某月某日。
工藤邸に1通の真っ白い封書が届けられた。
中に入っていたのは、たった1枚のカード。
何処か見覚えのある特殊なカードの冒頭に記された宛名は…
……江戸川 コナン様──
Blue Sapphire -蒼き宝石-
「工藤君…ちょっと良いかしら」
いつも通りの学校帰り。
少年探偵団の面々と別れたあと、それまで静かだった哀が小さく口を開いた…。
その声に、向こうで手を振る歩美に手を振り返していたコナンは表情だけはそのままに、
「…なんかあったのか?」
と、彼本来の口調で問い返した。
「何もないと思うけど…ちょっと気になるのよ」
「気になる…?」
「…とにかく、一緒に来てくれる? 貴方に手紙よ──但し、『工藤 新一』宛てだけどね」
哀の言葉に促されるまま、阿笠邸へと赴いたコナン。
あれ以降、哀が口を開く事はなく……終始無言。
そんな2人を迎えてくれたのは、この家の主であり2人の親代わりとも言うべき立場にいる阿笠博士…
「おお、お帰り」
「邪魔するぜ、博士」
「…ただいま」
真っ直ぐにリビングへと向かうコナンとは反対に、哀は一度地下へと降りていく。
その後姿を見送りながら、
「…で? オレ宛てに手紙が来たって?」
と、コナンは博士へと尋ねた。
元々、『江戸川 コナン』になってからの郵便物や電話などは、全てお隣りである阿笠邸に転送されるようになっている。
だから今更此処に『工藤 新一』宛ての物が届いても不思議ではないのだが…
「ああ…、ひとまず哀君が預かると言ってな…」
コナンの問いに博士も不思議そうな表情で首を傾げる。
どうやら哀が何故、件の『手紙』に過剰とも言える反応をしているのか、博士にも解らないらしい…。
「…最初に受け取ったのは?」
「わしじゃ」
「開封したのか?」
「する筈がないじゃろ。別に不審な点は無い様に思えたんじゃが…」
「──不審な点ならあるわよ」
博士の言葉を遮るようにしてかけられた声。
見れば地下から戻ってきた哀が、1通の手紙を手に立っていた。
「はい。これがその手紙よ」
そう言って差し出された手紙。
見る限りではなんの違和感もない、普通の手紙なのだが…
「………」
黙って受け取り、封筒の前後をくるくる…と確認するコナン。
差し出し人の明記がないそれ。
見せられた時から感じていた『何か』を受け取ったことで再認識する。
そして同時に浮かんだ白い影に、コナンは小さく溜息をついた…。
「心当たり、あるかしら?」
「……ああ。多分な」
「そう…、だったらさっさと確認して貰って、説明して頂こうかしら?」
コナンの反応にさして驚きもせず問う哀。
それは、予め予測していた事柄が哀の中にあったため。
「そう言われても、オレにもさっぱりなんだけど?」
「心当たり、ないの?」
「…こうして手紙を貰う理由は思いつかない」
開封しながら続けられる会話。
2人とも視線は封筒の中へと向いていて…
「──正体がばれてる理由はあるのね?」
「…………」
取り出されたカードに記されていた名前に、キツイ口調で哀が呟いた。
──江戸川 コナン様
本日午後11時。
米花シティホテル屋上にて、名探偵をお待ち致しております。
怪盗キッド──
そんな文面の書かれたカード。
普段の怪盗らしくないシンプルなそれに促されるまま、コナンは哀の反対を押し切って指定された場所へと足を運んだ…。
現在の時刻、午後10時59分…54秒
「…10秒でも遅れたら帰ってやる」
ぼそっと呟かれたその言葉に、既にその場にいた怪盗がくすりと笑みを零す。
「もう少しお待ち頂いても良いのでは?」
「オレより先に来てるヤツをいつまでも待つつもりはねぇよ」
「おや…お気づきでしたか」
給水塔の上から降り立った怪盗を、ビルの端にいたコナンが振り返り見返す。
「それで? 一体何の用だ?」
1歩1歩、静かにゆっくりと近付いてくる怪盗に、コナンは早速本題を問い尋ねた。
「せっかちですね…名探偵は」
「唯でさえ灰原の反対を押し切って来てんだ。長居するつもりはねぇ」
「やはり女史は反対なされたのですか…」
「…説明するのが大変だったぞ」
「工藤邸に送ったのは間違いでしたか? 毛利探偵の元へ送るよりはと思ったのですが…」
「……どっちもどっちだ;」
此処に来るまでのやり取りを思い出し、疲れた表情を見せるコナン。
そんなコナンにキッドは少し的外れなことを口にし、益々コナンを疲れさせた(笑)。
「良いから用件話せ。ねぇんなら帰るぞ」
「…お呼び出しした限り、用があるのは当然でしょう?」
「ならさっさとしろ」
「解りました」
本気で帰ろうとしているコナンの様子に気付き、キッドは「つれないですねぇ」と呟きつつ頷いた。
そして、何処からともなく取り出した1枚のディスク…
「これを」
取り出すと、そのままの流れでコナンへと差し出す。
「?」
「これをお渡ししたくて、本日貴方をお呼び出ししました」
首を傾げるコナンに今日の目的を口にし、言外に害はないのだと告げる。
その言葉に、
「別に、害があるないは今更だろ。そう思うんだったら、灰原の反対押し切ってまで今頃こんな処にはいねぇよ」
と、コナンは奪うようにディスクを受け取った。
そんなコナンの行動と言葉に、知らず知らずのうちに微笑みを浮かべるキッド。
「…そうですか」
「んで? なんなんだよ、コレ」
手にしたディスクをしげしげと見つめ、ふと目の前にいる人物を見上げる。
コナンからキッドの顔は、相変わらず逆光で確認する事は出来ないが…逆にキッドからは月光を浴びたコナンの顔が良く見える…
…今までで1番近づいたのではないかと思われる2人の距離。
見上げたコナンにまた別に笑みを向け、
「──貴方が追っている、とある組織についての情報」
「?!」
なんでもない事のように出された言葉。
しかしそれは、コナンにとって重要かつ重大な単語──
「損にはならないと思います。宜しければ、お使い下さい」
「………なんで…」
思考の止まった頭を無理矢理動かし、理由を問う。
コナンの呟きには「どうして組織のことを?」「どうしてお前がそんなことをする?」等、様々な「何故」が入り混じっていて…
「…気紛れ、と言っても信じないですね」
「当たり前だろ…」
…気紛れのレベルで済むほど、組織は甘くない…
「なんでだ…?」
──ディスクを持った手に力が入る…
「…どうして、お前がここまでする?」
「………」
「お前にだって、やる事があるだろ…?」
沈黙を守っていたキッドが、そのコナンの言葉で反応した。
「…ご存知、だったのですか…」
静かに呟かれた肯定を示す言葉。
「此処に来るまでに、お前に関して調べられる限りのことを調べた」
「…それだけでお解りに?」
「──プラス、お前の犯行現場。あれを見て、気付かない方がおかしい」
待ち合わせに赴く際に、少しでも相手の情報があるに越した事はない。
最後まで反対していた哀からの条件とも言える発言に、出かけるギリギリまで『怪盗キッド』について調べた。
そして、調べていけばいくほど…今まで見えなかった事柄を見つけた。
…当初脳裏を過った、『組織の罠』と思われる要素が減った…
「今まで誰にも気付かれませんでしたよ…流石は名探偵」
「……お前がそう呼ぶのも、オレだけだよな」
「私が唯一認めた方ですから…」
そう囁きキッドはコナンから距離を取る。
…そうしなければ、目の前の蒼き慧眼に全てを暴かれそうで──
再びいつもの距離に戻った探偵と怪盗。
「それでは名探偵。また…」
優雅に腰を折り、舞台から退場する旨を告げる怪盗。
そんな怪盗に、探偵は手にしたディスクを軽く掲げ、
「…コレ、さんきゅ」
と、柔らかい笑みを浮かべた…。
それは、コナンがキッドの『好意』を受け取った証拠。
他人の手を借りようとしない孤高の探偵が…唯一、同じ孤高の存在である怪盗だけを受け入れた証拠…
「…また、招待状をお届け致します」
キッドはそう言って、コナンの返事を聞かずに飛び立つ。
あっさりと舞台から飛び立っていった白い鳥を見送り、探偵はすぐさま背を向けた。
さっさと帰って……今も心配しているであろう少女を安心させ、受け取ったディスクを確認しなければならない。
その為には早く帰るに限ると、邂逅の場を後にする。
「今度は…オレも手土産持参で来てやるよ」
扉を開くと同時に呟かれた言葉は、風に乗り…扉の閉まる音とともに消えた──
『15 English titles』 titles 6.Blue Sapphire -蒼き宝石-
Author by 桜月 雪花
【桜月様後書き】
…ちょっとご無沙汰な『15titles』ですね;
今回は『8月のBlue Sapphire』の番外編っぽく仕上げてみました(笑)
番外編というよりは始まり編?
やっぱお題が『Blue Sapphire』だから…これは『8月』で逝くべき?と、1人勝手に思い込みそのまま暴走しました(殴)
……副題(蒼き宝石)はあまり活かされてないがな;
受験モード(本格)突入のオーナーへ、少しでも激励になれば幸いですv
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【薫月コメント】
叫んでも良いですか…?
いきます! いっちゃいます!←許可貰わなくても叫ぶ気満々(爆)
きゃぁ〜///
『8月』番外編風味〜vvv←その言い方はどうなんですか薫月さん…ι
やっぱり『Blue Sapphire』ですからこれですねぇ〜vv
KコですよKコvv やっぱり雪花姉のKコ素敵だわ〜vv
最後のコナンさんが…んふvv(妖笑)
受験モード突入中の僕にとって何よりの激励ですvv ありがとぉvvv
いやぁ〜素敵過ぎてこんなコメントしか出来ない自分が…(泣)
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