中途半端な気持ちなんていらない

 欲しいのは全てか無か…








『15 English titles』 7.All or nothing -全てか無か- 









 いつの間にか自分の心の片隅に入り込んできた『黒羽快斗』
 何も解らずに唯、盲目的に幸せに浸っていられれば良かったのかもしれない。

 けれどそれは『探偵』の自分には無理な事。






「工藤♪ 今帰り?」
「……お前それ人の高校の正門前で言う台詞か?」


 帝丹高校の正門前に学ラン姿の男が一人。
 その姿は制服がブレザーの帝丹では目立つ筈なのだが、それを見咎める者は居ない。

 それはここ数ヶ月同じ光景が繰り返されているから。


「だって工藤の場合この後事件現場に直行、ってパターンも多いからさ」
「まあそりゃそうだ」
「で、これから暇?」
「…一応暇だけど」
「だったら工藤の家行っても良い?」
「…嫌だっつってもいつも付いてくんじゃねえかよ」
「工藤ってば相変わらずつれないなぁ」
「うるせえ。来るならさっさと来いよ」


 そうじゃれ合いながら工藤邸へと向かう。
 それは彼らの日常というよりは既に日課。






「ねえ工藤」
「あ?」
「こないだの返事は?」


 家に帰って早々切り出された話題に新一は三ヶ月前の事に思いをはせた。


「ああ、あれか?」
「あれ扱いはないんじゃないの?」

 結構俺我慢してたんだけど。
 告白してから返事強請るまで三ヶ月も待ったんだけどな。

「うるせえよ。大体お前の告白はまだ半分だろ?」

 中途半端な告白に返事なんて出来るかよ。

「半分?」


 新一の言葉に快斗は首を傾げる。


「そう、半分」

 まだ残ってんだろ?あと半分からの告白が。

「もしかしてばれてた?」

 だとしたら俺結構ショックなんだけど。

「バレバレなんだよ」

 あれでばれてないつもりなら怪盗紳士の名を返上しなきゃなんねえんじゃねえの?


 皮肉げに言われれば快斗は苦笑を浮かべるしかない。


「うわぁ。新一君てばきっついねぇ」

 俺は結構ショック受けてるんだけど。

「うるせえよ。言うんだったらさっさと言え」


 何処までも俺様発言をかましてくれる新一にKIDは潔く落ちる。


「そうですね。名探偵に変な虫が付いても困りますから」
「解ったらさっさと言え」


 その言葉を合図にKIDは恭しく新一の前に跪く。


「私は貴方を愛しています。この世の何よりも誰よりも」
「この世だけか?」
「いえ、この世でもその先の世でも」


 KIDの言葉に満足そうに微笑んだ新一はそのまま更に誓いを強請る。


「だったら約束してもらおうか」
「何をですか?」
「俺は中途半端なものは要らない」
「私の愛情を疑うおつもりで?」


 少し切なげに言われた言葉に新一は首を振る。


「違う。その逆だよ」
「逆ですか?」
「ああ。お前は俺を大事にし過ぎるんだよ。快斗でもKIDでも」
「好きだから大切にしたいのです。何よりも大切な貴方だから」


 何よりも誰よりも大切な貴方だから。
 貴方を失ったら『私』も『俺』も生きてはいけないから。

 だから大切にしたくて、守りたくて、安全な場所に閉じ込めてしまいたくて…。


「ばーろ。俺は守られるだけの関係なんて嫌なんだよ」


 お前が今したがってるのは唯の『恋愛ゴッコ』

 綺麗な物だけ、優しい物だけ俺に見せて。
 汚い物や苦しいものは全て俺に見せないようにしまいこんで。

 俺がしたいのはそんなおままごとの様な『恋愛ゴッコ』じゃない。


「名探偵…」
「俺に全てを見せろ。見せられないのなら俺に近づくな」


 中途半端な愛情なんていらない。
 欲しいのは『お前の全て』か『お前の居ない世界』のどちらか。


「全てをですか?」
「ああ、全てだ」
「何もかも?」
「そう、何もかも」
「苦しみも痛みも?」
「苦しみも痛みも」
「傷や悲しみも?」

「傷や悲しみも…お前の全てを」

 それを誓えないのならお前の告白は受けられない。

「全てを見せれば貴方は私を受け入れて下さるのですか?」

 この罪に濡れた身を受け入れて下さると…?

「ああ、お前が俺に全てを見せるなら俺はそれを受け入れる」

 例えその身がどれだけ罪に濡れていようとも。

「だから安心しろ」


 そう言って微笑みかけられ、その笑みはまるで聖母の様で。
 『赦される』そう思ったから。


「私の全てを貴方に」


 最大限の誓いを込めて彼の手の甲にキスを贈る。


「なら俺がお前の全てを受け入れてやる」

 お前の全てを赦してやる。
 だから、これからも全てを俺に見せ続けろ。

 それが例え、どんなに汚く痛く辛く苦しいものであっても。

「御意に」


 新一の赦しにKIDもまた眩しいほどの笑みを浮かべた。






 中途半端な愛情なんていらない。

 欲しいのは『お前の全て』か『お前の居ない世界』のどちらか。

 そしてその日、新一は彼の全てを手に入れた…。










Author by 薫月 由梨香

【薫月後書き】

………何時もと違う雰囲気で行こう!と思って大失敗ι

一杯一杯〜♪(現実逃避)


【桜月様コメント】

いや〜ぁん///
最高!最高ですよオーナーっ!!
うわ…、かなり余韻が残ってるよ;
顔がにやけて止まらない(爆)←不気味。
やばいなぁ…素敵過ぎるよ、由梨香サンっ!!

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