頭がついていかない
心はもっとついていかない
ぐちゃぐちゃで
何も分らなくて
上手く息が出来ない
声すら出ない
助けを求める様に
目の前の優しい腕の中に逃げ込んだ
片想い【23】
「大丈夫ですか?」
頭の上から優しく降ってくる声に返事をする事も出来ず、新一は白馬の腕の中でただ小さく頷く。
どうしたって大丈夫には見えないだろうことは分っていた。
それを知っていて、そう聞いてくれる白馬の優しさも。
あのままその後の授業を受けれる筈などなくて。
白馬に甘え、車で家まで送ってもらって。
『こんな状態の工藤君を一人になんて出来ませんよ』
と、少し辛そうな顔で言われれば、白馬を家に招き入れない理由なんてなかった。
甘えてしまう。
彼には。
狡い事を承知で、今こうして抱きしめて貰ってしまっている。
その腕の中、未だ快斗のことしか考えられない自分は、何と愚かで最低な人間なのだろう。
分らなかった。
彼が何故あんな事を言ったのか。
分りたくなかった。
彼が何故あんな事を言ったのか。
目を瞑って、心を閉じて、何も考えずに今はただこの優しい温もりに包まれていたかった。
白馬が優しく背中をさすってくれる。
それが酷く心地良かった。
頭のどこかで、彼のシャツが濡れるのを気にしていた。
けれど、それをどうする事も出来ない。
好きだった。
彼が本当に。
傍に居たかった。
傍に居られたらそれだけで良かった。
なのに……自分は何処で間違えてしまったのだろう。
「は、くば……」
漸く少しだけ音になってくれた小さな声で新一は自分を抱きしめてくれている男の名を呼んだ。
これから自分が告げようとしている言葉がこの優し過ぎる彼を縛りつけるのは必至だった。
それが分らない程には新一は愚かではなかった。
「何ですか?」
自分が甘えているのはずっと分っていた。
自分が弱いのはもう嫌という程分っていた。
だけど、それでも――――他にこの場所から立ち上がれる方法なんて思いつかなかった。
だから紡ぐ。
呪いとも、彼を縛る黒い鎖だとも、知っていて。
「俺と……付き合ってくれ………」
己の傷を癒すために、ただそんなくだらないことの為だけに、新一はどす黒い『告白』をした。
全てが予定通りだった。
全てが計画通りだった。
彼を手に入れる為に張った罠は、自分でも驚く程の成果を白馬にもたらした。
腕の中震える彼を恋しいと思う。
腕の中震える彼を愛しいと思う。
誰にも―――渡したくないと。
「………ええ。僕で良ければ」
少しは戸惑った様に、それでも優しく彼には響いただろうか。
あくまでもそんな事言われるなんて予想外だと思っていた様に聞こえただろうか。
大切な人を傷つけて。
大切な人を泣かせて。
それでも…。
全ては計画的で。
全ては予定調和で。
余りにも醜い計算。
余りにも狡い策略。
余りにも――――卑怯な『告白』
それでも良かった。
ドロドロとどす黒いモノが自分の中に広がっていったとしても、どうでも良かった。
ただ、彼をこの腕に抱き止められただけで―――――これ以上ないぐらい幸福だった。
to be continue….