ミュージカル エリザベート 


         

                                       帝国劇場 1階 C列
                                               



                    当日のキャスト



 エリザベート 瀬奈じゅん  トート 石丸幹二  フランツ・ヨーゼフ 石川 禅
 ルドルフ 田代万里生  エルマー 岸 祐二  少年ルドルフ 坂口湧久
 ルキーニ 高嶋政宏   マックス 村井国夫  ゾフィ皇太后 寿 ひずる
 ルドヴィカ 阿知波悟美  ツェップス 広瀬彰勇

2010年8月24日(火)マチネ


8月9日〜10月30日の日程で開幕した 「エリザベート」 。
主要登場人物にかなりの新キャストを投入した公演が始まりました。
今年は地方公演はなく帝国劇場のみの上演です。


新キャストのなかでも、石丸幹二さんのトート初登場は
ミュージカルファンにとって注目のトピックス。
私も開幕から2週間が過ぎたばかりの石丸トートを、大きな期待と共に
見てまいりました。


石丸さんは退団後、意識的に大型ミュージカルや再演ものを避け
慎重に出演作を選んでこられた印象を受けます。
今回は宝塚版から数えればもう十数人が演じてきたトートという大役、
コアなファンも多いこの作品に挑むプレッシャーは、きっと並大抵の
ものではなかったでしょうね〜。


この翌日に、山口トート&瀬奈シシィでも観劇したので先輩後輩の違いが
よくわかりました。トートによって衣装はもちろん動きもかなり違うようです。
なので、今回は石丸トートの感想にそのへんの印象も
少し加えて書かせていただいています。








第1幕



我ら息絶えし者ども


平日にもかかわらず、客席はほぼ満席。翌日マチネの昼公演も完売とのことで
このご時世でもチケットはよく売れているようですね。
2年ぶりのエリザベート観劇、青いライトに照らし出されたセットを見ただけで
懐かしいのですが、亡者たちが 「誰も 知らない」 を歌い出した瞬間、
あーエリザの音楽はやっぱりいいなあと、胸が一杯になり思わず涙。。。
のっけから泣いててどうするんだ(笑)という感じですが、個人的に
ミュージカル観劇の機会が減ってるだけに曲の素晴らしさが胸にしみました。



トート登場〜私を燃やす愛


そんな感じでうるうるしてるうちに、いよいよ石丸トート降臨です。
ゴンドラ上で正面を向いているお姿は一瞬誰だかわからないくらいの大変貌。
青みがかったシルバーの髪に濃いアイメイク、下まぶたに沿って入った
ラメがきらきらしてます。
衣装の胸元がかなり開いててこれがまたまぶしい(笑)。


おー石丸さん綺麗☆と感動していたら、まさかの歌詞ミスがありました。
「人の命を 奪って」 のはずが 「めぐって」 となっちゃったみたい。
ここって 「貴女の愛を めぐって」 と同じメロディでしたっけ。


それはさておき、歌声という点ではさすが石丸さん。
安定感と艶のある歌、なんといってもこれが一番すばらしいです。
大きく口をあける歌い方は四季のなごりにも見えますが
唇をちょっとゆがめるように笑うシニカルな表情は、やっぱりこれまでの
石丸さんにはなかったところでしょうか。
山口さんが 「黄泉の帝王」 なら、石丸さんは 「憂い顔の死の王子」。
目の下のキラキラが涙目に見えるし、もしかしてこの閣下けっこう根が暗そう?(笑)。


この時の衣装は黒が基調で背中に銀の細い飾りが入った長い上着。
黒いパンツに膝より少し長いブーツをはいていらっしゃいました。
そうそう黒のつけ爪(もしくはネイル?)も装着でした。
ただ、パンツの前部分にドレープがあるデザインは、どうしても
足が短く見えるのでよほど背が高くないと似合わないような気もするなあ。



ポッセンホーフェン城の庭


瀬奈じゅんさんは今季から登場の新シシィ。
背が高いし、大人顔で凛々しくて落ちついた印象のシシィですね。
元男役の方からするとシシィはキーが高くて歌が大変なのではと思いますが
瀬奈さんは裏声も使って、そのへん上手にコントロールしていらっしゃいました。


阿知波さんのルドヴィカは気の良い肝っ玉母さん。 ルドヴィカ役は
今回カムバックでのキャスティングだそうですが、私は初見でした。
見なれた春風ひとみさんがエレガントな公爵夫人でしたので、どうしても
庶民的な印象が強くなっちゃうかな。 でも歌声は安定してて素敵です。
それにしても、タカラジェンヌさんのドレス慣れした所作の美しさには
毎回感心してしまいますわホント。



冥界〜愛と死の輪舞


木から落ちたシシィが、トートと初めて出会う場面。
二人の数十年におよぶ関係性を予感させるナンバーですが
ここで意外だったのは、石丸トートの動きが案外控えめだったこと。


いまや懐かしい内野トートの、崩れ落ちそうな自分の体を抱きしめたり
震える両手を見つめる動作、人間の少女に心を奪われるなんて
俺どうしたんだーみたいな動揺や懊悩が色っぽくて好きだったので
なんとなく石丸トートもそんな演技を想像しておりました。


とくに 「凍った心 とかす」 あたりは冷たい黄泉の帝王にとって
文字通り突然降ってきた初恋に、キュン死にしそうな(笑)衝撃の体験の
はずなので、石丸さんならそのへん細やかそうな気がしたんだけどな〜。


・・と、えらそうにスミマセン。
山口トートのシシィへのひと目惚れは、美しい宝石にほーっと見惚れている
自分にふと気付いた、ぐらいの感じですが、どちらかといえば石丸トートも
これに近い印象でしょうか。
うーん個人的にはもう少し動いてもいいというか、シシィに働きかけて
欲しいような気もいたします。 単なる好みの問題ではありますが。


とはいえ、まだ開幕2週間ということで
これからどんどん変わっていくのかもしれません。


あ、そうそう手を伸ばしてトートダンサーズを操るところなどは
ちょっぴりファントムっぽかったです。
石丸さんがファントムをやっていたらこんな感じだったのかも。



バートイシュル


お見合いでのシシィの衣装はくすんだレモン色のやや短いドレス。
シシィが荷物に腰かけて足をぶらぶらさせるので、ルドヴィカが必死で
おさえつけてるのがコミカルでちょっぴり笑えます。
今回ケーキを食べる演技はなく、ルキーニが操る蝶々を追っかけるという
演出にかわっていました。


石川さんのフランツは、あいかわらずのミラクルメイクで若ーい☆
でも、「レベッカ」 からずーっと連投で今回もシングルだしちょっとお痩せに
なったのではないでしょうか。 この方ほど、どんな役も安心してまかせられる
俳優さんはいらっしゃらないと思うし、ぜひ大切にしていただきたいもの。 
蝶をつかまえようとするシシィを、目を細めて見る笑顔が印象的でした。



ウイーン・アウグステン教会〜結婚式

ウェディングドレスに着替えたシシィの後ろに立ち、両手で目隠しするような
動きをくり返すルキーニ。 そのたびにシシィが振り払うのですが
これって以前からありましたっけ?
ルキーニとトートの共犯関係を印象づける狙いがあるのでしょうか。


高いところから見下ろし 「不幸のはじまり」 を予言するトート、
ここでも片頬だけで皮肉っぽい笑みを浮かべていました。



最後のダンス〜シェーンブルン宮殿


トートとシシィ、トートダンサーだけの大ナンバー。
人外感ありありの幽玄漂い系山口トートに比べると、個人的に
石丸トートは魔物というよりもう少しリアルな存在に感じられます。
それにキラキラはしてるんですけど、銀鱗みたいにひやっとぬめっとした
光り方で、いかにも仄暗いところが似合いそう。
なんだか本気で怒らせたらこわそうな閣下ではあります。


後半ロック調になるところ、石丸さんのこれまでの歌い方とは違って
エコーもきかせつつ、メリハリある歌声に圧倒されました。
ただ、動き的にはもう少し弾けてもいいんじゃないかな〜。
抑制してるというより、つい決めた形に忠実にやっちゃうのは
ご本人の慎重な性格のあらわれなのでしょうか。
ここも10月ぐらいに見ると印象が全く変わってるのかもしれません。



ハンガリー・デブレツイン


こちらも新キャスト、岸祐二さんの革命家エルマー登場です。
「ミス・サイゴン」 のジョンや 「レ・ミゼラブル」 アンジョルラスもそうですが
またもやリーダー的役柄ですね。
ウェーブのかかったヘアスタイル、話し声が相変わらず男っぽくて素敵です。
岸さんはあの胸に響かせるような声が良いんですよね〜。


シシィたちを狙うエルマーは、パレードで彼女を撃とうとします。
以前はトートのハンドパワーで、ねじ伏せられるような印象があったのですが
今回トートが手を差しのばして止めるしぐさをすると、エルマーが振り返って
ふっと毒気がぬけたような表情になり、ピストルをおろしてしまうという
演技になっていました。



闇が広がる


長女の死に怒り、なじるエリザベートにトートが歌いかけるナンバー。
甘い歌声の石丸トート、こういう丁寧さはさすがですね。
「あいつを 破滅へと 導くのだ」 ラストは正面向いたまま。
たぶん以前からあったんだと思いますが、暗転前に風が
吹きすぎる音が入っていたのが個人的には新鮮でした。



ウイーンのカフェ〜退屈しのぎ


出ました、ツェップスの元四季・広瀬彰勇さん。 お久しぶりでございます。
広瀬さんも岸さん同様、ちょっと長めの茶色いウェーブヘアでした。
最近下村さんが四季に復帰したことですし、広瀬さんも 「スルース」 とか
「CFY」 で四季に客演して下さらないかなあ。
元四季同士の石丸さんと並んで舞台に立っているお姿を見ると、
なんともいえない気持ちになりました。
ホント四季が手放したものは大きいよね(ため息)☆


カフェに来た石丸トートは髪をひとつにくくり、黒っぽいコートを羽織っています。
山口トートはここ髪は長いままでした。こういう細かいところも自由なんですね。


で、たしかここだったと思うのですが、ルキーニと顔を見合わせた後
最後に笑顔を見せてくるっと体を一回転させた石丸トートが良かった。
神経質そうであまり笑わないくせに、悪だくみの時だけ華やかな笑みを
見せるなんて、もう、どんだけ素敵なんだ(笑)。



エリザベートの居室

フランツが妻から締め出されてしまう場面。
初めて博多座で 「君が恋しい エリザベート」 を聞いた時
声の美しさにいっぺんで石川さんが大好きになったシーンです。


ここは、トートがどんな風に登場するかも楽しみなところ。
山口トートは普通にイスに座って、机にひじをついていますが、石丸トートは
机の上に座るパターン。
下手を向いたまま片膝を立てて机に座り、羽ペンを頭上にかざして
退屈そうに眺めるポーズでの登場でした。


引き寄せられてきたシシィのガウンを脱がせるのは背後から。
ちょっぴりごそごそした感じはご愛敬。ですが左肩をあらわにしただけでなく
石丸トート、しっかり胸のふくらみに手をそえて撫でてました。
オペラ座の羽交い締めも顔負けの大胆さですが、
えー、あれはあれで良いのですね閣下(笑)。
翌日見た山口トートは、正面から向かい合った姿勢でガウンに手を伸ばして
いましたし、このへん自由度が高くて対応するシシィ女優さん達も大変だなあ。


またもや誘惑作戦に失敗 「あなたには 頼らない」 と拒絶される
石丸トートのフィニッシュは、シシィを振り返り片手で指さすポーズでした。
個人的には山口トートの羽根ペンを床に突き刺す動作が、最もトートの
悔しさとか激しい性格が表現されてるような気がして好きなのですが、
これ案外難易度が高いのかも。 



1幕フィナーレ〜私だけに


有名な白いドレス姿の瀬奈シシィ、実在のエリザベートの肖像画に
お顔立ちをふくめて一番よく似てるんじゃないでしょうか。
白いライトに照らされた瀬奈シシィは、とにかく夢のように綺麗です。
太陽をめぐる月や星のようですよね、ここって。





第2幕




エーヤン・私が踊るとき


馬車に乗る時、シシィのドレスの裾がどこかにひっかかったらしく
フランツ皇帝自らかがんで、馬車の座席に裾を入れこんであげていました。
そういう演出に変更になったのかと思いましたが、翌日見たらそういうことは
なかったので、たまたまだったようです。
石川さんってこういうところがいつも丁寧で優しいですね。


御者として登場する石丸トート、もこもこ毛皮のコートです。
ムチをふるう前に少し笑みをうかべていました。



少年ルドルフの部屋


本に腰かけて少年ルドルフに語りかけるトート。
石丸トートは剣を向けるだけでなく、本を上がっていくルドルフの後ろ姿に
無表情のまま投げキスをしていました。
これも石丸さんだけの味つけみたいです。 
こういう残酷さはトートっぽくてなかなか良いですね〜。



エリザベートの体操室


石丸トートのドクターゼーブルガーはあまり年寄りっぽくありませんでした。
「待っていた!」 の後、飛びあがってくるのではなく
長椅子の上をさささっと這い寄ってきて、シシィの両手を握る動作が
妙にリアルで、ちょっとウケました。


山口トートのコートをぐるぐる回して放り投げ、大股で駆けよって
ソファに片足をかけたまま情熱的に歌う、ゴールデンレトリーバーが吠える
みたいな喜び方も微笑ましいのですが、石丸トートの
案外ちまっとしてる動作もまた面白いです。


激しく追いかけ回して歌いまくる先輩トートに比べると、スロースターターの
石丸トート。 「ごまかすな」 あたりもシシィが逃げたあとのソファに座ったまま。
動きは比較的少ないのですが、声はメリハリがあって迫力満点。
最後は両手を広げてシシィを追い詰めていました。 



ゾフィー皇太后の死


何度見ても涙が出てくるこのシーン。
トートダンサーではベテランになった東山さんの横顔がホントに綺麗です。
皇太后の死を、荘厳で静かなものとして描く演出はホントに素晴らしいと思います。



ホーフブルグ宮殿の廊下〜ルドルフ登場


田代万里生さんも今季の新キャスト組。
シャム猫の子みたいな可愛い表情が印象的ですが実は初見です。
歌は端正なテノールだけど、話し声はあんがい低めなんですね。
ちょっぴりセリフに力が入りすぎてるような気もしますが、悩める
皇太子像としては良かったのではないでしょうか。



闇が広がる


ここって段取りが多い上に、歌いながら男同士で踊る難しそうな場面ですが
正直言って歌声の綺麗さほどには、見た目が美しくないのは
まだお二人とも余裕がないからかなあ。 
ルドルフは特に苦悩する場面というせいもあるのでしょうけど
なんとなくお互い相手を見ていないような印象を受けました。



ハンガリー独立運動

カフェからエーヤン、逮捕へ続くめまぐるしいシーンですが、なんといっても
石丸トートのダンスが良かったです。 
なんというか、こんな風にダイナミックに動いてほしかったんだなあと
自分のニーズを再確認しましたよ(笑)。


逮捕のきっかけとなる3発の発砲音、石丸トートがピストルの形にした
自らの手にキスしてから高く掲げて合図してました。
この動作も翌日の山口トートではなし。
城田トートは未見ですが、色々と細かいところで工夫されてるんですね。



マイヤーリンク〜ルドルフの死


ストーリー的にはもちろん、観客的にも大事な(笑)クライマックス。
田代さんと石丸さんはほとんど身長差がなく、ルドルフの身体を正面に
向けてるとキスはしにくそう。でもキスの滞空時間は結構長かったです。


ただ、正直言って個人的には何度見てもこのシーンは山口トートが
マイベスト、イチオシの死の接吻だなあ。
ルドルフとの身長差をいかし、しっかり抱き寄せたうえで
あくまで優しく唇を重ねる山口トートのキスは、甘いため息のようでもあり
ルドルフを陶酔の別世界にいざなうようでもあります。 


ルドルフが目を閉じる時 「あ、連れて行かれる・・・」 という表情が見えるのが
一番エロティックなところなんじゃないでしょうか。


トートが離れてから、ルドルフがピストルを手に呆然としてる時間は前回より
長くなりましたよね? 田代さんが最後の瞬間に、足をきちんと揃えてから
撃つのがなんだか珍しかったです。



悪夢


さて、もろもろすっとばして終盤の悪夢。
マエストロ姿の石丸トートは、最初からヤスリを持って指揮棒がわりに
振っていらっしゃいました。
ここもほとんど笑わずクールなムード表情でしたが、最後の方で
舌を出すような表情もありましたっけ。



フィナーレ〜愛のテーマ


暗殺後、白いドレスで蘇ったシシィ。 下手からお迎えに来たトートは
モスグリーンとグレーの長い上着姿です。
トートが腕を広げ、抱きしめたシシィの髪を撫でる動作が印象的でした。


愛しいシシィを棺に納め、最後は足下のルキーニにトートが目をやって終幕。
なにか手で合図したような気もしますので、冒頭とのつながりを重視して
しっかりとルキーニに引導を渡してやるという演出になったのかもしれません。




続くカーテンコールは華やかに。
スタンディングのお客様を前に、トートから一転穏やかな笑顔を見せる石丸さんが
とっても懐かしかったなあ。 「壁抜け男」 でニコニコしていたカテコとか
ラウルのシャツはボロボロ、なのに爽やかな笑顔を振りまいていたオペラ座の
カテコを思い出してしまいました。
最後は瀬奈さんと石丸さんの二人で登場。
仲良く手をつないで客席に手を振る、明るいフィナーレでした。





そんなわけで、2年ぶりのエリザ観劇を終えてみて。



久々の生オケでもありましたし、まずは楽曲の素晴らしさを実感しましたね〜。
注目の新キャスト、石丸トートは鮮烈な魅力を発揮してて、
お客様の評判が良いのにも大納得。



ただ、純粋な好みだけを言えば、正直言って個人的には
どこか大らかで暖かみのある先輩トートの方がしっくり来るかな。
もちろんどれが正しいということはなく、トートという役柄に求めるイメージの
違いにすぎないと思います。
要するに、私にとってトート像は 「生と死を司る大天使」 に近いのかも。
しかしこれもあくまで初見での感想ですから、次回もし石丸トートで
観劇する機会があれば、印象もまた変わるのかもしれません。



願わくば、ますますシシィへの愛のストーカー行為に磨きをかけ(笑)、
よりしっとりと、よりセクシーな閣下に進化して行かれますよう。
ファンとしてご活躍を心からお祈りしております。




・・・と、書いてるそばからまた遠征したくなっちゃいます。
あーこの演目は素晴らしい麻薬ですねまったくだ☆









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