ふとした切欠でばれてしまった事実
 色々不安はあるのだけれど…

 それでも…きっと大丈夫だろう
 だって彼は何たって…
 そりゃもうものすごーく……にぶにぶなのだから(爆)










片想い【3】











「何してんだ? 黒羽」


 昨日、平次は結局あの後直ぐに帰った。
 新一としても親友で居て欲しいとは言ったけれど、流石にあの状況で同じ家の中に居るのは正直ちょっと複雑だったからそれに内心でおもいきり安堵したのだった。
 きっと、平次も新一の気持ちを分かっていて直ぐに帰ってくれたのだと思うと何だか申し訳ない気もするが。

 まあ何にせよそんな事があったとしても翌日は普通に学校な訳で。
 普段と同じ様に学校に来てみれば、新一が受ける授業の教室の入り口近くで壁に凭れ掛かっている快斗を見つけた。


「何してんだ?じゃねえ! お前を待ってたんだよ! それぐらい分かれ。この迷探偵」
「…今、漢字変換がおかしかった気がしたんだけど?」
「お前なんか迷探偵で充分だ!」
「なんだと!」
「何だよ! やんのか?!」


 教室の入り口の側だというのにそんなやり取りを始めてしまって。
 教室に入ろうとしていた他の学生達の視線が二人に興味深げに注がれている。
 それにいち早く気づいた新一は、慌てて平静を装った。


「と、兎に角…一体何の用なんだよ」
「…お前に話がある」
「……一体何だ?」


 むすっとしながらも、真面目な口調で新一にそう告げて来た快斗に新一は内心でびくびくしながらそう答えた。

 昨日平次は言っていた。
 快斗と自分についての話をしていたのだと。
 自分の好きな人についての話を。

 だとしたら……。


「お前が吐いてた嘘についてだよ」
「…何だよ、それ」
「…お前、好きな人居るって言ってたよな? でも、蘭ちゃんじゃないんだろ?」
「………」
「俺にまで嘘吐いてたのかよ」
「黒羽、それは…」
「正直、俺はちょっとショックだったよ。工藤は俺にまで嘘吐くんだって。俺は工藤とは何でも話せる友達だと思ってたからな」
「………」
「今日、授業終わった後は?」
「…何もない」
「じゃあ、俺が授業終わるまで待っててくれる? 飯でも食いながらゆっくり話がしたい」
「…分かった」


 今日は新一が四限目までで、快斗が五限目までだ。
 お互いの授業日程はきちんとお互いに分かっているから、態々そんな事を言わなくてもお互いに分かっている。

 新一の言葉に快斗は唇を少しだけ和らげた。


「嘘吐いてた罰として今日は工藤の奢りなー♪」
「…わあったよ……」
「じゃあ、楽しみにしてっからv」


 じゃーなー♪なんてにこやかに手を振って、自分の受ける授業の教室に行ってしまった快斗の背を見送ってから新一は重い溜息を吐いた。
 好きな人が居ると言ったのは嘘ではない。
 ただ、快斗が蘭の事だと思い込んで応援(…)してくれた手前それを否定する事も出来なくて。

 まあ、そんな事を言っても唯の言い訳なのはわかっている。
 快斗の追求から逃れたかっただけだ。
 本当は快斗の事が好きなんてとても言えないから…。

 放課後の事を想像して、重い重い溜息をもう一度吐いて、新一は腕時計を確認して慌てて教室へと入った。






























「おせーよ」
「わりぃ。ちょっと帰りに学科の奴に捕まっちまって」


 授業が終わった筈の時間から三十分程度経ってから、快斗は新一の待っていた図書館へと漸くやって来た。
 新一がいつも快斗を待つ時は図書館で待っているから。


「お前なあ…;」
「悪かったって。そう怒るなよ」
「まあ、別にいいけどな…」
「じゃあ、早くいこーぜ」


 椅子に掛ける事もなく、新一の腕をぐいぐいと引っ張る快斗に新一は慌てて鞄を横の椅子の上から引っ掴んで。
 仕方なく引き摺られるままに図書館を後にした。






























「で、何食いたいんだよ」
「何でもいい訳? 工藤の奢りだぜ?」
「もうこの際なんでもいいって。お前の好きなもんにしろよ」
「じゃあラーメン食いたい」
「却下」
「何でだよー! 何でもいいって言ったじゃんか!!」
「ゆっくり話しするんじゃねえのかよ! ラーメン屋じゃゆっくりなんて出来ねえだろうが!」
「ああ。それなら飯食った後で工藤の家でゆっくり話すればいいじゃん」
「そういう腹積もりかよ…;」


 どうやら既に勝手に予定を決められているらしい。
 仕方ないので、快斗のお勧めなのだというラーメン屋に向かって歩く。


「でもさ、工藤ってラーメンとか食うの? 俺、大学入ってから工藤と結構飯食ってるけどラーメン食ってる工藤なんて見たことねえし」
「あー…言われてみりゃ確かにあんま食わねえな」
「何で? 美味いじゃん」
「あんまりこってりしたのは好きじゃねえんだ。特にとんこつとか無理。アレはマジ無理」
「あー…成る程ね。でも、今から行くとこは和風ダシのさっぱり目だから多分大丈夫…かな」
「ま、食えなかったら食わなきゃいいだけだしな」
「うわっ…流石お坊ちゃん!」
「坊ちゃんつーな!」


 堪え切れずに横で爆笑した快斗の頭をおもいっきりグーで殴ってやろうとしたのだが、その辺は怪盗なんて人様にはとてもじゃないがきちんと言えない裏の職業を持っている友人は綺麗にそれを避けてくれた。


「避けるな!」
「やなこった♪ だって、俺痛いの嫌いだもん。Mじゃないしー」
「…てめえは絶対Sだ。それは俺が保証してしてやる」
「…そこ保証されても嬉しくない」


 むうっとしかめっ面になった快斗に満足して、快斗が油断しているところに後ろからおもいっきり蹴りを入れてやった。


「っぅ〜……!」
「油断大敵、だな」
「くっ…普通おもいっきり蹴るかよ! しかもお前自慢の黄金の右足で!!」
「蹴られる様な事言うお前がわりぃんだろ」
「うぅ…っーぅ…ホントマジいてえんだからな!」
「そりゃ良かった」
「良くねえ!!」


 そんな風にいつもの様に(…)ワイワイ言いながら道を歩いて居れば後ろから見知った人物の声が聞こえた。


「全く…君達は公道ぐらい静かに歩けないんですか?」
「「!?」」


 その声に慌てて後ろを振り向けば…。


「は、白馬!」
「どうも。お二人お揃いでお出かけですか?」
「あ、ああ…」


 わたわたとする快斗を尻目に新一はじーっと白馬を見詰めた。
 その目は限りなく厳しい。


「工藤君…? どうかしましたか?」
「白馬。お前今日迎えの車はどうしたんだ?」
「えっ…? あ、ああ…今日は歩きたい気分で…」
「お前の家はこっちとは逆方面だよな?」
「え、ええ…」
「しかも、お前今日は三限までで終わりだったよな?」
「…ええ……」
「…で、いつから付けて来た?」
「………」


 固まった白馬に新一はそれ以上何を言うでもなく、ただじっと見つめ続けた。
 そんな二人の間に快斗が割って入った。


「ちょっと待てよ。付けてたってどういう事だよ!」
「べ、別に僕は付けていた訳では…」
「それにしちゃ、タイミングが良過ぎんだよ。大体お前、前科あるしな」
「………」
「白馬…お前……」


 押し黙った白馬に快斗は言葉を切ってから、それまでの厳しい雰囲気を一新するかの用にニヤリと笑ってみせた。


「まだ俺の事キッドだって疑ってんのか?」
「え…?」
「ったく、迷惑な話だよなぁ…。高校の時からこうだぜ? どう思う? 工藤」
「まあ、決定的な証拠もないのに疑うのは正直探偵としてはどうかと思うがな」
「だろ? ったく…ホント迷惑しちゃうよなー。ストーカーもいいとこだ」


 そう言って笑う快斗に新一も苦笑するしかなかった。

 こういう時、快斗は本当に優しいのだと思う。
 彼も何だかんだ言って嫌いではないのだから。
 この高校からのクラスメイトを。


「何言ってるんですか! 疑うも何も現場からは君の髪の毛が…」
「ああ、昔現場に落ちてたっていう俺の髪の毛のこと? そんな落ちてた髪の毛じゃ証拠にはなんねえだろうが。
 大体、あそこは俺だって行った事あんだよ。落ちてたって不思議じゃねえだろ? 悔しかったらキッドから直接髪の毛抜いてみろってんだ!」
「くっ…」


 悔しげに顔を顰めた白馬と、それを楽しそうにニヤニヤ眺めている快斗に新一は冷静に突っ込みを入れた。


「それが出来る位ならもう捕まえられてるだろうが」
「…ま、それもそうだけどね」


 あはは、と笑った快斗に新一は呆れた様に溜息を一つ吐いて、快斗に向けていた視線を白馬へと戻した。


「で、お前も一緒にラーメン食いに行くか?」






























「あー、食った食った♪」
「………」
「工藤、何だよその目は」
「お前、よくあれだけ食って太んねえよな」


 帰り道、満腹を示す様に腹を手で撫でながらそう言った快斗の言葉に、新一はじーっと快斗の頭のてっぺんから足の先までを見詰めて呆れ半分感心半分でそう告げた。
 それに快斗はえっへん、と胸を張る。


「当たり前だろ。工藤と違って運動してんの、俺は」
「…まるで俺がしてないみたいに言うな」
「…現にあまりしていませんよね? 工藤君が運動をしている姿なんてスポーツ科学の授業以外では見た事はありませんが……」
「るせー。余計な事言うんじゃねえよ、白馬」


 的確に冷静な突込みを入れて下さった白馬にむっとして新一はそう言うが、確かにそうかもしれないと自分でも思っているのだから性質が悪い。
 確かに最近は授業以外で運動らしい運動はしていない。
 まあ、昔取った杵柄である程度身体は動くけれど。


「しょうがねえって。ホントの事なんだから」
「まあ、それを差しい引いたとしても黒羽君も食べ過ぎだとは思いますがね」


 再度今度は標的を変えて入れられた突込みに快斗もむっとしてその発言を放った当事者の言葉に噛み付いた。


「るせーよ! 大体な、工藤が食わな過ぎなんだよ。それにしても…お前の方が大問題だ、白馬!」
「何がですか?」
「俺初めて見たぞ? ラーメン屋で啜らないでラーメン食べる男なんて」
「食事の時に音を立てて食べる習慣がないもので」
「……お前も工藤とは別の意味で坊ちゃんだよな……」


 当然の如くそう宣って下さった友人に快斗はどこか遠い目をしてそう呟いた。
 まあ、いいとしよう。
 白馬がラーメン屋に行った自体が奇跡みたいなものだと思うから。


「っていうか、白馬もラーメンとか食うんだな;」
「ね…; 何かちょっとイメージ違うかも」
「し、失礼ですね! 僕だってラーメンぐらい食べますよっ…!」


 うんうんと頷く二人に対し、ちょっとだけ恥ずかしそうに声を荒げた白馬の様子に二人は確信していた。
 きっと、絶対、滅多な事が無い限りコイツはラーメンを食べることはないのだろう、と(爆)


「ま、坊ちゃんなのは分かってるからいいけどな」
「く、黒羽君!!」


 こうやって白馬をからかうのが好きらしい快斗がニヤニヤと楽しげに遊んでいるのを尻目に新一は白馬に尋ねた。


「で、お前この後どうすんだ? 黒羽は家来るんだけど、お前も来るか?」
「っておい、工藤! 何ナチュラルに誘ってんだよ! お前、話しない気じゃねえだろうな!」
「…で、来んのか? 来ねえのか?」


 とりあえず横でがたがた言っている快斗は放置して(…)新一はそう白馬に尋ねた。
 が、白馬の方はきちんと快斗の話を聞いていたらしい。


「何かお話があるんですか?」
「そうなんだよ。工藤ってばさー…」
「おい黒羽! てめえは余計な事言うんじゃねえ!」
「いいだろ? 白馬なんだから。っていうか、お前工藤の好きな人知ってる?」
「っ…!」


 吐き出された決定的言葉に新一は慌てて快斗を止めようと快斗の腕を引っ張ったが時既に遅し。


「………」


 無言で新一を見詰める白馬から新一は慌てて視線を逸らした。


「その様子だと知ってんだな?」
「い、いえ…僕は別に…」
「ふーん…」


 白馬と新一を交互に見て、快斗はちょっと唇を尖らせながら言った。


「んだよ…白馬には言ってあるのに俺には言ってくれない訳?」
「あっ…いや、それは…」


 じとーっと拗ねた様な視線で快斗に見詰められ、ワタワタと新一は今度は白馬の腕を掴みこっそり耳打ちした。


『白馬…何とかしろ』
『工藤君…。何とかって…;』
『お前が悪い。お前がばれる様な行動取ったんだからお前が責任取れ』
『そんな勝手な…』


 白馬としても、激しく困っていた。

 目の前の友人は目の前の自分が高校からの友人のことが好きで。
 その友人はそりゃもうにぶにぶ(…)で、全くその事に気付いていなくて。

 もういっその事言ってしまえばいいんじゃないか、なんて事も一瞬頭を過ぎったのだが、流石にそれは微妙なので仕方なく白馬はフォローを入れてやった。


「黒羽君。工藤君にだって言いたくない事の一つや二つあるとは思いますよ?」
「別にそれはそうだけどさ…何で白馬には言って俺には言ってくれない訳? そんなに俺の事信用出来ないのかよ」
「………」


 もうすっかり拗ねてしまっているらしい友人に白馬は内心で溜息を吐いた。


(全く…。どうしてこうも鈍いんですかね……。見ていれば分かるじゃないですか)


 ほんのちょっとの嫉妬もその中には含まれていたのだけれど、白馬は見て見ぬ振りを決め込んだ。
 自分の中のそんなどす黒い感情なんて見たくもないし実感もしたくない。

 そして、仕方なく吐き出したのは偽りの言葉。


「分かりました。言いますよ、言います」
「ちょっ…! お前、何言って…」


 慌てて止めに入ろうとした新一を押し留めて、白馬は次の言葉を紡いだ。



「工藤君の好きな人は……毛利さんですよ」






























to be continue….



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