信じた自分が馬鹿だった
 信じる者が救われないと知っていたのに

 知っていた筈なのに
 分っていた筈なのに

 『探偵』がそういう生き物であるという事を
 自分が一番知っていた筈だったというのに


 でもそれでも…
 俺はお前を信じたかったんだ……










片想い【29】











「馬鹿だな……俺……」



 飛び続ける気力も無くて、近くのビルへずるずると落ちる様に降り立って。
 背をフェンスに預け、ずるずるとそのまま座りこむ。

 涙を堪える為に上を向けば、自分の守護星が青白く輝いている。

 駄目だ。
 今泣いてしまったら、きっともう自分は立ち上がることが出来なくなる。


 心を鎮めようと、瞳を閉じる。
 それでも、瞼の裏に彼の姿が映る気がして、振り切る様に再び瞳を開いた。


 どうしてあんな事を言ってしまったのか。
 本当はちゃんと彼に謝って、せめて友人ぐらいにはしてもらって…。
 そんな風に考えていたのに、自分の取った行動は余りにも違うものになってしまった。

 彼を見た瞬間、抑えきれない気持ちが溢れ出した。
 彼を見た瞬間、欲しくて欲しくて堪らなくなった。

 あんな事言わなければ。
 そんな事望まなければ。

 ずっとずっと、自分はあの『優しい偽り』の言葉を信じていられたかもしれなかったのに。

 もう聞こえない筈の声が、自分を刺す。





『だってお前は――――犯罪者じゃないか』





 信じたかった。
 彼を。

 信じたかった。
 彼の言葉を。

 でも、さっき彼が言ったのは紛れもない事実だ。
 だから彼は悪くない。
 悪いのは……彼の言葉を信じ、勝手に赦されていた気でいた自分だ。



 嗚咽が漏れそうになって、口を押さえそれを飲み込む。
 それでも耐えきれず、涙が零れた。

 一度零れ落ちた雫は加速度を付けて、次々と溢れ出していく。







『俺は……お前がどんな奴だとしても―――友達だよ』

――――嘘吐き








『例えお前がどんな奴で、何をしてたとしても――――俺はお前の傍に居る』

――――本当は最初から俺を拒絶していた癖に








『――――お前は、犯罪者じゃないか』

――――そう思うならどうして最初にそう言ってくれなかった?











 最初から言ってくれたら良かった。
 白馬の様に快斗の心を土足でずかずかと踏み荒らしてくれたら良かった。

 そうしたら彼を信じる事も。
 裏切られたと思う事もなかったのに。










「結局、『探偵』なんて皆同じだ……」










 好きになんてならなければ良かった。
 愛してなんてしまわなければ良かった。

 知らなくて良かった筈の感情を気付かせたのは彼。
 そしてそれを完璧に拒絶してみせたのも彼。



 自分の存在を――――否定したのは他ならぬ彼。










「………ああ、…………」


 ここから飛び落ちたら楽になるだろうか。
 胸をナイフで一突きでもしたら楽になれるだろうか。

 出来もしない事を考えた自分に笑えてくる。


 『怪盗キッド』としては何も終わっていない。
 このまま死ぬなんて、出来なかった。

 どれだけ苦しくても。
 どれだけ悲しくても。

 今ここで止めてしまう訳にはならない。
 これが快斗の選んだ道だ。



 嫌えたら楽になれるのか。
 憎めたら楽になれるのか。

 考えた可能性に、僅かに口を開いた。






「新一なんて、新一なんて………」






 『大嫌い』
 そう言えたら少しは楽になれるかもしれないのに、その言葉が出てこない。

 好きで。
 好きで。
 大好きで。

 何があったって憎める筈がない。
 何があったって嫌える訳がない。






「大、好き……だ………」






 零れ落ちた涙は、月の光を受けて、少しだけ煌めいた気がした。






























to be continue….



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