役柄の見所&キャスト別感想 オペラ座の怪人編

ラウル・ド・シャニュイ子爵

・佐野正幸さん


初演からアンサンブルとして「オペラ座の怪人」に携わり、ラウル子爵役を、もう10数年
演じていらっしゃいます。 回数でいえばもしかしたら一番多い方なのでしょうか。
いわゆる正統派の二枚目とはちょっと違うタイプかもしれません。
でもフェミニスト(女たらし?)ラウルが好きです。


目力が強い上にじーっと相手をみつめてからふっとほほ笑むような表情とか、常にクリスの
手を握ったり、優しくエスコートしたり、女性大好きというか女性を崇拝している感じが他の
男性とは大きく違うところ。クリスだけでなく、他の女性にも優しくて愛情の豊かな子爵様。


なにしろ「右手を目の高さに上げておきなさい」「私も一緒に行きますわ」のところ、あの短い
時間にメグの手を両手で握って「ニコッ」て笑顔まで見せるんですよ〜。
包容力と愛情、人間としての器の大きさを感じさせて、「無礼な若造」にしてはちょっと
出来すぎの感もなきにしもあらず。
だけどファントムとの対比を明確にすることを意識なさっているのだなあと思います。
二人の男性の間を揺れ動くクリスの気持ちに、素直に観客が入っていける役づくりはさすが
ベテラン。


そして、この方の表現の魅力は、つねに女性の夢を実現化できること(笑)
特にオペラ座の屋上で、ゆっくりとクリスの目をみつめながら彼女の手にする、祈るような
キスは、もう最高!だと思います。 

年齢的には、そろそろラウル卒業が近いのかもしれませんけど、恋愛ものは絶対に卒業して
ほしくない俳優さんではあります。

(2007年3月追記・・佐野さんは2006年8月に、待望のファントムデビューを
果たされました。 ラウル役は2006年6月18日公演で卒業だったのでしょうか・・・。)




・鈴木涼太さん


2003年9〜10月頃までの福岡公演登板でした。

佐野さんに比べると若造パワー全開ですね。でも、なんかあまりおヒゲが似合わないような。
ラウルは若い役なのだから、おヒゲなしの方が日本人の観客には受け入れやすいような
気もします。 顔が小さくてちょっと小粒な印象が残念。
素顔の写真はとってもチャーミングなのに、五東クリス・村田クリスとの組合せだと
余計に、姉と弟みたいな印象になってエスコート不足が目立ってしまいます。
若さと情熱はあるけど、貴族らしい上品さがもっと出てくると良いなと思うラウルでした。


と、ちょっと辛口になってしまいましたけど、「キャッツ」のスキンブルシャンクス役などは、
アイドル系でとっても評判が良いらしいので、単にキャラクターの問題かな。
・・・いや、元凶はやっぱりあのおヒゲかも☆




・内海雅智さん


2003年12月から福岡でラウル初デビューして、そのまま千秋楽日直前の3月24日まで
約4ヶ月連続登板。 その前は「異国の丘」にも出てらっしゃいました。


ルックスは高橋克典似のさわやか子爵様。
誠実そうで貴族というより、真面目に労働している青年という感じ。声楽畑ご出身で声が
よく通って良いのですが、ダンスはまだ、あまり得意じゃないみたい。
マスカレードでは肩のせリフトの直前に両手をひろげて少し腰を落としてクリスを迎えに
走っていってます。初々しくてちょっと可愛い(笑)。
きっと「さあ、次はリフトだー!」って気合が入ってるんですね。


最初に登場したときは、声だけやたら大きいし、カチカチに固くなっていらっしゃって、
どうなることかという気がしましたけど、4ヶ月の間にどんどん成長されました。
吸収の良い素直さを感じさせる俳優さんだと思います。
そういう変化をずっと見てこれたのは観客として幸せだったかもしれません。




 ここからは↓東京公演中に追加しました。



・石丸幹二さん


四季版CDのラウル役で、すっかりおなじみの石丸さん。
2005年1月の東京公演では開幕キャストとして華やかな姿を見せて下さいました。 
プリンスの呼び名にふさわしい清潔感のある容姿と、澄んだテノール。
冒頭、ボックス席からクリスを見守る横顔の麗しさは、ホントにタメ息ものです。
観客だけでなく、クリス女優さんにも夢を与えてくれる(笑)素敵な子爵さま。


ずっとCDを聴いていた私にとって、実際に石丸ラウルを見て意外に思ったのは
ファントムの仕業に対してクリスティーヌと一緒に苦悩するラウルだったこと。
ラウルが持つ大きな役割は、ファントムとクリスが共有する孤独とコンプレックス、
それゆえの結びつきの複雑さを理解できない部分だと、個人的には
思っているのですが、石丸さんのラウルはクリスと悩みを共有できちゃうような。
ラウルとクリスこそが王道の恋人達のはずなのに、どことなく悲恋の香りを
感じるのが面白いところだな〜と思いました。


個人的には、いずれファントム役にもぜひ挑戦して頂きたいです。
半面の美しさが、踏みにじられる才能の悲劇性を高めて、気高く透明感のある
ファントムになるのではないでしょうか。




・柳瀬大輔さん


柳瀬さんも前回の福岡公演ではラウル登場はゼロ。 でも、ラウルデビューからは
10年ほど経過しているので、実際にはベテラン子爵さまと言えると思います。
私自身は、東京公演で初めて拝見しました。 


「美女と野獣」 のビースト役でも思いましたが、柳瀬さんはいつも直球勝負というか
正直さや温かい人柄を感じさせる演技が魅力だと思います。
ラウルとしてもいつもクリスを熱っぽい視線で見つめ、クリスの言うことには
うんうんと熱心にうなずく、とびきり温熱効果の高い子爵様。
(なにしろこの4行の文章だけでも 「温」 と 「熱」 の字が一杯出てくるし☆)


私が見たのは苫田クリスとの組合せだけなのですが、例えば佐渡さんみたく
勢い強めのクリスも、すっぽりと包み込んでくれそうなラウルですね。
カテコで手をつなぐとき、列の端までつなぎ終わったかどうかを確認してから
正面を向く仕草や満面の笑顔にも、一種の風格が感じられました。


もう叶わぬ夢かもですが、一度井上智恵クリスとの組合せが見たかったな〜☆




・北澤裕輔さん


東京公演で唯一、新デビューしてラウル俳優の仲間入りを果たした北澤さん。
それまではずっと、プログラムにお名前があったもののなかなか登場しない
「幻のラウル」 状態だったそうですが、この2年間を振り返れば
東京公演の中盤戦は、ほとんど北澤ラウル一人で担った感じでした。


記録を見ると、2005年7月のデビュー時は、坂本泰子さんのクリスが
ご一緒だったのですね。 なんともお懐かしい☆ その後、佐渡クリス、苫田クリス
高木クリス、沼尾クリス、西クリス・・と全てのクリス女優さんのお相手を
務めていらっしゃいます。


北澤さんは歌唱がとっても安定した方で、それが一番素晴らしいのですけど
ラウル役としては、個人的にはやや優等生的というかクールな印象が
抜けきらなかったような気もします。
ファントムへの憎悪はスゴイのに、クリスへの恋情になると熱がなんとなく
トーンダウンしちゃうってのは、もしかしてご本人がとっても理性的な
タイプ(あくまで表現の、です)なのかなあと想像してみたり。


貴族さまとはいえども、ラウルの基本は恋する男の子なんだから、もう少し
オオカミ的下心を見せて下さっても良かったかも。 
(って、これは単なる私の願望かしら・笑)。








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クリスティーヌ・ダーエとは幼なじみ。 オペラ座のパトロンでもある若き子爵。
冒頭オークションシーンでは、数十年後の年老いた姿を観客に見せることになります。
舞台のすべては彼の思い出の中の物語であるともいえるのではないでしょうか。
愛情、美貌、社会的地位。 醜い顔ゆえに望むものすべてを持ち得なかったファントムに
対して、そのすべてを手にしうる恋敵。
ファントムと同じ女性を愛してしまったがために、子爵もまた渦中の人になっていきます。
光と影。実と虚。子爵とファントム。 永遠に相容れない二人ですが、クリスティーヌという
女性をホントに手に入れたのは、さてどちらだったのでしょうか。
若さゆえの情熱と、ファントムとクリスティーヌの結びつきを理解できない単純さ。
夢の世界に引きずられがちなクリスをつなぎとめる 「現実」、その象徴としての
存在である子爵には、ファントムとは全く違う種類の 「真実味」 が歌にも、演技にも
求められるのではないでしょうか。
もうひとつ、貴族としての育ちのよさを感じさせる品位も欠かせないポイントだと思います。