オペラ座の怪人 


                                 電通劇場「海」 1階 S席 6列



                      当日のキャスト



  オペラ座の怪人 村 俊英  クリスティーヌ 苫田亜沙子  ラウル子爵 柳瀬大輔
  カルロッタ  種子島美樹    メグ・ジリー 荒井香織    マダム・ジリー 戸田愛子
  ムッシューアンドレ 寺田真実   ムッシューフィルマン  小林克人
  ウバルト・ビアンジ 半場俊一郎  ムッシューレイエ 深見正博
  ムッシュールフェーブル 鈴木 周

2006年3月8日(水)ソワレ

コートいらずの18度という気温に驚きつつ、約5週間ぶりにやってきました。
ようやく念願が叶って、福岡公演は登場回数ゼロだった柳瀬ラウルとの初対面です。


今回の東京公演での柳瀬ラウルの初登場は、たしか05年の3月でしたから、
約1年ぶり、ホントに久々の子爵さま復帰ということになりますね。
昨年秋にデビューした苫田クリスとの組合せは、もちろん初めてなので楽しみです♪
以下、柳瀬ラウル中心のレポになっておりますが
今回は初対面の衝撃ゆえということで、なにとぞお許しを(^^)。




第1幕



オークション

さて、まずは老ラウルを見なくては。
この場面で面白いな〜と思ったのは、しゃれこうべの小道具といったクリスに
関係ないものが出品されているときは、ラウルが興味なさげに顔を伏せてオークションの
小冊子を読んでいるところ。
オルゴールを落札した時も満足げにうなずく細かい演技に、ほーさすがベテラン子爵、と
冒頭から感心☆



「ハンニバル」リハーサル

この場面が始まってから気がつきました。 私は深見さんのレイエもお初でした。
深見さんって、どの役でもどことなくコミカルなところが大好きなんですよね〜。
カーラの衣装を手直しする女性がコケるのを見てびっくりする表情に加え、
「恐れ入ります」 が、おネエ風口調なのが妙におっかしい☆


寺田さんのアンドレ役もお久しぶり。
熱心・・というより、どこかに食い入るように(笑)ダンサーさんを見つめてる様子が
なんだか笑えます。
寺田さんも深見さんに負けず劣らずの演技の細かさなので、ルフェーブルの説明に、
大げさにうなずいたり感心したり。
小林フィルマンも演技が細かいし、なんだか今日はすっごく濃ゆいハンニバルだな〜。
たとえるなら、白みそじゃなくて、赤みそ?(って、別にみそにたとえなくても☆)



Think of Me

わー出た〜柳瀬ラウルですー♪ 
髪型は前方は横分け、あとは後ろに撫でつけているすっきりスタイル。 
もちろん、口ヒゲも標準装備。  


しかしいつものことながら、柳瀬さんは目元のメイクがキリッとしてうまいな〜。
アイブロウにアイラインはもちろん、シャドウ効果もしっかり計算して
描いてあるものと思われます。
ん〜、柳瀬さんが高井ファントムにメイクしてあげたら、どんな感じなのでしょう?
(でもよく考えたら、ラウルとファントムが同じ目つきだったら、
 カッコ良いけどクリスも困るよね・笑)


クリスのカデンツァで、ラウルも一緒に口をあけてるのがちょっと可愛い☆
で、歌い終わったら柳瀬さんがさらに感激した様子になり、暗転の中で大拍手!でした。



クリスの楽屋

再度登場のムッシュー・レイエ。
深見レイエの立ち止まり方は、クリスに何かを尋ねてみようと口を開きかけたけど
思い直して 「いや・・何でもないよ、じゃ・・。」 という雰囲気。
ん〜、クリスが急に歌が上手になった理由を、彼もまだ不思議がっているという
役作りなのでしょうか。
それに対して、メグは親友の気やすさで 「いつのまに、うまくなったの?」 と
直球勝負で聞いているということなのかな。



今回の初ラウル、この場面で意外だったのは柳瀬さんが早口ぎみだったこと。
とくに 「屋根裏の ピクニック」 、初見の方はうまく聞き取れなかったかもしれません。
それにしても、柳瀬ラウルはセリフ同様に動作もテキパキしているんですね。
「子供の頃の話は、そのくらいにして」 
ちょっとだけひざまづいてから、さっとクリスの手を握り、あっという間に
「2分で戻ってくるから」 と指示して風のように去っていく感じ。
走り去る時に、足音がほとんどしないのがうまいわ〜柳瀬さん☆



ファントム登場

4ヶ月ぶりにお会いする村ファントム。
今さらですけど、「私がいるのだ」まではクリスを見ていない村ファントムが懐かしい〜♪
少しだけ顔をうつむき加減にして、目を時々まぶしそうに細めています。
最初からじーっとクリスに視線をすえている高井ファントムとは、
ここ結構印象が違うところですね。



オペラ座の地下

まだ復活2公演目ということもあってか、村ファントムもお声の調子が良さそうです。
低音も高音もかすれたりすることなく、深みのある潤いとゆらぎに満ちた美声を
聞かせて下さいました。 
なんというか、今日の村ファントムはパワーでクリスティーヌを押すのではなく、
技巧で酔わせる作戦に変更(笑)って感じでしょうか。


語尾に甘さが残る独特の声が、ゆったりとなめらかな液体のように
クリスティーヌの心の奥へ流れ込んでいきます。


この場面、村ファントムのクリスへの接し方で好きなのは、彼がとても辛抱強く
クリスを見守ってきたんだろうな〜と感じられること。
「待つ」 という動作で例えるなら、高井ファントムは狩猟ハンター的な待ち方で、
村ファントムは園芸家的な待ち方なのではないでしょうか。


高井ファントムの目標が捕らえることだとすれば、村ファントムのそれは満たすこと。 
もちろんどちらが良いとか悪いとかではなく、単に自分が受ける印象の
違いですけども。



さて、この日は羽交い締め後のタイミングが早かったような気がします。
クリスが仮面に触らないうちに、村ファントムがさっと顔をひっこめるようにして
手を握り 「私の音楽に」 より前に、鏡のそばまで来ちゃいました。 


そのせいか見つめ合ってる時間が長くて、なんとなく布を取るまで
間がもたないような雰囲気だったな〜。
そのかわり、ラストの 「夜の調べの中に」 は、ゆったりと長くしっかり聴かせて
下さったので、これで一応プラマイゼロってことにしておきますか。(←違います)



暗転のあと。

えーと苫田クリス、「不思議な ことが」 のところ、なんともいえない不思議な音程で
歌っていたような気がするのですけど???
ここは高木クリスデビュー日に思いっきりの歌詞まちがいを見てしまったので、
実はちょっぴりトラウマなんですけども、やはり難しい部分なのでしょうか。
胸がドキドキしてしまうので、しっかりお願いします(^^A)。 



イル・ムート

ボックス席の寺田アンドレが楽しそう♪ 伯爵とカーラが、そろそろと歩く場面では
「お、来るぞ来るぞ〜」 とワクワクして、振り返ってコミカルに手を振ると
「やったー」 って感じで白い歯を見せて大笑いしてます。


ところでファントムの声に柳瀬さんが勢いよく立ち上がっただけで、ボックス席が
グラグラしてますけど、あれはホントに大丈夫なんでしょうか。
「耐震強度」 ならぬ 「耐ラウル強度」 が気になる今日このごろ。 


しかし、それ以上にウケてしまったのはプロセニアムアーチの足音ですよ。
 「右、左、右、左」 って(笑)。
あのーファントムさま、もう少しコソコソしないと、警察につかまっちゃいますー☆



オペラ座の屋上

さてこの場面を拝見して、柳瀬ラウルは想像以上に 「共に悩む」 ラウルなんだなあと
思いました。(実は観劇する前は、もっと猪突猛進型を想像していたもので。)
お悩み度数が一番高いのが石丸ラウルだとすると、2番目が柳瀬ラウルかな。


「悩む」 が不十分だとしたら、 柳瀬ラウルはクリスのことを、どこかで可哀想にとか、
不憫に思ってるんじゃないのかなあ。
美しい歌姫となった幼なじみに、あらためて熱を上げている、というよりも
「あの小さかった少女が、父親を亡くしながらも懸命に生きている。
まだまだ守られるべき存在なのに・・。」 という視点からすべて出発しているというか。


・・つまり、同情が愛情に変わりやすいタイプなのかも(爆)


これが佐野ラウルだと、クリスの悩みを理解しているけど自分は悩まない。
北澤ラウルなら、クリスの悩みがよくわかっていないので、自身は悩みというより
苛立ちが大きい、という感じかな。
どれが良いということはないのですが、個人的なラウル像に近いのは佐野さんの
ラウルでしょうか。



この日のラウル&クリスから受ける印象は、元幼なじみの恋人というよりも
昔やさしくしてもらった遠い親戚のお兄さん。
今でも妹みたいに思っているので、好きは好きだけど
色気という点ではちょっと乏しかったような気がします。
もしかしたら、初顔合わせの距離感もあったのかもしれません。



と、いろんな事を書いてますけど、「涙おふき 心しずめて」 から、クリスとの
未来を語る柳瀬ラウルは、とっても良かったです。
歌いながら前方へエスコートするときも、片時もクリスの顔から目線を外さないし、
あのあたたかい笑顔に触れたら、クリスも心から安心してしまいそう。


それから、苫田クリスの 「あたしを導いて?」 風な発音がちょっぴり可愛かったです。
楽譜どおりじゃないと演出家の先生には、怒られるかもしれませんが☆





第2幕




マスカレード

柳瀬ラウルの衣装は、恐れていたほどピチピチじゃありませんでした。
昨年の福岡 「美女と野獣」 ではある時期、本気で王子様の(衣装の)寿命を
心配しましたが、その頃に比べると、かなりスッキリなさったのではないでしょうか。
照明が明るくなるとメイクも映えて、なかなか綺麗なカップルですね♪


マスカレードの中では、ラウルとクリスを他の人物達が邪魔する振り付けが
多いですが、柳瀬ラウルはそのつどサッと片手を出して、常にクリスを守ろうとしています。
マダムジリーが後ろからラウルの肩に手をやるところでも、他のラウルと違って
「あとで」 って、ハッキリ答えているのにビックリ☆



支配人のオフィス

カーラがクリスを皮肉る 「来たわよ」 に、厳しい表情でカーラをにらむ柳瀬ラウル。
マダム・ジリーの 「ここに 手紙が また」 では、一瞬目を閉じて怒りを抑えています。


ただ、柳瀬さんが苫田クリスの肩に手を添え、すっぽりと懐に包み込むように
立っている雰囲気は、やっぱり兄と妹っぽいですね〜。
これは身長差があって、どうしても苫田さんの頭を抱え込むような位置になるのが
大きいのかもしれません。



面白かったのは、クリスが皆をさえぎる 「やめてちょうだい!」。
柳瀬ラウルがここで 「あ、しまった。」 という顔をするんですね、弱っているクリスを
少しの間でも、放っておいたのを後悔しているラウル。
なんだかとっても、柳瀬さんらしいな〜。


苫田クリス、今日は正直言って音程が危なっかしいところもあるのですが、
病的な不安定さ、頼りなげな雰囲気がよく出ていると思いました。



「ドンファンの勝利」 お稽古

やっぱり女性的で面白い深見レイエ。
「ドンファン♪」 って猫撫で声を出したり、タクトをせわしなく振ってます。
カルロッタの強がりに皆が動揺してる中で、 「さーさささ、もう一度」 って、
なーんかオバチャマ風味だわ(笑)。



墓場にて

村ファントム 「ここへ おいで」 の声の優しいこと優しいこと。
ファザコンのクリスをこんなに甘い声で誘うなんて、とんでもないハナシですよまったく☆
って、私が憤慨するのも変ですけどね〜。


デュエットになるとファントムとクリスの声がピッタリと重なり合い、そのまま
どこかへ飛び去ってしまいそう。
この瞬間、クリスの心がファントムの声という深い闇に
どんどん吸い寄せられていくのが、よくわかります。
ラウルが来ても 「ラウル・・」 の声がまだ、ぼーっとしている感じでした。



The Point of no Return

「その時は撃つんだ 射殺しろ」 の言い方は、
最近登場したラウルの中では、北澤さんが一番残忍な響きがあって好きです☆
ラウルにとってはファントムはあくまで恋人を
悩ませる狂った殺人犯ですし、その為の危険な策略ですからね〜。
柳瀬ラウルは冷静に指示をしている雰囲気でした。


さてこの日の苫田さんのアミンタ衣装、着る時に襟ぐりの位置がずれたのか
最初のうち、右肩が少しだけ出ててドキッとしちゃいました。
映画 「オペラ座の怪人」 、この場面のエミー・クリスも
しどけない感じでしたが、これファントムが見たら目眩がするかも(笑)。



ファントムがイスに座ってからの苫田クリスのソロ。
「からみあい ひとつに」 指を組み合わせながら、ちょっと目を伏せて
「心を 決めたわ」 決めたわと言葉では言いつつ、なんとなくうつろな表情です。
他のクリスは、もっと意思的な感じでしたから、アミンタという役に入り込めず、
不安がるクリスの素顔が見え隠れするような印象でした。


クリスが歌いながら、顔をすりよせた瞬間にファントムに気がつくのですが、
フードをかぶってても、彼女の変化にハッとする様子がよーくわかるのが
村ファントムらしい演技ですね。 


「ともに どこまでも二人で」 手の握り方が優しいな〜。



銃声がして、ラウルが飛び込んでくる場面、上背とパワーがある
柳瀬ラウルの突進に、寺田アンドレ完全に負けてました☆



それから戸田マダム、クライマックスとしてはちょっと温度低すぎではないでしょうか。
というか、柳瀬ラウルが沸騰点に達してるのに、それについて行けてない感じ。
「急がないと 手遅れに・・・」 のセリフが完全に終わらないうちに、柳瀬ラウルの方が
先に走り出しちゃいました☆



再び地下へ

ラストに向けての迫力は、さすが村ファントム。
激しいだけでなく、それまでの苦悩が胸に迫ります。



「母にも 嫌いぬかれて」 では脆さを前面に、「みにくさ 隠され」 は
声を強く押し出して怒りをあらわに。


苫田クリスが、怖がるのもかまわずベールをかぶせるけど、どこかで
彼女の顔色を見ている不安が伝わるのも、村さんらしいファントムなのかな。



助けに来た柳瀬ラウル。
ファントムが柵が上げてやると、クリスにニコッとして 「行こう!」 って
囁いているのがわかりました。
で、噂には聞いていたけど、柳瀬ラウルは縄を掛けられた時がホントに苦しそうです。
釣られたお魚みたいにジタバタしてるのが、ちょっと可哀想。



「悲しみの涙〜」 苫田クリスはこのフレーズを歌い終わるまで、
ずっと床に顔を伏せたまま。
この言葉に、ショックを受けるファントムの表情がまさに 「ガーン☆」 って感じ。
以前も書いたことがありますが、村さんはホントわかりやすい演技で初心者にも
優しいファントムだと思いますわつくづく。




ラストのキス。


それまでずっと、ファントムをにらんでいた柳瀬ラウルが顔をそむけました。
ラウル俳優さんによっては、口を大きく開けて 「あぁっ!!」 と驚く演技をする方も
ありますが、柳瀬ラウルは心のどこかで、この結末が薄々わかっていたのでしょうか。




二人が去り、ベールを抱えた村ファントムが、うつむき加減に歩きます。


デュエットが、すごく遠いところから聞こえてくる雰囲気は、
幻のように過ぎてしまった、ファントム自身の夢を表しているようで。



「わが愛は 終わりぬ」 


長く長く伸ばして、劇場に響き渡るパワフルな声。
歌が終わる寸前に、観客席から 「ブラボー!」 と、声がかかりました。 



そして、初めて見てしまいました。
歌い終えて放り投げる一瞬前、村ファントムがベールにキスするのを。


そうだよね〜、愛しい女性が少しの間でも身につけたものですもの、
けがれない純白と繊細なレース、その柔らかさはクリスそのものへの憧れだったはず。
単にベールを捨てたのではなく、彼自身の愛に別れを告げたのですね。


理屈じゃなく、目にしたことでファントムの気持ちをしみじみと実感する
ラストシーンになりました。





さて、カーテンコールです。

回数はいつも通りだけど客席から声もかかるし、とっても笑顔が多いカテコでした。
オペラ座のカテコは、笑顔を見せないという決まりがあるのかと思っていましたが、
今日の主役3人はニコニコして嬉しそう♪
手をつなぐ時、柳瀬さんが自分のとなりだけじゃなく、列の端まで完了したのを見てから
正面を向く様子に、優しい気配りが感じられて良かったです。



最後は3人が幕の隙間から出てくるご挨拶。
柳瀬ラウルの満面の笑顔と、深々としたお辞儀が印象的でした。





さて、今回は柳瀬ラウルに始まり、柳瀬ラウルに終わった観劇でしたが、
なんというか、愛する者を守りぬく子爵さまですね〜。



結婚してからの方がクリスも幸せになれると思います。



「男としての責任」 とか、そういう言葉に弱そうだし(笑)。








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