好きな人が居ます
大切にしたいと思っています
でも…でも……
健全な男子としては
じっと見詰めているだけっていうのも
正直結構辛いんです…;
黒羽快斗的名探偵の落とし方【2】
(うっ……うぅ……;)
土曜日の夕方。
夕日ももう沈みかけ、そろそろ夜の帳が下りようとする頃―――黒羽快斗は悩んでいた(何)
いや、寧ろ苦しんでいた(爆)
(こ、この状態は…嬉しいんだけど……嬉しいんだけどぉ………;)
どうしてここまで辛そうなのか。
とりあえず、これまでの経緯を説明すると……。
工藤邸のリビングのソファーの左側に快斗は座っていて。
そこでマジック関係の本を読んでいた。
そのうち、新一も本を読むのだとソファーの右側に座って、お気に入りのホームズを読んでいた。
いつもなら本を読み終わるまでは、呼ぼうが、電話が鳴ろうが、抱きつこうが(これは蹴り落とされるけど)、決して本を手放そうとしない新一。
そんな新一ではあるのだが、最近要請続きで疲れていたのだろうか。
横でこくこくと舟を漕ぎ始めた新一を横目でちらっと見ながら快斗はそんな可愛らしい様子に笑みを零していた――のだが……。
気付けば本格的におねむになってしまった新一の頭が自分の肩に乗せられていて。
それでも、折れないようにちゃんとお膝の上に閉じた状態で本が乗せられている辺り、流石というか何と言うか…。
兎にも角にも、今現在、快斗は動くに動けない上に、密着度『最近で一番MAX』な上に、穏やかな寝息なんて耳元で立てられている状態な訳で……。
(もう…マジで、理性の限界……;)
直ぐ横を見れば、そりゃもう極上に可愛らしい彼の寝顔。
新一が落ちないように、という名目でちゃっかり肩に回した手から伝わってくる温もり。
もう、限界。
本当に限界。
余りにも、ある意味一番辛い拷問にかけられている様で、快斗は泣きそうになりながら新一を見詰めていた。
白くすべらかな肌。
長く伏せられた睫毛。
紅を塗った様に赤く色付く唇。
全てが快斗を誘っているとしか思えない。
(………抱き締めたい)
切実に、そう思う。
この間、どうしても彼に伝えたい言葉があって。
その時に抱き締めて以来、新一にそういう事はしていない。
彼がまだ自分をそういう対象として見れない事も。
彼がまだ自分に対してそういう気持ちになれない事も。
快斗は知っているから無理強いはしたくなくて。
だから、どれだけ抱き締めたい、口付けたい、そう思ってもここまで我慢してきた。
我慢に我慢を重ねてきたのだが……。
(もー駄目。もう絶対駄目。このままじゃ俺狂っちゃうよ…;)
「んっ……」
「あっ……」
首が疲れたのだろうか。
もぞもぞと動いた新一の頭が肩から落ちそうになって、快斗は思わず新一を抱き締めていた。
「っと…危なっ……」
そんな事を言いながら抱き締めてしまって。
それから、しまった、と後悔した。
(……これはこれで………)
拷問かもしれない。
彼が寝ているのは分かっている。
意識が今現在こちらにないのは分かっている。
それでも、だ。
んっ…という声と共に、快斗の胸に摺り寄せられた頬が快斗の心拍数を上げていくばかり。
(もー…新一。犯罪…)
快斗の心の声など無視して、すよすよと気持ち良さそうに寝ている新一に快斗は天を仰いだ。
「んっ……」
ぱしぱしと数度瞬きをして、新一は目を開けた筈なのに暗い視界に疑問を感じ、それから顔を少し動かして今現在の自分の状態を確認した。
どうやらソファーで寝てしまったらしい事は何となく覚えてはいるのだが…。
「新一? 起きた?」
「………」
「新い…」
「お前、人が寝てるのをいい事に何してんだ?」
顔を上げ、自分を抱き締めている目の前の男にニッコリと笑ってやる。
すると、幾分引き攣った笑みが返ってきた。
「し、新一君! こ、これは違うんだよ!」
「ほーお…何が違うのか説明してもらおうか?」
「新一が本読んでる間に寝ちゃって、俺の肩にもたれてて、で…動いた拍子に落ちそうだったから危なくて支え……」
「ンな都合よくいく訳ねえだろうが!」
べしべしと胸を叩けば、快斗は新一の身体に回していた腕を漸く外した。
「ほ、ホントなんだってば!!」
「………」
じと目で新一が見詰めれば快斗はわたわたするばかり。
とりあえず、起き上がって身体を離すと快斗に今新一が出来る一番の笑顔で笑いかけてやる。
途端に真っ赤になってしまった快斗に少し満足して、最後の一言を突きつけてやった。
「お前、一週間出入り禁止」
「えっ!? ええっ!?」
「当たり前だろ。同じ様なことがあったら困る」
「ちょ、ちょっと待ってってば…! 俺は、ホントに……」
「るせー。出禁つったら出禁だ」
「新一…それは幾らなんでも……」
「あんまりガタガタ言うと、期間延ばすぞ?」
「うっ……うぅ……;」
ぐしぐしと泣き始めた快斗にちょっと可哀相になるけれど、ここは心を鬼にして。
新一はとりあえず―――追い出す事にした(爆)
「分かったらさっさと帰れ」
「えっ!? きょ、今日は…」
「今日から、だ」
「そんなぁ…;」
「ちなみに、一週間のカウント自体は明日からな?」
「ええっ!? そんなの酷いよぉ;」
涙目で懇願する様に新一の腕に縋ってきた快斗をべりっと引き剥がして。
新一はとりあえず目覚めの珈琲を淹れる事にした。
「あ、俺が淹れるから…」
「いいから、帰れ」
「………じゃ、じゃあ………一週間したらまた来ていい……?」
「……ま、気が向いたらな」
「絶対絶対来るんだから!!」
「…勝手にしろ」
とりあえず冷たくそれだけ言って、新一はぷいっとキッチンへ行ってしまった。
残された快斗は、というと―――。
(…あー…ばれてなくて良かった…)
ひっそりと胸を撫で下ろしながら、仕方が無いので帰り支度をしていた。
実は新一が寝ている間、そりゃもう極上の寝顔を見せ付けられて、余りにも我慢ができなくて。
本当に、本当に一瞬だけれども、新一の額に口付けてしまった。
(あー…でも……)
濡れ衣は頂けないけれど、それでもアレだけ可愛い寝顔を見られて。
擦り寄って来てくれる彼を抱き締められて。
とりあえず…幸せだったから、いっか。
「……なーに、にやけてんだよ」
「あ、いや別に…」
「………」
キッチンからひょこっと顔を出した新一に、色々考えていたところを見られてしまって。
何だか酷く痛い視線を向けられた。
「さっさと帰れ」
「う、うん…」
ぺたん、という表現が本当にお似合いなぐらいへこみながら荷物を持って帰ろうとした快斗に新一は溜息を吐いて。
手近にあったメモ用紙に数行文字を書くと快斗へと渡してやる。
「コレ…何?」
「一週間後に出る推理小説の新刊。これ買って家に届けろ」
「えっ…」
それはつまり…勝手にしろとは言ってたけど、ちゃんと一週間後に来る口実を作ってくれたって事?
「い、いいの?」
「ただの、『おつかい』だ」
「う、うん! 絶対絶対買ってくるね♪」
にぱっと満面の笑みで笑った快斗を見ていると何だか新一も少しだけ嬉しくなって。
にっこり笑って言ってやった。
「来週…しょうがねえから待っててやるよ」
快斗が新一にとって友達以上になれるのは、大分遠い日になるのかもしれない……。