「ねえ、哀ちゃん」
「何かしら?」
「俺とKID分ける薬って作れないかなぁ?」
『15 English titles』 titles 14.Light and Darkness -光と闇-
唐突にそんな相談を持ち掛けてきた快斗に哀は作業をしていた手を止め、目線をパソコンのディスプレイからを快斗へと移した。
「一体どうして突然そんな事を言ってきたのか聞いてもいいかしら?」
「いや…別に何かあった訳じゃないんだけど…」
哀のはっきりとした問い掛けに快斗は言い難そうに言葉を濁す。
「大方、一人で『犯罪者の自分は工藤君にはふさわしくない』なんて考え込んだ結果なんでしょうけど」
その哀の言葉に快斗は今度こそ黙りこくってしまう。
快斗の無言の肯定に溜息をつきながら哀は一番肝心な部分を聞いてみる事にした。
「貴方どっちになるつもりなの?」
「え…どっちって?」
「『黒羽快斗』か『怪盗KID』かって聞いてるのよ」
質問を聞いていた快斗の顔には答えでは無く疑問符だけが残っていて、その事に哀は再度溜息をつきながら更に詳しく説明をしてやる。
「確かに今の貴方が黒羽君なんでしょうけど、KIDもまた貴方の一部でしょう?」
「…うん」
「だから聞いてるのよ。もし分かれることが出来るなら貴方はどっちを選ぶの?」
明るくて人懐っこい普通の高校生としての昼の顔か
罪をその純白の衣と共に身に纏い闇を駆ける夜の顔か
「そんなの…」
決まっていると快斗は哀の瞳を見詰める事で伝える。
彼の傍にいるのなら、あの犯罪に対して潔癖なまでの彼の傍にいるのならば罪に濡れた夜の顔よりも昼の顔の方が良いに決まっている。
快斗の答えを違う事無く読み取った哀は一呼吸置くと、抑揚の無い声と冷めた視線を快斗に浴びせた。
「なら貴方は全てをKIDに押し付けて逃げるのね」
「違う。俺は新一の為に…」
「それが逃げだって言ってるのよ」
先程よりも更に抑揚の無い声で哀は快斗の続きを遮った。
「工藤君を逃げる為の口実に使わないで頂戴。
貴方は自分の罪の重さに押し潰されそうになってそこから逃げ出したいだけじゃない」
「違う…俺は…」
「違わないわ。
自分の中の闇の部分だけ切り捨てて、無かった事にして楽になりたいだけでしょう?
そうすれば貴方は安心して彼の傍に居られるものね?
でもそれは決して彼の為じゃなくて自分の為。自分が安心して彼の傍に居たいから。違うかしら?」
哀の辛辣な言葉が快斗の中の暗い部分にストンと落ちてくる。
『自分が安心して彼の傍に居たいから』…そうかもしれない。
自分がただの『黒羽快斗』であれば、何の痛みも苦しみも迷いも無く彼の隣に居られる。
ただ甘いだけの生温い関係に浸っていられる。
ああそうか…彼の為なんて唯の口実で本当は彼女の言う様に自分の為だったんだ…。
そこまで考えた快斗の口元には自嘲気味な暗い笑みが浮ぶ。
その笑みは哀に快斗が自分の結論に辿り着いた事を告げるのに充分な物だった。
「どうやら考えは纏まったみたいね」
「うん。哀ちゃんの言う通りだったよ」
俺逃げてたんだね。自分の闇から。
そしてそれを受け入れて、それでもなお隣に居てくれる彼から俺は逃げ出そうとしていたんだね。
「それだけ解れば上出来よ」
快斗の辿り着いた結論に哀は満足そうに微笑むと、先程とは全く違う優しい眼差しで快斗を見詰めた。
「貴方は言ってみれば光と闇の両方を持っているの。
昼の明るい太陽の様な光と、夜の冷涼なけれど暗く深い闇を」
昼の優しく明るい『黒羽快斗』
夜の闇の中で孤高に戦い続ける『怪盗KID』
「でも光が正しくて闇が間違っているなんて安直な物じゃないのよ。
闇を持っている貴方だからこそ彼の持っている光が真っ直ぐに見えるの。
それは光の中で生きてきた人々には決して真っ直ぐ見る事が出来ない物。
けれど貴方は闇を持っているからこそ、それを光として捉えられる」
自分も闇の中に居た人間だから解る。
自分の中の闇を照らしてくれるあの強く優しい光。
光は光の中ではその存在を真っ直ぐに捕らえる事は出来ない。
けれど闇の中なら…それが暗く深いものであれば在るほどしっかりと認識できる。
「それに工藤君が赦しているんですもの。貴方が不安になる事なんて何もないのよ」
そう、あの彼を理解しそして寄り添える人間は目の前に居るこの人だけ。
自分では無理だったから、悔しくもあったけれどそれでも目の前のこの人が彼にとってきっと何者にも代え難い存在だから。
だから見守っていこうと決めた。
「哀ちゃん。ありがとう」
そう言って哀の言葉に微笑んだ快斗の顔はここに入って来た時とは比べ物にならないぐらい輝いていて。
哀はその変わり身の早さに苦笑を漏らした。
「いいのよ。それよりそろそろ帰らないと工藤君が拗ねるわよ?」
私は後で彼に妬かれるのはごめんだわ。
さっさと帰りなさい。
「うん。そうする」
快斗はそれだけ言うと満面の笑みで哀の居る地下室を出るために立ち上がった。
「あ、言っておくけど私のカウンセラー料は高いから」
後で請求書代わりに欲しい薬品のリストでも作っておくわ。
「…お手柔らかに」
お互いに本当はそんな物必要ない事は解っているけれど、それをする事によって次に相談し易くなるのを知っているから。
「哀ちゃん」
地下室の扉に手をかけた快斗は帰る前に一言と哀に告げる。
「何かしら?」
「俺も新一も哀ちゃんに感謝してるから。
俺達は哀ちゃんが見守っていてくれるから安心して一緒に居られるんだ。
俺達にとって哀ちゃんもまた光のような存在だから。
だから…ありがとう。これからもよろしくね♪」
「ええ。こちらこそ」
「じゃあまた明日♪」
「ええ」
そのまま笑顔のまま扉の向こうに消えた快斗を視線だけで見送った後、哀は酷く穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「私を光だなんて言ってくれる人が居るなんてね…」
それならば…彼らの光になれるのならば、出来るだけ優しく出来るだけ暖かく彼らを見守っていこう。
彼らが闇に飲み込まれそうな時は出来る限りその闇を照らし続けよう。
「私が見守っていてあげるから…だからどうか幸せに…」
Author by 薫月 由梨香
【薫月後書き】
うわぁ…ι
すいません…もうほんと一杯一杯でしたι(爆)
哀ちゃんに励まされる(…)快斗が書きたかったんだが…見事挫折(爆)
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【桜月様コメント】
女史──ぃぃぃっ!!←シャウト。
もうもう!オレの書いたブツ(Secret Share)より全然いいじゃないかっ!!←大興奮。
2人(この場合は快斗と哀?)の『光』。最高よぉぉぉぉ8(>_<)8←もう止まらない
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