関係は対等
在るべき姿は『探偵』と『怪盗』
だから、それは不可能な事
――3.Relativity -相対-――
「こんばんは」
「今日は随分とゆっくりなんだな。夜の散歩でも楽しんでたのか?」
ふわりと何時もの定位置に降り立った白き魔術師。
その魔術師に探偵はにっこりと、たっぷり嫌味を含んだ笑みを向ける。
「名探偵は相変わらず皮肉がお上手で」
そう言って、自分と同じ笑みを浮かべながらゆっくりと一歩自分に近づいた怪盗を見上げ、探偵はゆっくりと同じ様に一歩歩を進める。
二人の間にはお互いにあと2歩程進めるだけの距離が保たれている。
それは何時も変わる事のない境界線。
「お前に言われたくないんだが?」
何時だって、皮肉たっぷりな言葉を残して去っていく魔術師。
それは探偵への嫌味であり、そして励ましでもあった。
心に残るその言葉に対する反発は探偵の中で確実に力を生み、そして生きる糧となる。
彼を捕まえようとする事はイコール探偵が探偵である事を忘れない事。
それは『江戸川コナン』という曖昧な存在を確実な存在にする為には今や無くてはならない物。
「そんな事はありませんよ。名探偵には勝てませんから」
クスッと笑う口元すら格好良くて。
若いとはいえ隙のない身のこなし、そして見られる事を前提に作られたその存在は全てにおいて観客に夢を見させる。
当然、目の前で対峙する自分にも。
「天下の怪盗キッドにそう言ってもらえるとは光栄だな」
何時だったのだろう。
『探偵』ではなく『観客』になりかけていた自分に気付いたのは。
何時だったのだろう。
『怪盗』ではなく『魔術師』としてコイツを見てしまうようになったのは。
「その言葉、褒め言葉として受け取っておきますよ」
苦笑を浮かべた魔術師を静かに二つの蒼が見詰める。
全ての真実を見詰め続けてきた蒼は白を迷う事無く捕らえ、そして本質を、真実を見詰めている。
その事に魔術師もうすうすは気付き始めている。
それはこうして、ある時は望まず、そしてある時は意図的に、微かとはいえ逢瀬を繰り返してきた事により変わって来た自分達の関係からも解る事。
確実に回り始めた歯車に導かれる様に足元から崩れかけようとしている今までの関係。
けれど――。
「ま、好きに取っとけよ。俺にとってお前にどう取られるかはどうでもいい事だし、お前の存在も俺にとってどうでもいいものだからな」
――関係は、自分達の距離は保たれなければならない。
「相変わらず連れない事を仰る。まあ尤も、その意見には私も賛成ですがね」
優秀な名探偵殿に興味を持たれては色々と動きにくいものですからね。
「連れなくて結構。お互いに願ったりかなったりだろ?」
俺もお前みたいな手際のいい怪盗に関わったら面倒だからな。
変わる事のないスタンス。
巡る事のない運命の輪。
自分達の関係は、あくまでも『探偵』と『怪盗』。
そう互いが互いに自分に言い聞かせている事も、そして出来るならそれを崩したいと思っている事も、解り過ぎる程に解りきっている真実。
けれど今の関係を、この対等な関係を崩す事は互いの自滅を意味する。
『探偵』という柵を捨ててしまえば探偵は探偵でなくなる。
『怪盗』という柵を捨ててしまえば怪盗は怪盗でなくなる。
それは互いに踏み込む事の出来ない、踏み込めば全てが崩れ去る事が解っている事項。
これからどうなるのか、どうするのかは解らない。
けれど、今互いにそこへ踏み込む勇気はない。
だから…。
「そう…願ったり叶ったりですよ」
今ある、そしてこれからも存在し得る筈のこの関係は。
全てを今までのままに。
そして何も変わる事無く、変える事無くこのままで。
「そう思うならさっさと帰れよ。お前は『怪盗』、俺は『探偵』なんだからさ」
全てを崩す事無く。
そして何も変わる事無く、変える事無くこのままで。
探偵の言葉に怪盗は何時もの不敵な笑みを浮かべ、優雅に一礼してみせる。
「名探偵の仰せのままに…」
その言葉と白い煙幕に包まれ、何時もの様に怪盗の姿は深夜の屋上から音も無く消える。
それに満足して探偵は呟く。
「お前は『怪盗』、俺は……」
――― 『探偵』のままで居られるかすら解らない、唯の愚者(フール)だよ…。
Author by 薫月 由梨香
【薫月後書き】
はうぅぅ…激しく激しく出来上がりが遅くなって申し訳ありません(平謝り)
しかも、またしても「何時もと違う自分に挑戦!」なんて言って………撃沈しました;
今回は薫月にしては珍しく(…)Kコ。
雪花姉のお口に合えば(……)と書いてみたのだが、人間無理はするものではないと痛感しました(爆)
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【桜月様コメント】
お久しぶりな「15titles」ですね☆
最後のコナンさんのお言葉に胸を打たれました。
キッド様の思いが気になるところなんですが…これは勝手に妄想ですか?続きを期待しちゃダメ?←鬼。
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