好きなのは間違いない
 愛しているのは間違いない

 けれど…それでも…

 心の中に蟠っているモノは消えない
 このまま前には進めない

 だから…
 もう一度初めからやり直そうか?










片想い【40】











 抱き締めて。
 口付けて。
 甘い言葉を囁き合って。

 それでもこのまま前に進めない事は二人とも分っていた。


「なあ、………工藤」
「っ――!」


 何度目かの口付けを交わした後、敢えて変られた呼び名に、新一はビクッと身体を竦ませた。
 それを知っていて、快斗は敢えて抱き締める腕に力を籠める事無く、何も変わらない風で言葉を続けた。


「俺は、お前の事を愛してる。でも、お前の事はきっとまだ信じられない」
「………分ってる」


 見上げてくる少し潤んだ蒼い瞳が愛しいと思うのに。
 この温もりが愛しいと思うのに。


 それでも――快斗は全てをこのままにしておく事は出来なかった。


 もしこのまま彼と付き合っても、快斗の中の蟠りは消えない。
 いつ新一が自分を裏切るか。
 いつ新一が自分から離れていくか。
 きっと毎日毎日そればかり考えてしまうだろう。

 それでは、快斗は幸せになれない。
 それでは、新一を幸せに出来ない。
 それでは――きっと二人で居る意味なんていつかなくなってしまう。

 だから、きっと訪れるだろう未来を期待して、今は辛くとも―――もう一度最初から…。



「……だから、……俺ともう一度最初からやり直そう?」



 出逢った頃の二人に戻って。
 『友人』として最初から。


「……こんな風に抱き締めながら、そんな事言われても説得力ねえよ」


 クスッと笑って言われた言葉に快斗は苦笑を浮かべる。
 ああ、全くその通りだ。


「そうだね……」


 好きだから。
 愛してるから。
 こうして抱き締めてしまう。

 それを快斗とて、新一とて責められはしないが、それももう今日で終わりだ。



「だから……これで最後にしよう」



 ぎゅっと抱きしめて。
 最後の口付けをして。
 解かれた快斗の腕に、寂しさを覚えても、それは新一の行動が起こした事だ。


 ―――――それは新一の『罪』に対する『罰』だった。




























































 いつもと変わらぬ朝。
 いつもの様に教室に行き。
 いつもの様に席を取っておく。


「よっ、工藤!」
「よっ…」
「あれ? 白馬は?」
「今日はアイツ依頼人と会う予定があるんだと」
「ふーん…」


 敢えて深く突っ込みもせず、快斗は新一の隣に座る。

 それはいつもと変わる事にない、挨拶。
 それは普段と変わる事のない、日常。


「何だよ、目の下隈出来てんじゃん」
「…素直に寝れた訳ねえだろうが」


 当然の様に隣に座った快斗を新一が睨んでも、返ってくるのは変わらない笑顔だ。


「そうだよね。工藤ってば俺の事好きだもんねー♪」
「るせー。言ってろ」


 いつもと変わらない軽口。
 それすらも今は愛しい。


「うん。ずっと言っててあげるv」
「……この黒馬鹿」


 ここには、望んだ嘗ての『日常』がある。
 もう二度と取り返す事の出来ないと思っていた、愛しい『普通の日』が。


 例え『恋人』と今は言えなくても『友人』としてこうして傍に居られる事がこんなにも幸せだなんて。


「工藤」
「ん?」
「今日放課後暇?」
「ああ、暇だけど…」
「じゃあ、今夜飲みにでも行かない?」
「……お前が店選ぶなら行く」
「りょーかいv」


 こんな風に普通の日常を重ねて。
 もし、もしもいつの日か、お互いがお互いを心から信じられる日が来たならその時は―――。










 ――――――もう一度、君に好きだと告げよう。






























end…?

ここまでお読み頂きありがとうございましたvv
と言う訳で、これにて『片想い』完結で御座います。
少しでも切なくなったり、腹黒さんにイラっとして頂いたり、疑心暗鬼な快斗さんにヤキモキして頂けたなら、書き手冥利に尽きます。
これだけの話数を書いて、まさかのゼロスタートですみません…。
でも、どうしてもこのラストにしたかったんです。はい。
少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。


top