──ああ…、お前も同じだったのか…



Wings of black and white -黒白の翼-





「──よう、名探偵…また会ったな」

 目の前に降り立った怪盗を、探偵は複雑な表情で見上げる。

「お前……知ってるんだろ?」
「何を?」
「…………」

 挨拶を返す事もせず、いきなり自分の持っている疑問をぶつけてきたコナンに、キッドはその意味を知りつつ問い返す。

 それでも、辛そうに口を閉ざすコナンに、

「心配しなくても、口外はしない」

と、問いに答えると同時に約束をする。
 しかし、それに対して返ってきた言葉はキッドにとって意外なもので…

「そーじゃねぇよ」

 コナンは目の前にいる怪盗が、自分の正体を第3者に口外するとは万が一にも思っていなかった。

 …ただ。どうしても知りたいこと…


「……なんで知ってる?」


 ──この怪盗が、どうやって自分のことを知ったのか…──



 真剣な眼差しで問う探偵の姿に、怪盗は暫し見惚れる。
 自分だけを真っ直ぐに見つめるその瞳の輝きに……魅せられる。

 だからだろうか?

 素直に言葉が口から零れたのは…



「──興味があったから…」


「え?」
「お前に興味があった…それじゃ駄目か?」
「キッド…」

 キッドの言葉に自分の耳を疑う。
 それでも、その後にも続けられた思いもしなかった答えに、コナンは目を瞠った。

「あの屋上で会った時に、お前から何かを感じた。内と外とのアンバランス…それが気になった」

 …降り立った自分を真っ直ぐ見つめてきた子供。

 怪盗が相手を見据えれば、その視線に畏怖を感じだいたいの者が目を逸らす。
 しかしこの子供だけは、何処か余裕で楽しそうな…そんな笑みを浮かべて自分を見上げてきた。

 そして言ったのだ…


『江戸川 コナン。探偵だ──』


 見かけからは想像出来ない程の強い視線。
 そして、自分の状況を正確に把握しての的確な判断。

 目の前にいる子供を、そのまま信じてはならない……そう直感した。


「それで調べた。お前はオレにとって最大の好敵手になる…そう直感したから」


 ──それは、いつもは何かとはぐらかす怪盗の真意。


「…すぐ、解ったのか…?」
「いや。さすがにオレもそこまで情報通じゃねぇからな…はっきり解ったのは、黄昏の館の前だ」

 素直に受けとめたコナンが問うと、キッドは苦笑を浮かべて否定する。
 高い知能指数を持つキッドでさえ…その情報を手に入れるまでにかなりに期間を要した。

 メモリーズエッグの時点では、8割程度までしか把握出来ていなかったのだから…


「……そうか」

 その答えに、コナンは安堵の溜息を付く。

 …しかしその表情は…険しい。


「安心しろよ。お前のデータは違和感無いように補足しておいたからさ」

「!」

 コナンの心中を読むように、キッドはシニカルな笑みを浮かべつつ呟く。

「オレが解ったのは、『コナン』って人間の過去が無いからだ。『工藤新一』という人間が消え、入れ替わるようにそれまでの経歴が解らない『コナン』が姿を現した……誰だって不思議に思うだろ?」

 現に、必ず何処かにある筈の“痕跡”が、『江戸川 コナン』には一切見つからなかった。

「つまり…、『オレ』の過去を作ったってことか」
「そういうこと。だから早々にはバレねぇよ」

 キッドの説明を聞き、事態を把握する。

 たとえ、彼が言った通り『コナン』に過去が加えられたとしても…


 ──いつまた、他の人間に知られるか解らない…。


 所詮『江戸川 コナン』は架空の人物なのだ。

 元々は存在し得ない幻の人間。辻褄が合わず、そこから綻びが始まっても…仕方がない事だった。

 それをキッドは見つけ出し、綺麗に修復し縫い直した。


 …結果を言えば、また助けられたのだ。この怪盗に──





「おめぇには…」

 暫く続いた沈黙を破ったのは、コナンの方で…

「……お前は…黒白の翼を持ってンだな」

「?」

 一定距離を保ったままの2人。
 キッドは月光りの逆光で、コナンはキッドが作り出した影で…お互い、その表情を窺い知る事は出来ない。

 俯き、より一層表情を隠し呟いたコナンの言葉を、キッドはしっかりと聞き、そして首を傾げる。

 彼が何を思い…何を言おうとしているのかが、全く解らなかったから…。


「どういう、意味でしょうか?」
「そのままだよ」

 キッドの問いかけにコナンはあっさりと顔を上げ答える。

「お前はオレの弱みを知る…オレにとって悪魔みたいな存在だ。でもその反面、オレのことを助け、救い出してくれる存在でもある」


 …だから、黒白の翼を持つ者。


「──それでしたら、貴方も黒白の持ち主でしょう」

 くすっと笑い、キッドは1歩…その距離を縮める。

「オレが?」
「ええ」


 もう1歩。2人の距離が縮まる。


「“時紡ぐ古き塔、2万の鐘を謳う時。光りの魔人、東の空より飛来し…白き罪人を滅ぼさん”」


「…? なんだ、それ」
「オレとお前が、初めて対決した時に知り合いの魔女から言われた“予言”だ」
「魔女? 予言…? それに初めてって…」


 僅かに響く靴音…


「お前がまだ『アイツ』だった頃、顔こそ合わせる事はなかったが…1度対決してるんだよ」


 怪盗の歩みが止まる。

 2人の距離は、僅か1メートル…


「……あの、時計台でな」


 ──そう言ったと同時に、遠くの方から鐘の音が響き渡った…



 黒羽君と同等の澄んだ強い気を発し、悪魔のような狡猾さで人の心を見透かす…慧眼の持ち主。


 そう評された人物は間違いなく、今目の前にいる彼しか当て嵌まらない。

 …後にも先にも…


「…あれ、キッドの犯行だったのか…」
「あの時は吃驚したぜ? なんせ、いきなり発砲だからな」

 素直に驚いているコナンを見下ろし、わざとおどけて言ってみせる怪盗。
 すると探偵は少し気まずそうな表情をし、

「…あれは……座長の顔を拝んでやろうと…」

と、後には続かなかった言葉を口の中でごにょごにょ呟く。

「インパクトありすぎ。…まあ、そのお陰で、すぐにお前と『アイツ』を結ぶ事が出来たンだけどな」
「………」
「後にも先にも、オレを追い詰める事が出来るのは…お前だけだからな」

 再び真っ直ぐに自分を見つめてきた探偵に、怪盗は満足そうな笑みを浮かべる。

 …そう。
 自分が認めたのは唯1人。

 他の者は、唯の道化に過ぎない…



「──それとこれと、どう関係があるんだ?」

 予想外に知り得た過去の出来事。
 だが、それと今までの会話との接点が見えない…

 そう思いコナンが問えば、

「つまりお前は、犯罪者達からすれば悪魔のような存在だってこと」

 あっさりと返ってくる答え。

「…少なくとも、貴方がこれから戦おうとしている組織から見れば、貴方は悪魔以外の何者にも見えないでしょう」

 わざわざ口調を変えてまで言ったキッドを訝しげな表情で見上げる。

「なら。お前にとっても、オレは悪魔のような存在なのか?」


 お前も、犯罪者だろ? 確保不能な怪盗さん?


 そう続けたコナンに、キッドはにやりと不適な笑みを浮かべる。

「勿論。私にとっても貴方は出来れば関わりたくない、厄介で始末の悪い存在だ」


 唯一認めた好敵手。
 だからこそ、相手の力量を見誤るような事はしない。

 …それはコナンもキッドも同じこと。


「それでも……お前との対峙は捨てきれない」

 そう答えたキッドに、コナンは軽く首を傾げる。

「お前に何かメリットでもあるのか?」

 明らかに矛盾した言葉。
 しかしキッドの口元は楽しげに歪んでいて…

「……ある」


 カツン…と音を立て、2人の距離が消滅する。


「お前の存在が…オレの救い、そのものだから…」



 抱きしめられた腕の中、コナンは声にならない言葉を紡ぐ。




 ──ああ…、お前も同じだったのか…






  『15 English titles』 titles 5. Wings of black and white -黒白の翼-




Author by 桜月 雪花

【桜月様後書き】

なんだか尻ギレトンボ(爆)のような気がして仕方が無いのだが…;
とりあえず言いたかったのは、2人にとって、

 お互いが自分を救う存在であり、また自分を破滅へと追い詰める存在

である…と言うことです。


…コレでどうでしょうか、オーナー?(ビクビク)


【薫月コメント】
最高ですよ!もうマジで素晴らしいブツをありがと〜vv(悦)
もう萌え萌えですわ〜vv
好敵手でありお互いを救える存在…素敵なのですvv
うわぁ…これ僕のブツ出すの嫌になってきたなぁ…ι

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