『お前はいつだって何だって真っ直ぐ『真実』を見詰め続ける『探偵』なんだろ?』


 言われた言葉はいやに強く響いた
 言われた言葉は深く胸に刺さった

 言えるものなら言ってしまいたかった
 言えるものなら本音で話してしまいたかった


 けれど言えない


 だって、言ってしまったら
 彼の傍に居られなくなってしまうから…










片想い【15】











 出された前菜を口に運びながら、新一は目の前の男を見詰めた。



 自分と彼はよく似ていると周りから言われるけれど、自分は彼程格好良くはないと思う。

 悔しいが黒羽の方が…そう、何て言うか男っぽいのだ。
 それはもう、男としてはものすごーく悔しい事だが。

 それでもそれが現実なのだから仕方ない。

 彼の甘い顔立ちは男女問わず人を引き寄せる。魅了する。
 自分も彼の魅力に魅了された数多い人間の中の一人に過ぎない。

 勿論、顔立ちだけで彼の惚れた訳ではない。

 人当たりが良くて、優しくて、頭が良くて。
 彼と居ると穏やかで優しい時間がゆっくりと過ぎていって。
 でも、その高過ぎるIQを裏付けるかの様に豊富な知識は、新一も舌を巻くほどで。

 そして、彼の裏の顔。

 天才的とも言えるマジックの腕は、素晴らしくて。
 彼の手から生まれるそれは正に魔法。
 人々を魅了してやまない怪盗は、多くの人々から愛されている。

 そして、平成のシャーロック・ホームズなんて御大層な名を頂いている自分にとって、彼は正に好敵手だった。

 人が傷付かない彼の現場では、新一も純粋に謎だけを追っていれば良かった。
 謎とスリルに溢れた彼とのやり取りは何よりも新一を楽しませてくれた。


 表の顔でも、裏の顔でも。
 目の前のこの男は多くの人間を、そして新一を魅了してやまない。


 けれど、きっと気付く事はないだろう。
 どれだけ彼が―――新一を魅了し、狂わせているかなんて。





「新一? どうした?」
「いや、何でもない」


 暫くじっと見詰めてしまっていたのだろう。
 我に返ってポーカーフェイスを装って、新一はいつもの様にそっけなくそう答える。


 目の前の彼は何も知らない。
 だから、新一も何でもない振りをする。


 彼の傍に居たいと願ったのは自分だ。
 それがどんな形であれ、彼の傍に居られればいいと望んだのは自分だ。

 だからこそ、どれだけ苦しくたって仕方ない。
 決して気持ちを吐露する訳にはいかない。
 それでも良いと、彼の傍に居られるなら良いと――そう決めた。
 そのぐらい彼の事を…愛してしまったのだから。


「ったく、素直じゃないね」
「何がだよ」
「見惚れてたなら見惚れてた、って言えば良いのにv」
「ばーろ」


 自分が彼を見詰めていた事なんて彼にはお見通し。
 だからと言って、その本当の意味を彼が知る時は来ない。

 それを望んでいるとは言っても、それが苦しくない訳ではない。
 そんな事伝わらないし、伝える気もないのだが、時々それが酷く理不尽に感じる。


 オレガコンナニクルシンデイルノニ
 オマエハナニモキヅカズニワライツヅケル 

 キョウモアスモアサッテモ
 ナニモシラナイカオデワライツヅケル


 彼のせいではないのに。
 彼は決して悪くないのに。
 こんなのは唯の自分の気持ちの押しつけなのに。

 それでも、もうそれに耐えられそうになかった。
 このままでは壊れてしまう。
 そう、だから――――。


「快斗」
「ん?」


 目の前で前菜をぱくついている男に、こんな言葉が出たのは仕方ない事だったんだ。
 ―――壊れてしまわない為に必要だった言葉。


「俺、さ……」
「うん」




「……白馬の事好きみたいなんだ」






























to be continue….



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