さあゲームを始めよう

 退屈な人生を変える為に

 君ととびっきりのゲームを…








『15 English titles』 4.Backgammon -駆け引き-









 最初はほんの気まぐれ。
 今まで俺と対等にやり合える奴なんて見た事がなかったから純粋に興味が沸いただけ。

 切欠は本当に些細な邂逅。

 あいつにとって俺はただの『気障な怪盗』
 俺にとってあいつはただの『批評家』

 けれど今夜その関係に終止符を打つ…。






 ひっそりと静まり返った深夜の屋上で、小さな影は難解な恋文を送りつけて来た人物を静かに待つ。
 そこへ一分と経たないうちに純白を纏った一つの影が降り立った。


「今晩は名探偵。今宵も良い月夜ですね」
「流石は怪盗KIDの予告日ってとこか?」


 後ろから声をかければ、ゆっくりと振り返った彼に皮肉げにとても小学生とは思えない口調で問われKIDはポーカーフェイスの下で笑みを深めた。
 それは彼が限られた者にだけ見せる彼本来の口調だから。

 『江戸川コナン』=『工藤新一』

 この図式を知る者は少ない。

 知れば巻き込まれる危険性を秘めているから。
 だからこそ彼自身も他の人間を巻き込むまいと必死で正体を隠している。
 けれど自分は進んで知る者の側に入った。

 理由は単純。それだけ目の前のこの名探偵に興味が沸いたから。


「そうですね。私は月の女神に愛されていますから」


自信に満ちたKIDの言葉にもコナンはただ小さく一つ溜息を吐くだけ。


「それで、用件は何なんだ?」

 ったく、こんな手の込んだ予告状なんか送りつけやがって。
 お前と違って小学生の身の俺をこんな時間に呼び出したんだからそれ相応の用事なんだろうな?


 ひらひらとKIDからの予告状をチラつかせながら、さも嫌そうにコナンはKIDに今日の用件を尋ねる。
 その言葉に時刻は解っているのに、KIDは得意のマジックで懐中時計を取り出してみせる。

 現在時刻午前一時。

 小学生の身のコナンがおいそれと出てこれる時間ではないのはKIDも百も承知している。
 けれどここにこの時間に来てくれる時点で既に第一ステップはクリア。

 どうやら運命の女神は今晩もKIDに味方しているらしい。


「重要な用件なのですよ」


 KIDは出来得る限りの営業スマイルでコナンに語りかける。
 が、常日頃言われている様に無自覚な目の前の探偵殿には少しの効果もないらしい。

 早くしろ、と急かす鋭い目線が痛い。


「何だよ重要な用件って」
「今宵貴方にお伝えしたいことがあるのです」


 ここからが本番。
 芸術家の腕の見せ所。

 どれだけ自分の雰囲気に酔わせられるか、どれだけこちらに引き込んでしまうか。

 その為の演出。
 その為のこの姿。
 その為のこの場所。

 KIDは用件を早く聞かせろと訴えてくる鋭いけれど綺麗な瞳を受け止めながら、それでもその雰囲気作りに勤しむ。


「この場所で最初にお会いした時の事を覚えていらっしゃいますか?」
「…忘れたくても忘れられるかよ」


 少しばかりその時の事に思いをはせていたのかコナンの口元にほんの少し笑みが浮かぶ。
 その事にKIDもほんの少し口元を綻ばせた。


「そう言って頂けて光栄ですよ」
「あん時は嫌な奴だと思ったっけな」

 ったく、あんな捨て台詞はいて行きやがって。

「貴方の記憶に少しでも残りたかったものですから」


 その言葉は嘘。
 あの時はそこまで考えてはいなかった。

 KIDは本音と嘘を織り交ぜて会話を進める。
 その方がより真実は見極められなくなるから。


「探偵の俺の記憶にか?」
「ええ。貴方限定で、ですがね」


 わざとポーカーフェイスを外して微笑めば、今度こそコナンはその微笑みに一瞬瞳を奪われる。
 それも全てKIDの計算の内だとも知らずに。


「…俺限定って何だよ」


 次の瞬間、見入っていたのを嫌うかのようにKIDから視線を外し不満げにコナンは呟いた。
 その言葉にああやっぱり、とKIDは心の中で一人笑いを堪えるのに必死だった。

 ここまで言えば大概の人間は気づくのに…。

 流石は無自覚で有名な名探偵。
 この分でいくときっと白馬やあの西の探偵の想い等微塵も伝わっていない筈。

 その方が自分にとっては好都合だが。


「お解り頂けませんか?」


 解らないのを承知で問い掛ければ、案の定コナンは首を捻った。


「…さっぱり解んねえんだが?」


やはり色恋沙汰に疎い名探偵にこれだけで悟ってもらうのは無理だったか、とKIDは最初から予想していた展開に内心では満足しながら表面上は切なそうな顔を作る。


「そうですか…ならば仕方ありませんね」
「KID…?」


 KIDはそう言いながらスーツの膝が汚れるのも厭わずにコナンの前に跪き、その右手を恭しく持ち上げる。


「名探偵…私は貴方を愛しています」
「………ちょっと待て。俺は男だぞ?」

 言っとくがこの姿から戻ったらお姫様だった、なんて御伽噺はないからな?
 それは正体を知っているお前が一番良く解ってんだろ?


 突然の告白に、ご丁寧に説明までつけて至極真っ当な返事を返してくれるコナンにKIDは微笑みながら続ける。


「ええ存じておりますが何か?」

 大丈夫ですよ、そんな御伽噺を期待している訳じゃありませんから。

「何かって…お前男が好きな訳?」


 解ってはいた事だが、コナンの余りの冷たい言い方にKIDは苦笑を浮かべ首を緩く横に振る。


「いいえ。私は名探偵が好きなのです。好きになった方がたまたま同性だったといったところでしょうか」
「……俺は探偵なんだが?」
「ええ、解っていますよ」
「怪盗のお前にとっては天敵以外の何者でもないよな?」
「ええ、そうでしょうね」
「それでもお前は俺の事を好きだと?」
「ええ。貴方が好きです」


 言い淀みなくはっきりと告げられた告白にコナンは複雑な表情を浮かべる。

 それも当然。
 探偵の彼が怪盗から愛の告白を受けたとなればそれだけで頭の痛いもの。
 今彼の頭の中ではどんな計算が行われているのか。
 彼の思考を覗いてみたい、KIDはふとそんな衝動に駆られた。


「……それで?」
「……え?」


 が、悠長にそんな事を考えていたKIDに予想外の言葉が返ってきた。

「好き」「嫌い」「少し考えさせて欲しい」そんな返答を考えていたのに。
『それで?』…とは一体…?


「だから、『好き』だから何なんだよ」
「何といいますと?」


 意味を図りかねているKIDがそう尋ねればコナンは少し苛立った様に答えた。


「だから『好き』なのは解ったんだよ。それでお前はどうしたいんだ?」


 そのコナンの言葉にKIDは驚きを隠せず、ほんの少し思考が停止したのを感じた。

 思いっきり予想外の展開。
 自分の返答の前にどうしたいのかなんて聞いてくるとは…。
 まさかこう来るとは思わなかった…。

 KIDは予想外の事態に内心で焦るのと同時にどうしようもなく楽しんでいる自分に気づく。

 だからこそ…この人は面白い。


「その前に名探偵のお返事を聞かせては頂けませんか?」


 楽しくて楽しくて仕方がないのだが、このまま向こうのペースに乗せられる訳にはいかない。
 あくまでも会話の主導権はこちらが保たなくては。


「……お前の言葉をそのまま信じられる程俺はお人好しじゃない」


 コナンの言葉にKIDは悲しげな、そんな表情を浮かべる。
 が、それはあくまでもポーズ。

 そんな答えは予想していた。
 そしてそれに対する答えも。


「怪盗の私では信用できないと?」
「ああ」
「ならば私の本当の姿を見せれば信じて頂けますか?」
「…お前正気か?」


 探偵である彼に本当の姿を見せる。
 それは怪盗であるKIDにとって自殺行為にも等しいもの。

 それが解っているから、彼も信じられないと言う様に自分を見詰めてくる。

 その視線をしっかりと受け止めつつもKIDは更なる愛を囁く。


「ええ正気ですよ。貴方に信じて頂けるのであれば私は何でもするつもりですから」


 そう言ってKIDはコナンの手の甲に軽く口付けた後、ゆっくりと立ち上がった。

 風に煽られて闇夜に翻る純白のマント。
 それにコナンが目を奪われた次の瞬間、ポンッという音と白い煙幕と共に一人の青年が現れた。

 その青年の姿にコナンの大きな瞳が驚きで更に大きく見開かれる。


「お前あの時の…」

 蘭が俺と間違えた高校生かよ…。

「あれ? 俺の事知ってたんだ?」


 口調まで素の物に戻して、快斗はさも嬉しそうに声を弾ませる。
 おおよそKIDからは予想もつかないであろう快斗の言葉遣いに、コナンはまじまじと快斗の顔を見詰めた。


「…お前のその顔嫌味だよな」
「しょうがないでしょ? これが素なんだから」


 引っ張ってみる?と笑顔で尋ねられればコナンは静かに首を横に振る。


「ここまでされればもう疑う気もおきねーよ」

 つうかお前ナルシスト?

「ひどいなぁ名探偵ってば。愛の告白した後の相手にそれはないんじゃないの?」

 それに俺はそんなに似てるとは思わないんだけど。
 名探偵の方が美人さんだし〜♪


 あえて口調は快斗のまま続ける。
 二面性があるっていうのもこの名探偵にならプラスに働くかな、なんて考えあってのもの。

 それに呆れたのか溜息を吐きつつ、コナンはKIDに素っ気無く、


「馬鹿だよなお前も」


 と一言呟いた。


「何で?」
「それはこっちが聞きてえよ。何で俺なんだ?」

 お前ならそれこそ選り取り見取りだろう?
 何だってやっかいな俺を選ぶんだよ?


 当然の事を当然の様に言われ、快斗は少し苦笑した後それでも何時もの口調で告白を続ける。


「そりゃ名探偵が好きだからに決まってるじゃんvv」

 しょうがないでしょ。
 一目見て心奪われちゃったんだから♪


 口調は軽くても瞳は真剣に。
 それだけで彼には全て伝わるから。


「……馬鹿」
「うん♪ 俺名探偵馬鹿だし〜♪」
「…こんな奴がKIDだって知ったら中森警部泣くだろうな」
「あ、俺中森のおっちゃんのお隣さん♪」


 楽しそうに事実を告げれば、途端に彼の形の良い眉が寄る。


「…………お前悪趣味」
「酷いなぁ。別に俺だって狙ってそうなった訳じゃないんだけど?」


 寧ろ悪いと思ってる…っておいおい。
 さり気なく話題転換してないか? 名探偵。


「だったらなおの事悪趣味だな」
「それで名探偵。さっきの返事は?」

 いい加減にわざとらしい話題転換はやめようよ、ね?
 話題転換したい気持ちは解らなくはないけど。


 真剣な目で見詰めればコナンは少しだけ瞳を伏せながらも、意外な程素直に自分の本音を口にした。


「…お前の事は面白い奴だと思ってる」
「それは光栄」
「だけど俺はまだお前の問いに対する明確な答えは用意出来ていない」


 それはそうだろう。
 いきなり思いを告げたところでドラマの様に上手くいくとは快斗自身だって思っていない。

 でも、これなら脈あり。


「なら名探偵こうしないか? 俺は今ただの高校生。ここから落ちたら…どうなると思う?」


 快斗はわざとらしく両手を広げて数歩下がり、あと三歩ほどで本当にここから落ちる位置で立ち止まった。


「お前何言って…」
「試してみない?」

 俺の事嫌いなら俺はここから落ちるし、少しでも引きとめてくれる気があるなら俺はここに残るけど?
 いっそのこと俺が落ちるぎりぎりになれば答えが出るかもしれないよ?


 屈託のない笑顔とよく言われる素顔の笑みで、まるで遊びを提案する子供の様に事も無げに言ってみる。


「…冗談は休み休み言え」


 流石は人の生き死にを見てきた名探偵。

 先ほどとは比べ物にならない位瞳が鋭い。
 突き刺さるような冷たい視線が痛い。

 解ってるよ。
 俺だって解ってる。

 でもそんな顔するんなら俺に勝算はありそうだよね?


「冗談じゃなかったら?」
「みすみす死なせるなんて真似出来る訳ねえだろ」


 苦々しげに吐き出される言葉すら睦言に聞こえるんだから俺ってほんと重症。


「それって俺を死なせたくないって事?」
「当たり前だろ。誰であろうと俺の目の前で死なせたくないんだよ」

 ――もう二度と…


 小さく呟かれたコナンの言葉さえKIDの耳は聞き逃す事無く拾う。

 彼の事を調べた時に出てきた人物にKIDははっきり言って苛立ちを隠せなかった。
 彼の心に焼き付いて離れないその人物に心底嫉妬した。
 こんな命一つで彼の心を縛り付けられるならそれも悪くないかもしれない。

 そんな事も頭の片隅を過ぎった。

 けれど今はその嫉妬に心を奪われている時ではないから。
 このゲームも終盤戦。

 あともう一押しで自分は確実に…勝てる。


「なら落ちないから…その代わり俺の願いを一つ聞いてくれる?」
「…何だよ」


 彼の瞳が痛いほど告げてくる『卑怯者』と。

 そうこんなやり方自分には似合わない。
 それでもこんなやり方しか思いつかなかったから。

 だから…せめて口調と瞳だけは真剣な物で彼に伝えよう。


「……名探偵の傍に居させて?」

 それが世間で言われるような甘い関係でなくても構わないから。
 貴方の側に居られるだけで幸せだから。


 快斗が思いのたけを伝えれば、コナンは一瞬その綺麗な瞳を瞬かせた。


「……………お前ってほんと馬鹿だよな」


 暫くして返された返事はあくまでそっけないもの。
 けれど楽しそうに笑う彼の表情がそれを裏切っていた。

 ――ちょっと待て、笑ってるってどういう事だ?

 冷静に状況を観察していたもう一人の自分が思いっきり的確な突込みを入れる。
 何でこんな陳腐な脅しに彼が笑う?


「何だよ。その意外そうな顔は?」

 流石の怪盗KIDでも今の俺の反応は予想外だったみたいだな?


 そう言ってなお笑い続けるコナンに流石の快斗も困惑の表情を隠せないでいた。

 だってこれは彼の言う様に、あまりにも予想外の出来事。
 てっきり怒ると思ってたんだけど…。


「そのままだよ。名探偵が何で笑ってるのか解んなくて困惑してるだけ」


 こんな時に肝心のIQ400は役立ってくれなくて、理由の解らない快斗は仕方なく本音を口にした。

 はっきり言って計算外。
 口調が若干拗ねたものになってしまったのも計算外。


「そのままだよ。余りにも面白かったんで笑っただけだ」


 その快斗の口調に更に口元に浮かべた笑みを深い物にして、さらっと酷い事を言ってくれる。


「余りにもおもしろいって…」


 結構酷い事言われてないか俺?


「しょうがねえだろ面白かったんだから。…やっぱりお前俺の言った事ちゃんと聞いてなかっただろ?」
「え?」


 唐突に言われた事に快斗は彼が何を言いたいのかさっぱり解らなくて、首を捻った。


「俺はお前にこういった筈だぜ? 『お前も馬鹿だよな』ってな」


 コナンが与えてくれたヒントを頼りに記憶を手繰り寄せてみる。

 そう言えば確かに彼は『お前も』と言っていた。
 ここに居るのは自分と彼だけ。

 という事は…。


「まさか名探偵も馬鹿の一人って事?」


 あり得ない筈の結論に達して快斗は思いっきり瞳を見開いた。


「…やっと気付いたか」

 ったく、いらねえ計算ばっかしてるから気付かねえんだよ。


 そう言いながら不敵に笑う彼が何だか酷く格好良くて。
 計算ばかり、駆け引きばかりに気を取られていた自分が何だか凄く情けなくて。

 快斗は思わず吹き出してしまった。


「ほんと俺って馬鹿だよね」

 名探偵はヒントをくれてたっていうのにさ?
 何か結構情けないんだけど?

「だからさっきから言ってんだろ? お前は馬鹿だって」

 まあ俺も人の事言えないんだけどな。

「でも名探偵返事くれなかったじゃん」

 それはどう説明するの?

「ばーろ。俺は『明確な答えは用意出来てない』って言っただけだろうが」

 勝手に一人で先走ったお前が悪いんだよ。
 お前がどうしたいのか言わないから答えが用意できなかっただけだ。

「…名探偵ってばほんと駆け引き上手だねぇ」

 やられたよほんとに今回は。


 そうやって一つ一つ答え合せをしながら一歩一歩お互いに近づいて、手を伸ばせば届く…そんな距離まで辿り着いたところでお互いに立ち止まる。
 考えている事は一緒だったのに、いらないゲームを仕掛けてしまった。
 その事に二人して笑い合う。


「お前が下手なんだよ」

 下手に頭が回るから要らない事考え過ぎんだよ。
 頭が良すぎるのも考え物だな?

「名探偵だって頭いいじゃん」

 じゃあ名探偵は何も考えてなかった訳?

「お前が勝手に先走ってくれたお陰で俺は事が運びやすかったんだが?」

「うっ…」


 それを言われると結構痛い。
 先走ってしまったというのは今更ながらに快斗も感じているから。


「まあそのお陰で言い出しやすかったけどな…///」


 そう言って今度は少しばかり顔を背けた彼の頬がほんのりと赤く色付いていて。
 格好良い癖に、こういう所は本当に可愛らしい彼に手を伸ばしそっと腕に抱き上げた。

 予想通りその事に抵抗はなく、快斗はそのまま腕の中のコナンに問う。


「ねえ名探偵?」
「…何だよ」
「名探偵の隣に俺の居場所を頂戴?」

 さっき言ったでしょ?
 どうしたいのか言わなかったから答えが用意出来なかった、って言ってたからさ。
 どうしたいのか言ったから、だから今度は返事を頂戴?


 有りっ丈の思いを込めて最後の告白をすればコナンは少し考え込んだ後、


「……お前珈琲淹れるの上手いか?」


 と、疑問系に更に疑問系で返してくれた。


「へ?」

 何でまた突然?

「珈琲淹れるの上手いかって聞いてんだよ」

 うるせえ。黙って質問に答えろ。


 脈絡のない質問に快斗が目を丸くしていると、すかさずコナンから早く答えろと瞳で急かされる。
 それに慌てつつも、


「ん〜…俺あんまり珈琲って飲まないからなあ…」


 どうだろう…、と少し困惑気味に答えを返せば彼は腕の中で何時もの推理時のポーズで何やら考え込んでしまって。
 これってまさか何かのテストだった訳?と一人内心で冷や汗ものだったりしたのだが。


「…練習する気はあるか?」

 元が器用なお前なら多分何回か淹れりゃ上手くなりそうだし。要は要領の問題だしな。

「名探偵がそう望むならそうするけど?」

 それにしても、それとこれと何の関係が…?


 未だ困惑気味の快斗に、コナンは先程の格好良すぎる不敵な笑みを浮かべながらきっぱりと一言告げた。


「俺、珈琲淹れるの下手な奴と付き合う気ねえから」
「絶対上手くなる!!」

 もうそれこそ、その辺の喫茶店なんかじゃ手も足も出ないぐらい上手くなるから!!


 コナンの一言にそれこそ叫び声に近い音量で即答すれば、うるさいと軽く頭を叩かれた。


「いってえ…」
「叫ぶな馬鹿」
「だってぇ…」
「…だってじゃねえよ」


 快斗の反応にくすくすと笑うコナンに快斗も笑みを誘われる。


「それにしても名探偵ってばほんと駆け引き上手だよね」

 一体どっからばれてたの?

「最初からだ」

 お前のポーカーフェイスが俺に通じる筈ないだろ?

「手厳しいお言葉で…」


 コナンの言葉に苦笑しながらそう返せば、そっと耳元で一言囁かれる。


「それによく言うだろ? 『先に惚れた方の負け』ってな」


 ニヤリと口の端を持ち上げたコナンに快斗は完璧に負けを認めざる終えなかったのだった。




 すっかり名探偵の掌で踊らされていた自分が悔しい気もするけど…でも、まあいいか。

 ――ゲームに負けて勝負に勝ったんだしね?








Author by 薫月 由梨香

【薫月後書き】

久々の15titlesです。
無駄に…長っ!しかも長い上に中身が…中身がねえ!(叫)
すまん雪花姉ιこんな物体しか書けなかった僕を許してくれ!(平謝り)
んじゃ!(さっさと逃亡・爆)

【桜月様コメント】

あうあうあうあうあうあうあうあうあうあ…
(脳内春満開)

──シバラクオマチクダサイ──

きゃあきゃあきゃああああ///
素敵☆素敵過ぎますよ、由梨香さんっ!!
何気にこの『Backgammon』ってタイトルは桜月のお気に入り。
(ボードゲームの中でも難しい頭脳戦が必要なゲームだから、サブタイトルも『駆け引き』にした…という裏話もある・笑)
だからどんなないようになるかずっと楽しみにしてたんだけど……けどっ!!
最高ですよ、由梨香さぁぁぁん!!←絶叫。
コナンさんの「お前も…」にノックアウトですぅ;
珍しくもKコなのは……やはり『銀翼』の影響デスカ?(妖笑)

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