有名な探偵へ招待状と言う名の呼び出しをした怪盗。
静かな風が舞うビルの屋上に降り立った彼は、背後感じる気配に安堵と躊躇いの息を吐く。

そしてそのまま、彼との距離を保つようにその場へと佇んだ…







─until dawn─








「この前オレに言った言葉は…お前の中の『真実』か?」


 再び尋ねられた問い。
 その答えが、この先を決定する重要なものになると理解していた。

 …今なら、まだ引き返せるかもしれない。

 気が抜けない好敵手。ただそれだけの関係しかない探偵と怪盗に。

 それでも、1度口にしてしまった想いは止まらなかった。
 例えこの先、最高の好敵手を失う事になっても…蓋が外れ溢れ出たこの気持ちを押さえることは出来ない。

 そう自分で自分の心を分析し、元より偽るつもりがなかった怪盗は静かに口を開く。

「勢いで言ったのは認めます。それでも、常に私の中にあったからこそ口にした言葉。前言撤回はしませんし、貴方からの返事がどのようなものでも、私はそれを受け入れます」

 相変わらず視線は街の明かりへ。
 時間もだいぶ経ったと言うのに、この街は未だに眠ろうとはしない。

 …そんな中、忘れ去られたかのようにひっそりと佇むビル。

 月明かりしか頼りのない屋上。そこに存在する、探偵と怪盗。
 この場で言葉を交わし始めてから、まだ1度も顔を見合わせてはいないけれど…

「だから名探偵。…貴方の言葉で、貴方だけの『真実』を教えて下さい」

 瞳を閉じ、街明かりを瞼越しに感じる。
 いつ『真実』を聞いても良いよう、落ちついて聞き入れられるよう、そっと深呼吸。
 しかし探偵は、そんな怪盗の心構えを見抜くように、

「…だったら、こっちに来いよ」

と、自分のいる場所へと怪盗を呼び寄せた。

 その呼びかけに再び瞳に街明かりを取り入れた怪盗は、この時初めてビルの屋上へと視線を向けた。
 先程とは違った息を吐き、足音を立てて探偵がいるであろう物陰へと移動を始める。

 給水塔の影になったビルの奥。
 地面へと座りこみ、背後の壁に寄りかかって空を見上げている探偵の姿がそこにあった…。

「こーいうのは、面と向かって言うのが礼儀だろ?」

 空を見つめていた視界の中に入ってきた怪盗へ、いつも現場で見せるシニカルな笑みを浮かべた探偵。
 そんな彼に怪盗は何も返事を返す事が出来ず、ただ黙って探偵を見下ろす。
 見上げ見下ろし…そんな状態にも関わらず、探偵は気にした様子もなく話し始める。

「…あの時、言うだけ言ってさっさと帰ったお前に、オレがどれだけ困ったか知ってるか? それから今日まで、どれだけ考えたか解ってるか?」

 不貞腐れているような、怒っているような…

 告白の返事をするにはあまりにも不釣合いな雰囲気に、怪盗は戸惑ったような表情を見せる。
 しかし探偵は怪盗の様子に気付きながらも言葉を続ける。

「ったく。人の事無視して、自分の言いたいことだけ言って帰りやがって」
「…それは、確かに反省してます。唐突すぎましたし…」
「唐突なのは良いンだよ。そんなもんだろ、あーいうのは」
「はぁ…」
「問題はその後だ、その後! 言ったんなら人の返事もちゃんと聞いて帰れ」

 不貞腐れているのではなくどうやら怒っているらしい探偵は、腕を組み見上げた状態のまま怪盗をねめつける。
 そして、

「オレの返事はお前と同じなのに、あの時放置されたおかげで今日まで無駄に考えちまったじゃねえか!」

「え…?」

 びしっと指を差され、「お前が悪い」と言わんばかりの勢いで言われた言葉。
 その言葉の中には──怪盗が求める『真実』が混ざっていて…

「め、名探偵…?」
「決まってる返事だってな、返事の仕方とかそれなりに考えるんだぞ?」
「え、あ、いえ…」
「色々考えてたら他の事に集中出来なくなるし…警部にも心配かけちまったし? 今日までの不調は全部てめぇのせいだ!」

 再びびしっと指を差し、言いたいことを全部言ったのか口を閉ざした探偵。
 見上げて喋り続けていたせいか、ちょっとだけ息が荒い(笑)。

「…あの、名探偵…?」
「んだよ」

 探偵は怒っていた…と、言うよりはやつあたりをしていたらしい。
 そして今は完全に不貞腐れているのか、むすっとした表情で視線を逸らしている。

「私と同じ、というのは…」

 怪盗の中で希望に満ちた想いが飛来する。
 それでもきちんと聞いていないが為にまだ半信半疑な怪盗が問い尋ねれば、探偵は視線を逸らしたまま呟きを漏らす。

「それだけで解るだろ? あれこれ考えた癖に、結局は勢いついでに言っちまったし…最悪だな」

 「あーあ」と業とらしく吐かれた溜息。
 しかし、その表情は先程までとは違いほんの少しだけ赤い。
 この月明かりも微弱な薄暗い場所で認識出来る程だ。きっと明るい場所で見れば…

「頼む名探偵。お前がさっきオレに言ったように…オレも、お前の言葉で『真実』が聞きたい」

 普段の怪盗らしくない口調に、探偵の視線が怪盗へと戻る。
 …はっきりとは見えなくても感じられる怪盗の真剣な眼差し。
 それに促されたのか、探偵は1度怪盗から視線を逸らし立ち上がる。

 ほぼ同じ視線になった探偵と怪盗。
 その距離はあの日以来に近く…それでいて、あの日よりまだ遠い。

「…早々言ってやらねぇから、よく聞いておけよ?」

 不意にそう言って、探偵が怪盗の赤いネクタイを掴み引っ張る。
 探偵の前で警戒を解いていた怪盗は、その予期せぬ事体にバランスを崩し、引き寄せられるまま探偵へと距離を詰める。

 そしてその距離がゼロになろうとした瞬間──


「好きだ…」


 微かに届いたその囁きのあと、2人の間の距離はなくなった…。



 一瞬だった接触の後、再び距離が生まれる。
 そのまま距離を保とうとした探偵に、怪盗は躊躇う事無く今度は自ら距離を埋め…再び、その数字をゼロにする。


「ん…ちょっ、キ…ッ」

「…黙って…?」

「ふぁ……ん、ぅ…」


 止まらない怪盗からの要求に、戸惑い呼吸に苦しみながらも答える探偵。

 …濡れた音が耳を刺激する。
 どちらのものとも判別出来ない透明なものが、探偵の顎を伝い落ちる。




 それから漸く離れた頃には、探偵は再び壁に寄りかかるように座り込んでいた…

 やつあたりで文句を言った時よりも乱れた呼吸。
 合わせるようにしゃがみ込んだ怪盗が、そんな探偵をそっと自分の胸に抱きとめる。

「名探偵? 大丈夫…?」
「…そ、思うんだったら…ちょっとは、手ぇ…抜きやがれ」
「名探偵相手にそれは無理v」

 呼びかけに息を切らしながらも答える探偵と、苦情ににっこりと微笑みを返す怪盗。
 その様子に、何を言っても無駄だと悟った探偵は、そのまま怪盗へと体重をかけ身体を預ける。
 そして、最後の忠告とばかりに呟いた。



「…オレのことを手放したくないんなら、これからずっと……夜明けまで一緒にいやがれ」




 ──その返事に怪盗がどう答えたか…


答えは、数日後の工藤邸で明らかになる──








【桜月様後書き】

【結局こんな終り方かよ、桜月サン;】

 ──すみませんでした(土下座)
 果たしてこんなのがフリーで良いのだろうかと、今書きながら現在進行形で思っている桜月デス(殴)
 結局、新一サンもゾッコン(古っ)だった、と言うことでス。
 快斗サンは無駄な(…)1週間を過ごしちゃったンですねぇ(笑)
 さっさと返事聞いてればもっと早くからラブラブ(……)出来たのにねぇ?←お前が言うな。

 こんなもので宜しければ、『夜の囁き』共々フリーでゴザイマス。
 嫁(婿?笑)に貰ってやると言う心優しい方は、是非ともセットで(じゃなきゃ意味不明だし;)お持ち帰りくださいませ☆



 ……にしても、なんか初めてまとも(?)なキスシーンを書いたような気がする(ぼそっ)



【薫月の感想&謝罪】
 サイト正式オープンおめでとうございますv
 もちろん、正式オープン記念強奪してまいりましたv
 アンケートで密やかに「K新で甘め」に一票入れていた薫月さん。
 当然持ち帰らない訳が無い(爆)

 甘め、ながらも甘いだけでは終わらない桜月様の文才に乾杯ですv
 言い逃げ(…)するKID様も、それによって悩んでしまった新一さんも、甘くなる為には必要な事だったのね!とガッツポーズをしてしまった管理人。
 マジで救えません(爆)

 でもラストはとってもとっても糖分たっぷりなラブラブっぷりでvぐふふvv(妖笑)
 もう…お腹一杯にになれましたvv

 そして最後に一つ謝罪を…。
 upが大変大変遅くなって申し訳ありませんでした(平伏)



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