2006年8月25日(金)マチネ



2006年8月8日、約5年ぶりに 「オペラ座の怪人」 新ファントムが誕生しました。


9代目ファントムとなったのは、初演からアンサンブルとしてこの演目に携わり、
ラウル子爵役を10年以上務めて来られた佐野正幸さん。
入団20年目でついにつかんだ大役とのことで、オペラ座ファンの期待も高まる中、 
新登場から3週目に、私もようやく佐野ファントムとの初対面となりました。

今回はファントム中心レポになっております。 なにとぞお許しを。 




第1幕



ハンニバル

松下さんのムッシュー・レイエ、私にとっては今回がお初でした。
立岡レイエみたいな職人気質の頑固さはあまりなく、かといって喜納レイエのような
中間管理職の悲哀もない、人の良さそうな穏やかレイエさんという感じでしょうか。
「帰りこし から!」 では足を踏みならさず、本を叩いて合図するんですね。



Think of me

北澤ラウル、今日はボックス席で他の人と話してる時間が長かったような。
あまりクリスを見てなかったので、最後になってアーっと口をあけて立ち上がり
「あれは、クリスティーヌ」 って歌い出す、あわてんぼラウル君って感じ?



クリスティーヌの楽屋

いよいよ聞こえてきた佐野ファントムの声。
先輩ファントムさんに比べると、ちょっとゆっくりめの 「ブラーヴァ・・」。


おぉ、もうすぐだ〜♪っとワクワクしながらも
ラウルが支配人さん達と話している間、ちょっと笑ってしまったのは沼尾クリス。 
ドレッシングガウンの落ち着き具合が今ひとつだったようで、
鏡台の前でなにやらゴソゴソ。  
しまいにはウエスト正面に手をあてて、よいしょっと、って感じでぐるっと
合わせ目のリボンを回しちゃったので、福岡オペラ座時代の大ざっぱ姫を
思い出して、なんだか妙に懐かしかったわ(笑)。



ファントム登場

ドラムロールと共に、見ている方も緊張と期待が高まります。


「わたしの 宝物に」 


ハッと顔を上げる沼尾クリスとお客さま。
予想はしていたものの、実際に現れたファントムの顔の位置が高いのにビックリ☆
ちょっと微笑んでます?  
目が大きくて、頬が細くて輪郭が綺麗だな〜。 



オペラ座の地下

「音楽の天使よ」 と、佐野ファントムはハッキリ仰るんですね。
高井さん、村さんは最後の 「よ」 があまり聞こえなかったけど、これって
もしかしたら言ってなかったのでしょうか。


髪を撫でつける仕草は、身体の外側ではなく
お腹の中央から撫で上げてきて、それから髪に手を・・・という流れでした。
中指を折り込んでクリスを呼び寄せる指が、なんとも妖しいファントム。


モデルみたいに一本の線上を歩くような動作とか、
クリスを見やる時に、軽く肩をくねらせるように顔を向ける仕草が独特です。
うわ〜セクシーというよりも、ちょっぴりいやらしい雰囲気があるのが
スゴイというかなんというか☆



The Music of the night

ファントムがオルガンを弾きながら歌う場面、とにかくクリスを見つめる視線が強い。
「歌ってほしい」 はニッコリ笑い、 「どうか」 で、ささやき声になったかと思うと
「静かに 広がる闇」 では取り憑かれたような表情に。
で、「優しい夜」 のあたりでまた笑うんですが、
目つきがすでに狂ってるというか、ストーカー度満点でこわ〜い。


うーん、ラウル役の時と、まったく視線の質が違うのはスゴイですよ佐野さん☆ 
俳優さんだから役柄によって演技を変えてくるのは当たり前なんでしょうけど、
改めてつくづく感心。


ただ、歌唱そのものは、高井・村両先輩ほどの余裕はまだなさそうで
「心は空に 高くーー」 の部分もあまり長くは伸ばさず、でした。
でもこの日は、初めて見る佐野ファントムの外見に気を取られて
正直言って、歌は隅々までは聴いてなかったような(^^A)。



さて、そんなこんなで羽交い締めシーン。
クリスの身体を揺らしているときは、ファントムも目を閉じて少し頬を寄せるようにしてます。
胸元のレースにもしっかり触っていましたが、手の平を一杯に広げた状態だったので、
高井ファントムみたいに身体の曲線に合わせて触れたという雰囲気ではありませんでした。
というか、あれは高井ファントムだけの標準装備なんでしょうね多分☆


倒れたクリスにマントをかけたら、左半身だけに片寄ってしまったので
佐野ファントムがひざまずいて、布を右の方まで伸ばしてあげてました。 
暗転まで、時間的にはほんの少しなんですけど、
こういうところはフェミニストぶりが出るというか、面白いところです。


聞くところによると別の日の佐野ファントム、クリスの足が出たところにも
きちんとマントをかけ直したそうで、やっぱりここは
「ほらほら、お布団から出ると風邪ひくよ」(笑)って感じなのでしょうか。



暗転後。

作曲する佐野ファントムのうつむき顔を見ながら、
「うわぁまばたきがハッキリ見えるな〜」 と妙なところで感心。
ほら、目が大きくて二重くっきりの人は、まばたきがゆっくりしてるように見えるし、
目を閉じてから開けきるまでの時間も長いですものね。
いえ、両先輩が目をあけてるか閉じてるかよくわからないなんて、
そういう意味では決して☆



続くアンマスクシーンですが、マスクを取られて顔を覆う右手、小指が
立っているのは佐野さんご本人のクセ? 
それともファントムとしての表現なのでしょうか。
「ちくしょう!」 は叫んだけど、「地獄へいけ」 と 「呪われろ」はつぶやきに近く。


マスクを返してもらった後の佐野ファントムは、村ファントム風にクリスの顔に
触れようとする仕草をしてらっしゃいました。
ただファントム自身も、クリスに顔を寄せるようにしてるのが珍しい。



イル・ムート

アーチ上のファントムは、私の席からはよく見えなかったけど、
「カエルとは お前のことだ」 のセリフはゆっくりめの発音だったと思います。
「ははは・・」 笑い声も低く不気味にゆっくりと。



オペラ座の屋上

佐野ファントムに狂気じみた雰囲気がある分、ラウルがいつも以上に常識ある
正常な人に見えます。 今日はちょっぴりお疲れの感じられる
北澤ラウルと沼尾クリスですが、この場面の歌声はさすがに美しい〜♪


ただ個人的な印象なのですが、北澤さんのラウルって他のラウル俳優さんとは
ちょっと違うタイミングで、笑顔のスイッチが入るような気がします。
うまく言えないんですけど、「あれ、そこで笑うの?」 という瞬間があるんですよね。


トークイベントで、素直でよく笑う北澤さんの素顔に触れてビックリしましたが、
どうしてあの魅力が、ラウルでもっと発揮されないのかな〜。
愛情一杯に育った、良い意味でのぼんぼんぶりが、ラウルともすごく共通すると思うし。


・・と、えらそうにすみません。

ただ、あくまで想像なんですけど、北澤ラウルが厳しい恋人に感じられるのは、
歌う事への姿勢が厳格だからなんじゃないでしょうか。
北澤さんは歌う時になると、ご自分を律する気持ちが強くなるというか、
感情に流されなくなっちゃうような。
いつも安定した歌が素晴らしいだけに、感情も安定しちゃうのはもったいないかも☆


なによりクリスへの抑えきれない恋心の衝動に突き動かされているような
雰囲気が欲しい・・というのは、わがままでしょうか。
それとも、特権階級の子爵であるということが重点になっているのかなあ。
先輩ラウルと全部同じである必要はないとは思うけど、甘い気分、憧れ、情熱、
それからさらに大事な下心(爆)も、北澤ラウルにはもっと見せて頂きたい気がいたします。



エンジェル像

上の様子は見えなかったので、声だけで鑑賞。
エンジェル像で嘆くところ、ちょっとか細いけど泣き声のリアルさがありますね。
次の機会には、ぜひ耳をふさぐ佐野ファントムを見てみたいと思いました。

(なにしろ 「王様の耳はロバの耳」 で、佐野さん演じる床屋の
 眉をひそめるようにイヤイヤする苦悩っぷりが、もう最高!だったもので。
 ・・・って、ファミミュなのにマニアックすぎ?・笑)




余談ですけどこの日、斜め後ろに小学校低学年くらいの女の子とお母様が
いらしてたのですが、シャンデリア落下がすぐ近くだったので、
明るくなってから、女の子が 「ふー危なかったねぇ。」 って真剣に
お母さんに言ってたのが、えらく可愛かったな〜♪ 




第2幕


マスカレード

佐野ファントム登場時、階段で足元があぶなっかしいところがあって一瞬ヒヤリ。
それから奈落に落ちる瞬間に、マントをつかみそこねたようで、
腕は上げたものの布は身体を隠してなかったようです。
考えてみると、顔をほとんど覆ったまま色々やるのって大変ですね。 



墓場にて

だんだん調子も出てきたのか、このデュエットはとっても良かったです。
高井ファントムだと、呼び寄せるように手を動かすところですが、
佐野ファントムは左手を前方に出してのほぼ静止状態。


それにしても、ファントムのセリフは若々しいな〜。 
佐野さんは語尾をちょっと持ち上げるような発音が多いからでしょうか。 
「行くな!」 の言い方なんて、まさに青年ファントム。
じれている子供のような宣戦布告☆



The point of no return

まず、おっと思うのは黒いカーテンから出てきた時の佐野ファントムの背の高さ。
やっぱり小指を立ててますね〜。 


両手を胸にあてるような仕草をしたり、クリスに訴えかける熱っぽさと
必死さがよーく伝わります。
「未知の 愛のよろこび」 では、高井ファントムのように後ろに立つ仕草は無し。
全体的に村ファントムの動きに近い部分が多いんですね多分。


沼尾クリスのアミンタとしてのソロ。
「物語が 始まる」 の歌い方とかずいぶんツヤっぽくて、今日のクリスは挑発的☆
根が純情そうな佐野ファントムには、これはかなり刺激が強そう(笑)。


クリスにフードをとられて一瞬肩をすくめ、それから顔を近づける佐野ファントム。
震える手でクリスに指輪をはめてやる雰囲気が、とっても良かったです。
ワールドツアーで見たブラッド・リトル氏のファントムを思い出しました。



ふたたび地下へ

さて、いよいよ終盤戦。
クリスを連れてきて、乱暴に扱う佐野ファントム、目をギラギラさせています。
「醜くゆがんだ この顔」 の言い方がホントに辛そう。
「嫌い抜かれて!」 って、ちょっと吐き捨てるように言うのがまたリアルです。


「醜さは顔にはないわ」で、村ファントムは先にブーケを持たせていますが、
佐野ファントムは 「けがれは心の中よ」 の最後あたりで、ようやくブーケを
握らせていました。 こういうタイミングの違いは面白いな〜。



ところでこの地下のシーン、佐野ファントムはずっと猫背気味の姿勢にしています。
市村ファントムが背中を丸めるように立ってる写真を見たことがあるのですが、
これは、もしかして大先輩ファントムの演技を踏襲しているのでしょうか。
同じ場所に来たのに、1幕のスマートさが2幕では徹底的に崩れているというのは
かなり納得のような気が致します。



「素晴らしい夜になりそうだ」 ではハッキリ笑ってましたね。
イスに座るとき、必ず片足を前に流すようにするのが綺麗で、妙にツボだわ♪


クリスを突き飛ばしてオルガンに行くところ、小走りにならずに大股でさっさっと早足で
歩く姿がラウルそのままの颯爽ぶりだったので、「あら、急にラウルが☆」。



弾いているオルガンの手元も見ないし、顔も伏せない佐野ファントム。
目がキラキラして、ギロッと見る方向がよくわかります。
ずっと顔を上げて肩で息をしながらクリスを見つめる、熱っぽい視線の怖いこと。 


クリスもあんなに焦げつきそうな視線で見つめられたら、恋人はもちろん
自分もいつ殺されても不思議はないと思えたでしょうね。 

この状況でクリスの足をファントムに向かわせたのは、過去の思慕や情だけじゃない。 
佐野ファントムを見て、初めてクリスの “信仰心” を感じました。




そして、キスシーン。

振り返り、ハッと驚いたところでキスをされて、思わず目をつぶるファントム。
抱きしめられて、気が遠くなりそうな表情を見せます。


クリスの手から逃れて、呆然としている目は焦点が定まらない感じ。


高井ファントムだと、あんがい意志的にしっかり歩いてる印象ですが、
足元をふらつかせている佐野ファントムは、まだ衝撃から立ち直っていないような。


ローソクを持った右手を高く掲げるのは、なんだか新鮮で面白かったな〜。



「行け! 行ってくれ!」 は叫んだけど 「お願いだ」 は絶叫というより、
村さんと同じように歌の発声でした。
ただ、長く伸ばした最後が嗚咽みたいになるのが実にうまい。 




たった一人で泣きながら歌うマスカレードの旋律は、
細く、ささやくように。



ファントムは指輪を返しに来たクリスに向かって、必死に笑みを作ろうとしています。
まだ希望を捨ててない、いえ捨てられないというべきでしょうか。
しかし、クリスは目を伏せて去って行くのですね。 
もう客席の雰囲気も涙涙。。。



指輪をはめた手に顔を寄せてから歩き出し、
ひざまずいて拾い上げたベールを、胸の高い位置でぎゅーっと抱きしめました。
夢見るような遠くを見ているような瞳。



歩き出すファントムの後ろを、ラウルとクリスのボートが通って行きます。


佐野ファントムは後ろを向く前に、もう一度ベールに頬ずりして。 
その目が涙で一杯になっていて、胸が痛みました。
まるで、置いてけぼりにされた子供みたい。



涙でうるんだ目で歌い上げた 「わが愛は 終わりぬ」。 



最後の言葉は、空に解き放つような印象がありました。





カーテンコール

ラウルは、だっと走って来て勢いよくお辞儀しますが、
さすがに今日の佐野さんは胸に片手をあてて、ファントムとしてのお辞儀です。
その姿を初めて見たとき、あらためて
あぁ、佐野さんついにファントムデビューしたんだな〜としみじみ。 


通常のカテコに加えて、3人が幕の隙間から出てきた後も拍手がやまず
再度のコールはお手振りでさようなら。 
驚きと感激が一杯で、大満足の観劇となりました。





観劇を終えて

初回は先輩ファントムさんのイメージが残ってるので、多少違和感もありましたが、
観劇を終えたあとからジワジワと胸によみがえって、
「もう一度観たいな」 と思わせる、不思議な魅力のファントムでしたね〜。


その魅力は例えるなら、同じ酔わせるのでも、高井ファントムや村ファントムが
強い洋酒だとするなら、佐野ファントムは悪いクスリって感じ☆ 
これ、別にけなしてるわけではありません。
心地良さ100%の酔いとは限らないのですが、中毒性はこちらの方が強いかも。
身体の奥深くに沁みこんで、絶対に抜けない毒がありそうといいますか。


あの軽い恐怖感とか狂気をともなう雰囲気に比べたら、
高井ファントムと村ファントムの愛情表現が、いかにノーマルなものに近いことか。
(特に村ファントムは自分の年齢や境遇をわきまえた、変な言い方ですけど
 至極まっとうな男性像なんですね。)



佐野さんのファントムの印象は


みにくいけれど綺麗で、怖いけれど愛おしくて、そして悲しいほどに儚い。



クリスもラウルもずっとあとになってみると、
ホントにあれは生身の人間だったのか。
自分たちが同時に見た幻覚だったのではないだろうか。
そんな風に感じたのでは、と思えるほど何かが希薄な存在。


目が覚めたら、どうしても思い出せない夢のような。



もしかしたらファントムの原点に、立ち返っているのかもしれない。
そんなことを、観劇後に思いました。



さて、今回のレポは3週目のものですが、その後観劇された皆さんの
お話を伺うと、日を追うごとに細かい点は徐々に変わっている部分もあるようで。
佐野さんご自身も、ファントムという大役と日々向き合い、
研究を重ねている段階なのではないでしょうか。




これからどんな進化を見せて下さるのか、心から楽しみです♪







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                  オペラ座の怪人 


                                 電通劇場「海」 1階 S席 3列



                      当日のキャスト



  オペラ座の怪人 佐野正幸  クリスティーヌ 沼尾みゆき  ラウル子爵 北澤裕輔
  カルロッタ  種子島美樹    メグ・ジリー 宮内麻衣    マダム・ジリー 秋山知子
  ムッシューアンドレ 林 和男   ムッシューフィルマン  青木 朗
  ウバルト・ピアンジ 半場俊一郎  ムッシューレイエ 松下武史
  ムッシュールフェーブル 川地啓友