──私立・鳳雛学園、高等部。


 その名の通り、将来素晴らしい大物になると期待される、特にすぐれた才能をもつ──神童と呼ばれる者達が集う学園。

 小中高の他にも大学・大学院まであり、学園敷地内には膨大な書庫を有する図書館や食堂・スポーツ施設の他にも、病院や銀行・遊楽施設なども点在し…ある種の都市のような状態になっている。
 学園に通う全ての学生は、最低限の衣食住の保証をされる好待遇。
 希望者には無償で寄宿舎を提供し、個人個人の状況に応じて奨学生制度も設けてある。

 小中高は基本的に10のクラスに分かれており、振り分けはアルファベットでA〜J。
 そのうちのA〜Iクラスまでは、学力・能力を均等に選別し割り当てられているのだが……最後のJクラスだけは、各々の学年で最も秀でた生徒だけが集められている。


 その生徒達を、通称『joker』と呼んでいる…



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  The eye of a Typhoon 〜ROOM 5〜
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 某月某日。
 今日も今日とて、とても穏やかな……


「快ちゃ〜ぁん♪ 新ちゃぁ〜ん♪」


「………きた」
「あはは〜…;」

 天気的にはとっても穏やかな筈なのだが、何故だか2年J組教室前の廊下は騒々しかった。

 …1人の女性徒の手…もとい。口によって(笑)


「おはよ!」
「おはよう、由梨香ちゃん」
「………はよ」
「ちょっと新ちゃんっ! 挨拶はきちんとしなさいってお母さんから教わらなかったの?」
「だからその呼び方はヤメロって言ってンだろぉがっ!!」


 だいたい、ウチの親はンなこと言わねぇよ!


 毎度お馴染みなやり取りを交わしつつ、それでもきっちりと答える新一。
 そんな新一の様子に、隣で苦笑いを浮かべていた快斗が「律儀だねぇ」などと暢気な事を考えていた…。


 ──今日も(…)元気に明るい鳳雛学園高等部の生徒会長、薫月 由梨香。
 彼女の朝は、まず神聖なる生徒会室へと足を運ぶ事から始まる。
 そこで今日1日のスケジュールを確認し、今必要だと思われる書類の採決などを済ませ…次に昨日までに起きた世間での事件・事故・芸能のニュースをインターネットで確認する。
 仕入れた情報と『彼等』の昨日の行動を照らし合わせ、問題がなければ時間を確認して生徒会室を後にする。

 …そして向かう先が…


「なんで毎朝毎朝ウチのクラスに顔出すンだよ!」


 普通は自分の教室に行くもんじゃねぇのか?!


 教室の中と外。
 窓を挟んで向かい合っている3人に、廊下を歩いている他の生徒から視線が集まるのは言うまでもない。

「だってぇ♪ やっぱ2人の顔見てからじゃないと学校に来たって気がしないしぃ」
「あ、それでいつも鞄持ったままウチに来る訳?」

 由梨香の返答に、彼女が持っていた鞄を指差しながら尋ねる快斗。

「そうそう。そうなのよぉ♪ なんか日課って言うか…そうしないとやる気出ないンだよねぇ」
「でも、オレ達がいない時は? オレはともかく、新一なんか不定期にいないし…」
「ん〜? ………ご心配なく♪」


 …何の為に毎朝ネットで情報拾ってると思ってるのさ。


 満面の笑みでにっこりと答えつつ、内なる由梨香はふ…っと意味ありげな嘲笑を漏らす。

 そう。
 全ては朝、彼等に会うために他ならない。ってかむしろそれだけが目的である。
 前日までの行動と朝に仕入れた情報を照らし合わせ、登校してくるかどうかの推測を立て確立を計算する。
 だからどちらかが不登校だと出た時、由梨香は決して2年J組の教室に向かう事はなく……ギリギリまで生徒会室で仕事をこなし自分の教室へと向かう。
 つまり、仕事の時間を割いてまで、由梨香は2年J組に…新一と快斗の元に赴いているのだ(笑)

 ちなみに普通の情報やニュースからだけでは2人の行動を把握・予測する事は不可能に近い。
 この学園だけではなく日本中、世界中が注目をしている2人だ。かなりセキュリティーの高い報道規制がかかっている。
 それなのに由梨香がばっちりしっかりと把握しているのは…

 …彼女の類稀なるコンピュータ能力と、親友である女史のおかげであろう──



「──で。今日は何の用だよ」

 由梨香の不自然な間に訝しげな表情をしつつ、触れない方が身の為だと無意識に感じた新一が話を先へと進める。
 しかしながら新一の問いこそ今更な質問で、隣にいた快斗だけでなく、教室内で3人の様子を眺めていたクラスメートまでが苦笑を零した。

 今までのやり取りや説明でお解りだろうが、由梨香が2年J組を訪れるのは今日が初めてではない。
 「日課」だと豪語(笑)するほどに訪問している由梨香とその度に起きる騒ぎに、2年J組の生徒達はすっかり慣らされてしまっているのだ。
 だからこそ、廊下を歩く他の生徒達は何事だと学園の有名人3人に視線を向けるのだが、教室内からは全く視線がない。
 むしろ「今日は何分でカタがつく?」などと話し合っていたり…あまつ、賭けの対象になっていたりするのだ。


 流石は『joker』とでも言うべきか?←それもどうよ;


 教室中から「はじまった…」というザワメキが聞こえる中、その問いに答えるよう、由梨香がびしっと新一に指を差して宣言した…


「今日こそは名前で呼んでもらうわよ、新ちゃん!!」


 …その宣言の瞬間、クラス中から「やっぱりな」と言う呟きが漏れた(笑)


「ヤだ」
「即答?!」
「…って由梨香ちゃん! 新一を指差さないでくれる?(冷怒)」
「はぅ!! ご、ごめんなさいっ!!」

 新一の無慈悲な即答と快斗からの静かな怒りのオーラを感じ、由梨香はショックから立ち直らない内に慌てて指と頭を下げる。

 トコトン工藤 新一中心なマジシャン・黒羽 快斗。
 彼が怒り本気になれば…ナニをどうしたって由梨香如きの一般人(?)が名探偵に近付く事は出来なくなる。
 その事をよぉく、重々承知して(聞いて)いる由梨香。それだけは避けなければならないと、この時ばかりはとっても下手である。

 先日、階段を階段から突き落としたのが嘘の様である…;(ROOM3参照)



「…お? 生徒会長やん」
「おはようございます、薫月先輩」

 そこに現れた2年J組所属の2人。
 由梨香の目の前にいる2人ほどではないにしても、それなりに(…)有名である服部 平次と白馬 探である。

「およ? へーちゃんにサルちゃん♪ おっはー」

 廊下で顔を合わせた2人に、由梨香が「やほっ☆」とでも言わんばかりに片手をシュタっと上げて反応する。
 しかし、その反応の仕方…むしろその呼び方に白馬が抵抗を示す。

「…その、『サル』ってやめてくれませんか?」
「だって、略し方が他にないンだもん」
「呼び捨てにしてくれて構いませんから…;」

 基本的には「〜ちゃん」と呼ぶ由梨香。
 唯一の例外が、彼女の親友である3年J組の薬学エキスパートの女性だけなのだが…

「…まあ、白馬にそれは可愛そうだろ;」
「服部が今にも笑死しそうだぞ?」

 流石に不憫(笑)に思ったのか、教室側の2人からも声が上がる。
 その声に白馬が自分の後ろへと視線を向ければ…

「ぷ…っ、…………ぶっ!!」

 …必死に堪えようとはしているのだろうが、全く以って無意味な努力を続けている服部の姿。
 大阪人の彼にはストライクだったのだろうか…?←そう言う問題?

「…服部君(泣)」
「…呼ぶ度に毎回笑死されても困るし、ここはその要求を飲みましょーか」

 腹を抱えている服部に情けない声を上げる白馬と、「私が支配(…)している間に学園内で死人は困る」と呟く由梨香。
 その言葉に新一が「オレの名にかけてもそれは困る」と返したものだから…今度は隣で快斗が笑い出した。

 そんなやり取りをしている間に時計の針が予鈴時刻を指し、由梨香が慌てて自分のクラスへと戻って行く。2年J組から由梨香のいる3年A組は結構離れているのだ。
 その後姿を見送り、今だ笑っている服部を引っ張り教室へと入る白馬。
 新一も快斗を促し自分たちの机へと向かい──担任がやってくるのを待った。


 ──そして今日も、いつもと変わらない1日が始まる。





「ああああああ──っ!!!」


 …その後、1時限目の最中に今日も目的が果たせなかった事を思い出した由梨香が、授業中に叫び声を上げるのも、またいつもと変わらないのである(笑)






【桜月様後書き】
遅れた事を深く深くお詫び。

ご無沙汰しております。
そして30000hitおめでとうございます!
由梨香サンの諸事情(笑)やらオレの諸事情なんかで遅れてしまいましたが、恒例のお祝いブツを献上させて頂きますv

しかし作成時間が1時間半…良いのか、これは;(でも異様に進む進む・笑)

またまた登場の生徒会長。彼女の目的は新一に自分の名前を呼んで貰う事(笑)
気付いていた人もいるのではないかと思いますが、新一は由梨香会長を「生徒会長」としか呼んでいないンです。
…そして毎朝の戦い(但し一方的)が勃発する。

こんなので大丈夫でしょうか…?(ドキドキ)
さり気なく由梨香サンはどうやってか(…)情報を入手しているようですし…その辺が親友の女史(笑)の目に止まったのでしょうか?(ぇ)




【薫月の爆笑モード(ぇ)】
いやぁ、前回お強請りした「名前を呼ばせよう」やってくれて有り難う!(興奮) そして――――ぷ…あはははははは!!!!(爆笑)
あー…笑い過ぎて腹筋ばかりか背筋までやられましたよ(ぇ)
由梨香の目的も、そのやり取りもとってもとっても素敵なのだが……今回の目玉(…)はやっぱり…。

       『サル』でしょう!!!(力)

見た瞬間に爆笑。へーちゃんもおいしいのだが、やっぱりサルが……ぷぷ……(堪笑)
いやぁ…いつもの事ながら雪花姉はやってくれます!!
しかも最後の叫びにも爆笑(笑)
とってもとってもおいしいブツをどうも有り難う御座いましたvvv


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