ミュージカル「ファントム」 



                                    梅田芸術劇場 1階 S席 




                      当日のキャスト



  ファントム(エリック) 大沢たかお  クリスティーン・ダエー 徳永えり
  フィリップ・シャンドン伯爵 ルカス・ペルマン   アラン・ショレー(新支配人) HISATO
  カルロッタ 大西ユカリ  ゲラール・キャリエール 伊藤ヨタロウ  ジャン・クロード長島克
  ルドゥ警部 中村まこと  文化大臣 コング桑田  ベラドーヴァ 姿月あさと


  作詞 アーサー・コピット  作曲 モーリー・イェストン

2008年1月17日(木)マチネ

※きみこむ日記からピックアップした再録プチレポです。





   (その1)


   大阪遠征はいつも新幹線ですが、今回は家を出る段になって
   列車の時刻を勘違いしてたことに気づきました。
   「どわ〜っ!」となって慌ててタクシーで博多駅へ(☆☆)。
   発車3分前にホームに駆け上がって、どうにかセーフ。


   そんな感じでのっけからドタバタ遠征でしたが、
   楽しみにしていた梅田芸術劇場での 「ファントム」 観劇です。
   コピット版は宝塚・和央ようかさんのファントム以来なので4年ぶりかな?
   開演直前から、パリ市民に扮したアンサンブルさんが客席を歩き回ったり
   雰囲気作りはなかなか楽しいですね。
   クリスティーンも客席通路から楽譜を売りながらの登場でした。


   主役の大沢たかおさんは、映画やテレビで何度も拝見している人気俳優さんですが
   うーん、やっぱりミュージカル初挑戦の壁はかなり厚かったのではないでしょうか。
   音程はともかく、発声の習得が間に合ってないので
   ロングトーンになると、どうしても声が不安定なのが残念。
   作品はドラマティックなのだから、無理にミュージカルにせず
   ストレートプレイ仕立てにした方が、大沢さんの演技力が光ったかも。


   クリスティーンの徳永えりさんも印象は同じでした。
   綺麗な声だけど細くて頼りなく、 「ジキルとハイド」 で見た鈴木蘭々さんが
   あんな感じだったような? 


   ストーリーは宝塚版とほぼ一緒ですが、実際の男性がファントムやキャリエールを
   演じることで、リアリティが倍増します。
   不倫とその後の秘密を地下に閉じこめてきたキャリエールが
   「ここは自分の心の闇だ」 と言う場面に実感がありました。


   そして、ウィーンから来日ご出演中のシャンドン伯爵役ルカス・ペルマンさん。
   予想していたこととはいえ、日本語の発音がどうしても不十分で
   たとえば、クリスに名前を尋ねるのに 「ナメーワ?」 となっちゃうんで
   これは正直、気の毒だったな〜。


   ・・なんだかツッコミどころが先に一杯出ちゃいましたが、
   良かった部分ももちろんありますよ。 
   続きはごめんなさい、次回に譲らせていただきます。





   (その2)

   「ファントム」 観劇話の続き。
   東宝や四季のミュージカル舞台を見慣れている目には
   主要キャストの歌唱力やバランスに違和感もありましたが
   (フランスが舞台でオペラが重要なカギになる話なのに
   カルロッタが和田アキ子さんみたいなソウルフル歌唱で歌う・・とか)
   面白いなあと感じた点もいくつかありました。


   まずは舞台美術。
   パンフレットを見ると、「宝塚BOYS」 も担当なさった二村周作さんは
   昨年、第14回読売演劇賞最優秀スタッフ賞を受賞されているそうです。
   「欲望という名の電車」「レインマン」「血の婚礼」「ウィートーマス」等
   最近の話題作の多くを手がけていらっしゃるんですね。


   今作は中央の盆に置かれた大きな2階建ての箱型セットが回転し、
   裏はファントムの住処、表に回すと地上のオペラ座を表現しています。
   加えて、スクリーン代わりになる淡い緑色のカーテンや
   スライドする手すりなど、視覚的に飽きさせず
   しかもスムーズに転換する工夫が見られてとても良かったと思います。


   特に、プロセニアムアーチのような場面の額縁を芸術的にととのえることで
   全体が安っぽくなりすぎず、さらにセットの側面に設けられた鉄格子に
   斜めから照明を当てることで、複雑な地下の迷宮や
   ファントムの心理状態を表現することが可能になったのではないでしょうか。


   エリックの母、ベラドーヴァ役の姿月さんはこのカーテンスクリーンに
   投影されるシルエットで歌を披露したのですが、布の微妙な色合いが
   幻想的でとても綺麗でした。


   そして、どうしてもはずせないのがファントムのビジュアル。
   大沢ファントムは四季版より宝塚ファントムに近く、背中まである黒のロングヘアに
   上半分を覆うタイプのマスクが白とシルバーと黒、それから
   四季タイプの半面マスクも白がひとつありまして、なかなかの財産持ち。 
   そうそう、黒手袋をしてる時間が結構長かったかな。


   白いドレスシャツに装飾付き白ベスト、下は黒のズボンに膝まで覆う
   黒のロングブーツで登場です。
   もちろんお約束の黒マントもありましたが、裏地が白いのが面白いな〜。
   裏が白いと正直言って子供っぽい感じにはなりますが、これは
   ご一緒したお友達と 「アクションシーンの安全対策もあるのでは?」という
   話になりました。


   あと大沢さんの背が高いので、黒に金の刺繍が施されて裾を引く
   ガウンタイプの豪華な上着がよく似合って素敵でしたね〜。
   終盤は警官に追われて大立ち回りになるので、ジェラルドファントムみたいな
   ドレスシャツ姿も(胸元はあんなに開いてないけど)披露して、
   視覚的に楽しませて下さいました。
   (こうして考えるとウェバー版のオジサマ天使は、なんという着たきりスズメ状態・笑)


   シャンドン伯爵役のルカス・ペルマン氏は正統派のグレースーツに黒燕尾服で、
   こちらもすこぶる美しい☆
   背が高いだけでなく、少し長めのブロンドに小さな顔で長い手足がとても目立ちます。
   それに、クリスをエスコートしたり手にキスをする仕草が流れるようにスマートで、
   さすが異国の殿方は違うわ〜♪


   と、目に見える部分だけでも色々と新鮮でした。
   まだまだ語りつくせないので、あともう少し続けさせていただきます。





   (その3)

   今回は演出や結末の扱いについて完全ネタバレで触れていますので、
   未見の方はご注意下さい。


   主役の大沢ファントムの演技で、一番良いなあと思ったのは
   エリックという人物像の使い分け。
   クリスティーンと話すときは、穏やかで爽やかな青年の声なのに
   キャリエールとは冒頭から、「美女と野獣」 のビーストみたいな
   癇癪持ちの激しい声。 姿勢もあまり良くなくて、いらいらした様子で地下をウロウロ。


   クリスティーンの目にはエリックが心優しい音楽の先生に見えていても、
   キャリエールが(セリフはうろ覚えですが)
   「仮面をつけかえるように、彼には別の面もある」 って感じで
   警告する場面がありまして、美や音楽を愛する気持ちと殺人を犯す心理の
   二面性がよく表現されていたと思います。


   四季の村さんや高井さんのファントムには、殺人犯らしい狂気は
   あまり感じられないけど、こちらは長く地下に閉じこめられて
   心にゆがみが生じた悲劇の実感がありました。
   ただ、音楽や発明の天才、オペラ座に君臨する闇の支配者という
   神秘的な印象は、やはりウェバー版ファントムにはかないませんね〜。
   これはコピット版がもともと志向しているものとは違うのでしょうか。


   脇を固める人物で印象に残ったのは、永島 克さん演じる楽屋番のジャン・クロード。
   クリスティーンがオペラ座を尋ねて来たときに口利きをしてくれるのは彼ですし
   シャンドン伯爵やカルロッタとの共演場面も多く、なかなか目立つ役どころでした。
   劇中劇の開幕前に 「ほら、笑顔笑顔」 とか 「○○入りまーす」 といった
   スタッフらしい永島さんの声色もコミカルで、楽しませて頂きました。


   それにしても、ジャン・クロードの名前に聞き覚えがあるけどなんだっけ?
   と、観劇中悩んでいたのですが 「美女と野獣」で、お城の一部に変えられた
   召使いでしたね。 これはフランス人によくある名前なのかな?



   さてさて、ドラマが盛り上がってくるのはやっぱり2幕。

   4年前、宝塚版 「ファントム」 を見た時には、和央ようかエリックと
   樹里咲穂キャリエールの会話がホントに良かったです。
   終盤、キャリエールが父だと告白し、知っていたよとエリックが受けとめた後
   「自分の子供の顔をどう思う?」 
   「もう少しマシだったらなあ」 と、涙声ながら、うちとけて軽口を叩く様子や
   「でも、声はいいだろう?」 
   「ああ、おまえは素晴らしい歌手になれたはずだよ」 と
   終末を互いに悟りながら、エリックが子供っぽく甘える素顔に
   なんとも言えない父子の温かい情愛があって、大泣きした記憶があります。


   今回の大沢さんと伊藤ヨタロウさんの会話では、同じセリフはなかったのですが
   やはりしみじみと情を感じさせる雰囲気がありました。
   ただ、エリックがクリスティーンへ向ける愛情は母の面影を求めるゆえ
   クリスからエリックへの思いも、先生への尊敬と
   同情心がないまぜになっているだけ?という感は否めず。
   シャンドン伯爵との恋にはあまりフォーカスされていない演出なのか、
   ちょっとルカスさんがもったいない使われ方をしていたのは、残念だな〜。
   日本語は聞き取りにくかったけど、ルカスさんは歌はもちろん
   動作や表情にも魅力がありましたし、
   次回はぜひ母国語で本領発揮のお姿を見たいものです。



   さて物語の終盤、宝塚版では縄をかけられて生け捕りにされそうになり
   エリックがキャリエールをうながしますが、今回は大沢ファントムが短いフライングで
   階段のてっぺんから、客席上部のロープに飛びつくアクションがあって一同ビックリ。
   ですが、一番驚いたのはこの後ですよ。


   「助けてくれ! どうしたらいいかわかるよな!」
   「母さんのところに行きたいんだ、父さん! 撃ってくれ!」
   悲痛な叫びに、引きずられるように響く、一発の銃声。
   (揺れるロープの標的を狙う腕の確かさに、
    キャリエールいったい何者?という疑問はこの際置いて)


   舞台上に滑り落ちてきたエリックが父に抱かれて息を引き取る寸前、
   クリスティーンがキスをするために仮面を取ると
   醜い特殊メイクなしの綺麗な素顔が・・・・☆ (えぇ〜っ???)


   心が綺麗になったら顔も綺麗になったのか、母が見ていた美しい
   エリックの顔が、ラストでクリスティーンにも見えたという演出なのかしら。
   それともこれは大沢さんファンへのサービス(爆)? 
   と、ついついヨコシマな想像をしてしまう衝撃のラストシーンではありました。


   とまあ、あれこれ書きましたけれど
   オペラ座ファンとしては、ぜひ押さえておきたいコピット版ですし
   再演の折には、まったく同じキャストは(たぶん)実現しないでしょうから
   もしチャンスがあれば、一度ご覧になって頂きたいと思います(^^)。
   宝塚 「ファントム」 との比較、ウェバー版やテレビドラマ版との比較など
   色々な視点で掘り下げたくなる、興味深い舞台でした。



   大阪公演 1月13日〜27日、名古屋公演 2月1日〜3日、
   東京公演 2月7日〜22日





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