オペラ座の怪人 


         

                              福岡シティ劇場 1階 S席  F 列22番
                                               


                      当日のキャスト



  オペラ座の怪人 高井 治  クリスティーヌ 村田恵理子  ラウル子爵 佐野正幸
  カルロッタ  河合和代    メグ・ジリー 荒井香織    マダム・ジリー 西島美子
  ムッシューアンドレ 林 和男   ムッシューフィルマン  青木 朗
  ウバルト・ビアンジ 半場俊一郎  ムッシューレイエ 長 裕二
  ムッシュールフェーブル 喜納兼徳

2004年3月23日(火)ソワレ


とうとう楽週になってしまいました。今日を入れて残り公演は7回。


日ごとに迫るお別れに、なんとも複雑な心境ではあります。


このところ、毎週翻弄された月曜日のキャスト発表。楽週の高井ファントム、
村田クリスはほぼ予想通りでしたけど、思いがけず佐野ラウルのご帰還となりました。
12月以来、4ヶ月近くひとりで頑張った内海さんには心から「お疲れさま」と
申し上げたい気持ちです。
そして福岡公演最後になって、最強のベテランラウルとの再会、ホントに嬉しかった。



そういうわけで本日の観劇日記、ファントムさまには申し訳ないけど、
「佐野ラウル日記」になってしまいそうです。今日ばかりはお許しを☆


特別カーテンコールもこの日から始まるのですが、お客様の入りは7割程度
だったでしょうか。やっぱり遠征のお客様が少ない平日のソワレは、楽週になっても
一杯にはならないんですね〜。




第1幕




オークション

喜納オークショナー、今日はまたさらさらとオークションを流していらっしゃいましたね。
初めて喜納さんのオークショナーを拝見したときと同じような印象をうけました。


車いすに座っているのは佐野ラウル。以前の観劇日記にも書きましたけど、
佐野さんの老ラウルはとっても悲しそうな顔をしています。
クリスティーヌを心から愛し、大切にしたであろう老ラウル。
彼女に先立たれたのはいつ頃なのでしょうか。
もしかしたら、案外早世だったのかなあ。いつまでも彼の心のなかに、どこか儚い
少女の面影を、その歌声の思い出と共に残しているのかもしれません。



「ハンニバル」リハーサル

カルロッタが歌う合間に衣装係の女性を呼んで、裾の手直しをさせています。
井田さんが首にかけた黒い袋からハサミを取り出して、衣装についてるフリンジを
ちょきちょき揃えるのが、とってもテキパキ。さすがに職人技って感じのスピードです。


クリスにカルロッタの代わりができるかどうか試すところ、支配人さん達の
「いざとなったらこの子で行こう」は、マイクが入ってなくて生声で聞こえました。
これっていつもこうでしたっけ?



ラウル登場

出ました、佐野ラウル! 「あれはクリスティーヌ」の表情の嬉しそうなこと。
喜びと、なにより、青年らしいときめきが感じられるのはさすがです。
支配人さん達に促されて腰を下ろしてからも、クリスを見ながらわくわくソワソワ、
おとなしく座ってられない(笑)。



クリスの楽屋

ラウルが楽屋を尋ねるシーン、佐野ラウルは階段を上がる直前でいったん立ち止まり、
ちょっと中をのぞき込んで「あ、いたいた」って感じの笑顔を見せるんですね。


演技がとにかく細かーい。

「クリスティーヌ・ダーエ」と声をかけてから彼女が自分のことを思い出すかどうかを
試す時も、少年のようにイタズラっぽくクスッと笑ってらっしゃいます。

はぁ・・スゴイ。
セリフや段取りを追うことなく、役を生きてるってこういうことなのね〜。
佐野さんの中で、ラウルという人物は、舞台の上にあらわれている部分だけでなく、
ちゃんと性格や生い立ちをもってるんだなあと感心してしまいました。


こまかいことだけど内海ラウルは「さあ着替えて」でクリスの肩を両手でつかまえて、
自分の方に向かせるようにしていたのが、佐野ラウルは同じ台詞のところ、
クリスから離れて一歩下がり、両手を広げるようにして明るく「さあ着替えて」って
促します。動作に華があるんだなあ。


でも、佐野ラウルのスゴさはここから。
「2分で戻ってくるから」、楽屋の階段の途中で振り返り、優しく「可愛いロッテ」。
で、走り出す直前のほんの数秒、もう一度クリスを熱っぽい目でじっと見つめるんです。
この「もう一度」がテクニックですね〜。時間は短いけど、印象が全く違います。


一秒でも長く彼女を見つめていたいラウルのときめきと恋心。
もうこれだけで女性ならクラクラきそう☆ 
こりゃあ手強い恋のライバル登場ですよ、どうする?ファントムさま(笑)



ファントム登場

高井ファントム、週はじめということもあるのか、お声の調子は良さそうですね。
楽週だし、期待100%ですわ。気合いを入れてお願いしまっす。



オペラ座の地下

歌に関しては、先週よりも断然良かったのではないでしょうか。
「安らぎの夜」のあと、高井ファントムにしては珍しく(?)目がきらりと光っておりました。


しかしアンマスクシーンの迫力がこのところ、今ひとつ足りないのは、
高井さん、逃げるクリスをゆっくり追いかけるからかもしれません。追われるから
逃げるはずなのに、逃げるからついていくって感じかな。
「地獄へ行け、呪われろ」も怒鳴らないで、どちらかというと泣き声に近く。
「おお、クリスティーヌ」も高めの声で、せつない囁きでした。



支配人のオフィス

いつもは支配人さん中心の私ですが、今日はどうしても佐野ラウルばかり見てしまう。
支配人さん達に対する時はあくまで男らしく威厳があって、さすが子爵様。
ただ、セリフや歌声の聞き取りやすさという点では内海ラウルの方が良いような気が
します。
七重唱も、久しぶりに聴くとちょっと佐野さんの押し出しが弱い感じもしました。



イル・ムート

5番ボックスの佐野ラウル。ファントムの声が聞こえてきたときも表情が細かい。
支配人さん達と身振り手振りで合図したり、マイクに入らない声で話したり。



オペラ座の屋上

村田クリスが、時々ファントムの魔力にあらがえなくなって「あの声はすべてを包み・・」と夢見るような表情になると、佐野ラウルは歌詞のひとつひとつに反応します。


なぜいとしい恋人が、狂った殺人鬼にとらわれているのか。妖しい術を使ってクリスを
惑わせる悪魔(とラウルは思ってるわけですね)への闘志を燃やす過程が丁寧に
描かれているように思います。


愛らしくも、危なっかしい恋人がいとしくてたまらない、そんなラウルの心情がひしひしと
伝わりました。キスシーンももちろん長いし、抱きしめ方もたっぷりゆっくり。
これはファントムさまが怒るぞー(笑)




第2幕




マスカレード

肩のせリフト、内海さんでずっと拝見してきたのですが、今日佐野ラウルを見て
わかりました。本来はやっぱりリフトの前に、あんなに腰をおとして待っているものでは
ないのですね。
自然にさわやかにリフトの体勢に入る佐野さんのテクニックに感心してしまいました。
お姫様だっこになってからのくるくるが、ちょっと多めでした。
華やかで綺麗〜☆



墓場にて

先週もありましたけど、今日も村田クリスのソロの時、下手前方ブロックから
先走り拍手が。もしかして村田ファンなのかな?


高井ファントム「ここへおいで私の」の歌いだしが最近は優しいので嬉しいです。
細かいところが、今回の登場で変わってるんですよね。やっぱりお休みの間に
色々と研究なさっているのかな。



ドンファンの勝利

警察長官が出てくるところ、フィルマンさんに言う「心配するなフィルマン」も
佐野ラウルは愛情がありましたね、若造子爵様にしては包容力があるなあ。



「The point of noreturn 」

高井ファントム、今日は歌がとっても良かった。特にフードを取られてから歌う
「言ってほしい」の高音が繊細でなんとも言えない艶があります。
ただ、今日は指輪をはずすのが、なぜか早かったような。
「言って欲しい」で振り返ったときにはもう半分抜きかかってました。
あれだと遠方の席の人は、急にどこから指輪が出てきたの?って感じだったかも
しれません。



ふたたび地下へ

いよいよ三つ巴ですね。
ラウルが泳いできて、柵でファントムに悪態をつくところ、とっさに口から
出てこなかったみたいで「この人をかえせ 悪党」、前半のセリフが
飛んじゃいました。
何かを振り払うように頭をフルフルっとして、「・・・・悪党!」っておっしゃったので、
たぶん初見の人は全く気がつかない程度でしたけども。


髪はめちゃめちゃ、シャツはボロボロ、でも真剣な表情と目力がスゴイ佐野ラウル。
必死に彼女を守ろうとしている心情がよく伝わります。


対する今日のファントムは、もちろん強がりなんですけど、ときおり自嘲的な冷笑を
うかべ、プライドを保つ壁を作っている感じ。



個人的な感想として、今日はやっぱり佐野ラウル登場の影響は大きかったです。
全体的に子爵様の存在感が光りました。
地に足をつけた、現実の男としての厚みをもったラウル子爵。
逆に言うと、ファントムがいかにもファントム(亡霊)のように非日常的な脆い存在、
いささか線の細い男性に感じられました。


正攻法でクリスの愛を勝ち取るラウルと、墓場でラウルになじられたように
「たとえ彼女を監禁してでも」手に入れようとするファントム。どちらの愛情が
深かったかはともかく、光と影の対比は明確ではありました。


今日みたいにファントムの「影」的存在が感じられたのは初めてです。
光の魅力と影の魅力に迷い、惑わされるクリスの気持ちがよーくわかるわ。
自称ファントム派の私も、佐野ラウルだったらちょっと考えるかも(笑)



「行ってくれ、お願いだー!」は久々の激しさでした。


しっかしノドに悪そうな怒鳴り声ではあります。
ここはプライドを守って強がってきたファントムが心の傷を最後にさらけ出すところ。
ようやくクールな表情の奥に、恋情の炎に焼かれる男の姿が見えてきたかな。


ちょっぴりサディスティックな物言いですけど、やっぱりファントムの「痛み」がないと、
この物語のラストとして納得できないのではないでしょうか。
それを愛というものに昇華させ得たのか、というのは観客それぞれの受け止め方
次第だと思うのですけど。




クリスとして生きる、ラウルとして生きる。そしてファントムとして生きるとは。



久々の佐野ラウルの登場で、そんなことを考えた舞台でした。











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