アムネリスが 「おしゃれは私の切り札」 と歌う 
   楽しいナンバーがありますが、あれに似た感じでしょうか。
   (男を攻め落とすなら ドレスに靴に香水で酔わせて
   心を奪う きっと勝つわ!)って感じの歌詞がなんとも痛快☆ 
   女らしい甘さのある香寿さんの声が生き生きと響いて、ピンクやパープルのドレス姿で
   女性達がフェンシングをするようなダンスも良かったです。


   フランツとルドルフ親子に溝が深まる描写は1幕から始まります。
   そのまま終幕まで、首相ターフェのさしがねもあって
   ずっとわかりあえない状況が続くのが切ないんですよね。
   ルドルフが子供頃の思い出を歌で語りながら、イスに座る父の手に
   自分の手を重ねようとしたのに、すっと身を引かれて傷ついた目をする場面は
   母からも父からも距離をおかれている孤独を感じました。


   しかし、フランツの立場からすればどうしてルドルフが
   伝統を重んじるやり方にことごとく反発するのかよくわからず
   怒りや悲しみがつのる一方。 
   フランツ役の壌晴彦さんの演技が重厚で素晴らしく
   「どうして、お前は育てられたように生きられないのだ!」 と
   なじるシーンは迫力満点でした。


   音楽については1回ではとても覚えきれないのですが
   マリーとルドルフが初めてワルツを踊るシーンで歌う
   「踊っていただけますか」 の井上さんのフレーズが綺麗だったな〜。
   大きなソロとしてはルドルフが演説する 「明日への階段」 が一番印象に残りました。


   あと、ナンバーとして耳に残ったのはルドルフの妻ステファニーが
   皇太子夫妻としての義務を、夫への怒りを持って歌う 「それは私」。
   メロディラインが日本の歌謡曲みたいで、もとは英語かドイツ語で書かれた
   曲なの?ホントに?って感じ。 
   知念さんを拝見するのはレミゼ以来だと思うのですが、威厳のある冷たい外見に
   内心の激しさを秘め隠したステファニー役は、声も美貌も知念さんに
   ピッタリだったのじゃないでしょうか。


   公式サイトで配信されたトークショーの動画でも、井上さんや新納さんが言っていたように
   ステファニーは立場をふまえて、至極もっともなことを言ってるわけですし、
   夫の死後も、恥をかかされるばかりで気の毒な女性だったんでしょうね〜。


   それにしても、正妻と愛人がサシで勝負する(☆)場面、ステファニーが聖書の言葉をたとえにして
   マリーに身を引く潮時だと告げる時のセリフ 「聖書、お読みになったことは?」 って、
   つまり (不道徳で不躾なあなたなら読んでなくても不思議はないけど)
   という痛烈な皮肉なわけで、容赦のないステファニー攻撃にちょっとウケました☆


   それから、なんと言っても今回最大のブラボーだったのは岡ターフェですよ。
   正直言って、アンジョルラスよりもジャベールよりも好きです。
   2幕冒頭でルドルフの悪夢に現れる 「命令次第」。
   「叫べ わめけ 苦しむがいい お前の運命 私のものだ」 の
   雄々しい歌声がホントに楽しそうでしたねー岡さん。


   ・・と、なんだか主役のお2人そっちのけの話題ばかりで申し訳ない。
   井上さんと笹本さんももちろん良かったのですが、個人的には予想の範囲内に
   収まっちゃったといいますか、どうにももったいないなあと思いました。
   ただ、これは演出とか脚本によるものかもしれないのですけども。


   トークショー動画で香寿さんが仰っていたように、どうしても 「エリザベート」 ルドルフの
   イメージがあるし、今回の井上ルドルフ像をどのへんで着地させるかは
   きっとすごく難しかったのでしょうね。
   マイヤーリンク事件を純愛の結果ととらえるのは悪くないと思うけれど、
   個人的には 「エリザベート」 ルドルフからは離れて欲しかった気もします。


   たとえば娼婦館で飲んだくれて女遊びをする場面だって、今作のルドルフなら
   もっとリアルに、情けなく描いても良かったのではないかなあ。
   井上さんも、そろそろ王子様キャラでない大人の男ぶりを、
   セクシーさも含めて発揮できるお年頃だと思いますし。
   (って、これは単に私がオバサン目線なだけ?・笑)


   さて、そんなこんなでたどり着いた結末について。


   ハンガリー独立に関して仲間の裏切りにあい、最後の希望を失ったルドルフと
   お金のための結婚話を振り切ったマリーは巡り会った駅で死を決意します。
   最後に正装して出かけた舞踏会で、堂々と長い口づけを交わす2人。 
   驚く周囲の人たちにラリッシュの心配顔や、フランツ、ターフェほか色々な人たちの
   思いが交錯する場面のセリフはよく聞き取れなかったけど、ここではそれが狙いだったのかも。


   やがて喧噪がやみ、優雅なワルツが流れる中で2発の銃声が響きます。
   2人が倒れ、空っぽになった森の絵の額縁。
   冒頭と同じに、別の小さい箱型の額縁からファイファーが出てきて
   「ウイーンのテーマ」 を歌い、白い羽根を空にまく、というラストでした。


   なかなか綺麗なラストでしたが、視覚よりも死の場面に流れるワルツの終わりが
   静かな悲しみと物語の余韻を感じさせて胸にずっしりと来ました。
   こういう時こその生オーケストラ、素晴らしかったな〜。



   スタッフとキャストの皆さん、ホントにお疲れさまでした。
   音楽にも登場人物にも魅力が一杯ですし、「エリザベート」同様、
   再演を重ねながら進化する “伸びしろ” がまだまだ残されている作品だと思います。 


   ぜひまた、いずれ新版として再演の運びになりますように。
   ターフェ様の魅惑の ドSソング(笑)に再会出来る日を、楽しみにお待ちしております☆





   東京公演 2008年5月6日〜6月1日





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