2007年9月30日、10月13日、11月23日の3回






                  きみこむの劇評ワークショップ体験記 




                           
                         「Link Theater 2007 エンゲキ上映&パネルトーク」
                         関連企画として福岡県内・大野城まどかぴあにて開催。






〜その1〜 レクチャー編



演劇雑誌やプログラム等、色々なところでお名前を目にする演劇評論家・扇田昭彦氏が
講師をつとめる 「劇評ワークショップ」 なるものが隣市で開催されたので参加しました。



参加のきっかけは福岡シティ劇場の近くで目にした1枚のチラシ。
定員10名程度、応募多数の場合は選考ありということで無理かなーと
ドキドキだったのですが、幸いメンバーに入れて頂くことができてホッと安心。
あとで聞いたら定員の倍以上の応募があったそうです。



サイトやブログ全盛の昨今、ネット上には観劇ファンによる感想やレポが沢山ありますが、
それらといわゆる 「劇評」 はどう違うのか? 常々ばくぜんとした疑問もありましたし、プロの
評論家ならではの視点を知るのも楽しみなところ。



ワークショップは、第1回目のみレクチャーがあって午後から「Link Theater 2007」の
企画に沿って舞台のDVD鑑賞。 
それをもとに書いた劇評を課題提出後、2回目、3回目は各自の劇評を扇田氏が
添削して下さるという流れになっていました。



今回はその1として、第1回目に扇田さんから受けた講義とその感想について
記録しておきたいと思います。





はじめに



会場に入ると、参加者と関係者合わせて20人ほど。えらくスタッフさんが多いなあと思ったら、
見学者もあったらしく、初回は正確な参加者がよくわからない状態でした。
やがて登場した扇田さんは黒っぽいジャケットスタイル。物腰が上品でやわらかく、こういっては
なんですが澄んだ大きな目が清らかな男性という印象を受けました。
(なんとなくジャンバルジャンを思い浮かべたのは、綺麗な白髪のせい?)



まずは講義の前に参加メンバーも自己紹介。
聞いてみると現役の新聞記者さんや演劇に関するNPO法人の事務局長さん、個人で
劇評誌を発行していらっしゃる方、それにすでに新聞で劇評の連載をお持ちの方もいて、
半数を占めるそうそうたる顔ぶれにちょっとビックリ☆
もちろん残り半分は私を含めて一般の観劇ファンだったのですが、自己紹介を聞く限りでは
ミュージカルよりも小劇場系を含む演劇ファンが多いようでした。
(なので、メンバーの方と雑談しても知らない俳優さんや劇団の話が多くて、地元演劇界に
まったく貢献してない自分を再認識。。。)



前置きが長くなりましたが、ここから扇田さんの講義概要です。
詳しいレジメがありましたのでその流れに沿って、私の感想や見解と混同しないよう段落を
変えて表示しています。





【劇評と感想文の違い】




 ・劇評は読み手を想定して書く。まだその舞台を見ていない人にも、舞台の様子が
  ある程度想像できるように書くのが大切で、この点が感想文や日記とは違う。



つまり、ネット上の日記という意味でのブログで書かれたものでも、読者を想定している以上は
すべて劇評というわけです。
そうは言っても、我々シロウトの観劇レポと扇田さんのようなプロが雑誌や新聞で
発表する劇評には、やはり隔たりがあるような・・。


と、話を聞く段階では疑問を持っていたのですが、あとから考えてみるに自分から外部へ
発信されている、つまり「伝える」意識を筆者が持つか否かが大切で、スタイルの違いは
想定する読者層や媒体の違いにすぎないって気もします。




【劇評を書く際の注意点】



 ・読者に舞台の様子や出来ばえがある程度わかるように具体的に書く。
  批評だけでなく描写力も必要。



たしかに、新聞の劇評では字数制限のせいか「○○が好演していた」だけで、
何がどう良かったのかわからない文章もありますね。




 ・文章はなるべくわかりやすく、明快に、しかも魅力的に。 ユーモア感覚など書き手の
  個性が出ても良い。



具体的には中学生でもわかる表現を心がけていらっしゃるそうです。




 ・字数が限られていても、作品のあらすじや舞台の視覚イメージが思い浮かぶように書く。
  (誰でも知っている古典などでは不要なことも)
  演技の出来映えにも必ず触れる。できれば舞台装置、衣装、照明、音楽などにも言及する。



これについては、単に「美術」とか「照明」が良かったとだけ書くのではなく担当者の名前も
出してあげて欲しいというお話がありました。




 ・詩や小説のような活字の評論と舞台の劇評は違う。 台本をもとに演出、演技、美術、
  音楽、照明など多くの要素に加え、観劇した日の俳優の状態や見る席によっても
  印象が変わる。
  そうしたことを念頭に置きつつ、舞台全体をどう感じどう受け止めたかを
  整理して書く必要がある。




 ・雑誌や単行本、もしくは戯曲集などで事前に戯曲を読むことができるなら、観劇前か
  観劇後に戯曲を読む方がいい。
  読むことによって、役柄の解釈や造形の意図がわかる。



読むことで原作通りにしていない部分がわかる利点もあるとのこと。




 ・舞台の分析だけでなく、筆者が観客として楽しむことができたか。個人的な体験などに
  つなげて書くと親近感が出る。




 ・以上のようにバランス良く目配りのきいた劇評が標準的だが、必ずしも枠組に
  こだわる必要はない。
  独自の視点、面白さを優先にした文体、特定のキーワードから
  舞台を分析するなど意表をつくスタイルの劇評もあり得る。



この点について特に強く印象に残っている劇評の例として、扇田さんが
過去の受講生さんが書いた作品の話をして下さいました。

その劇評の書き出しは 「目が覚めると病院だった。」
一人称の文章の主は時計を見ると大あわてで劇場に飛んでいきますが、舞台上には
自分がやるはずの役を演じている別の俳優が・・・。 


題材は市村正親さんご出演の 「You Are The Top」 ですが、これ実は
病気のため初日を迎える前に共演者の鹿賀丈史さんが降板した舞台。
つまりこの劇評は出演しなかった俳優の視点から書かれたものというわけ。



なるほど、そのまま新聞や雑誌に掲載するわけにはいかないけど、フィクション的劇評の
スタイルとしては面白いですね〜。
扇田さんも仰っていました、「あれはきっと一生忘れません(笑)」。




 ・劇評は舞台の記憶があるうちに、できるだけ早く書く方が良い。
  メモをとったり舞台装置のスケッチを書くのも役にたつ。



 ・劇評を雑誌等に公表した際、批判的な厳しい内容を書くと上演側や劇団から反論が
  くる場合も考えられる。 そういう事態も想定して、事実関係をしっかり確認して書くこと。
  ただし反論を恐れるあまり劇評が弱腰になってはいけない。



このへん、とくに名前の出る評論記事を書く方には必須でしょうか。
もちろんネット上で匿名なら何を書いても許されるということではありませんが、少なくとも
ちょっとしたケアレスミスでつっこまれることのないよう、事実確認の取れる事がらについては
まめに調べて書く姿勢が必要ということなのだと思います。


扇田さんの知人の脚本演出家さんが、「すごくほめてる劇評に喜んだら、芝居の中味や
解釈がホントに自分の作品の劇評かと思うくらい間違ってて、相手が好意的なだけに複雑だ」
と仰ったというお話もありましたっけ。





【劇評を書く上で自戒すべきこと】



あくまで私の場合ですが。と、前置きがあって



 ・若く新しい才能の芽を偏狭な目で裁断し、摘み取るようなマネはしない。




 ・画期的な新しい才能は、異様で見慣れない姿をとって現れることが多い。 
  従来の価値観だけで新しい才能を判断しないこと。




 ・うまいかヘタかという技術評だけで劇評を書かないこと。 若い世代の場合はたいてい
  技術的には幼いが、その奥にひそむ新しい才能の質、めざすものを感じ取ることが重要。




 ・舞台が良くないからといって、表現者をばかにしたりしない。
  高圧的、威圧的になるような劇評は書かないこと。 長い時間とエネルギーを費やして
  舞台を造った表現者たちへの敬意を忘れないこと。



舞台があるからこそ批評の余地が存在するわけで、数ヶ月もしくは数年かけて
準備されたものを敬意のない表現で一方的にけなすのは劇評のあるべき姿でない、という
扇田さんの姿勢には私も賛成です。
もちろん批判的な表現を一切しないということではなく、批評の中にさらなる向上への
願いが存在することが肝要なのですね。





以上が、劇評を書くための基本的な心がまえの概要です。
少しだけ質疑応答があってから、お昼休みとなりました。



この日の午後は講義の内容を念頭に置きつつ、
サードステージ 「僕たちの好きだった革命」 DVD鑑賞。 観賞後のパネルトークには
はるばる東京から鴻上尚史さんもいらっしゃって、地方の民にとっては
まことに豪華な1日でした。





さて、次回はいよいよ実践編。 
締め切りまで課題作成に与えられた時間は5日間です。 
字数の制限はゆるかったのですが(A41枚に収まる程度)、慣れないスタイルでの劇評に
四苦八苦の体験となりました。
いやはや何の分野でも、仕事となるとプロは大変でございます☆







                                               体験記その2に続く。


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