──私立・鳳雛学園、高等部。

 その名の通り、将来素晴らしい大物になると期待される、特にすぐれた才能をもつ──神童と呼ばれる者達が集う学園。
 小中高の他にも大学・大学院まであり、学園敷地内には膨大な書庫を有する図書館や食堂・スポーツ施設の他にも、病院や銀行・遊楽施設なども点在し…ある種の都市のような状態になっている。
 学園に通う全ての学生は、最低限の衣食住の保証をされる好待遇。
 希望者には無償で寄宿舎を提供し、個人個人の状況に応じて奨学生制度も設けてある。

 小中高は基本的に10のクラスに分かれており、振り分けはアルファベットでA〜J。
 そのうちのA〜Iクラスまでは、学力・能力を均等に選別し割り当てられているのだが……最後のJクラスだけは、各々の学年で最も秀でた生徒だけが集められている。


 その生徒達を、通称『joker』と呼んでいる…




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   ROOM
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 某月某日。とても穏やかな快晴に恵まれた日曜日。

「今日こそはゆっくりとさせて貰う!」

 …何やら朝から高々に宣言をしている人が1人──


 彼は、鳳雛学園・高等部2年J組に在籍している工藤 新一。
 言わずと知れた『平成のホームズ』『迷宮無しの名探偵』。
 高等部は愚か、学園内(一説では日本国内)でもっとも最強の『joker』と言われている…。


 …で。
 その彼が何故、こんな宣言を態々朝っぱらからしているのかと言うと…

「えぇ〜、折角の日曜日だよぉ? 遊ぼうよ、新一ぃ」

と、隣りで不満げにボヤいているルームメイト──黒羽 快斗への牽制の為である。


 黒羽 快斗。新一と同じく高等部2年J組に在籍しているマジシャンの卵。
 …その容姿のせいか、新一とは対の『joker』と言われ、2人揃って噂される存在でもある。
 既にその腕は快斗の父・盗一を凌ぐと言われ、今では時々ステージをこなす反面、夜には『平成のアルセーヌ・ルパン』『月下の魔術師』と呼ばれている、国際犯罪者番号:1412…通称・怪盗KIDなんかもやっていたりする。

 勿論。それは生徒は愚か学園側ですら知らないトップシークレット。


 ……目の前にいる、寮のルームメイトである名探偵を除いて……


「ヤダ」

 快斗の誘いを一刀両断。
 いっそ清々しい程の切れっぷり(笑)に、快斗は本気で情けない声を上げる。

「なんでぇ(泣)」
「…ここんとこ、事件の要請ばっかで新刊が読めなかったンだよ。だから邪魔するな」
「オレは新刊に負けたのデスカ…;」
「端から勝負になんねぇよ」
「ヒドイ(滂沱)」

 しっかりはっきりと自分の意見を主張し、その手に持っていた洋書を開き始める。
 こうなるともう、どうやっても彼を動かすのは不可能で…
 快斗は零れ出そうになる溜息を押さえつつ立ち上がった。

 行き先はこの部屋に設置されている簡易キッチン。
 それは、『読書の秋』を満喫し始めたルームメイトへ、珈琲を煎れてあげる為に他ならない…。


 鳳雛学園の寮は、通常の寮と『joker』専用の寮の2種類からなる。
 それは『joker』と呼ばれる生徒達が、学園生活とは別に各々の才能を必要とされる場所への要請などがあり、生活が他の生徒達とは異なる為の配慮からそうなっているのだが…

 『joker』専用の寮は10畳の室内に机・本棚・ベッド・テレビをそれぞれ2人分。
 ちなみに部屋の間取りや物の配置は、ある程度(日曜大工で出来る範囲なら)自由に変えることが可能。(工事が必要の場合のみ要申請)
 その上、バス・トイレ別という、寮としては贅沢過ぎるほど整った部屋なのだが…さすがにキッチンまでは付いていなかった。
 なのに何故存在しているのかと言うと…

「警察にしょっちゅう要請されて、食事すらまともに取ってないンですよ?! 設置にかかる費用は負担しますから、工事の許可を下さい!!」

 …と、高等部1年になった時(つまり始業式当日)に、快斗が学園長へと直談判(訂正:進言)した為。
 既に探偵として活躍していた新一は、学園にとっても重要であり…なにより、快斗の鬼気迫るオーラ(笑)に、学園長もあっさりと書類に了承の印を押したのだった…;



 ──そんなこんなで、(基本的には夜型なのにも関わらず)珍しくも早起きして(それこもれも全ては読書の為)有意義な時間を過ごした新一サン。
 読み終わった洋書を閉じ一言…

「ん。まあまあだったかな」

 …その表情は満足げです(笑)。

「あれ…? 快斗のヤツ…どこ行ったンだ…?」

 自分の本棚へと本を収納し、そこで漸く快斗の存在を思い出す。
 2人で共用して使っているテーブルの上にはコーヒーカップが1つだけ。

 ちなみにこれは新一が快斗から差し出され、無意識に飲んでいたものである(笑)。

「アイツ…今日は仕事じゃなかったよな……どっちも」

 間取りを分けずに使っている2人の部屋は、寝る時だけベッドにカーテンを引く…という至ってシンプルなもの。
 だから部屋に相手がいないのは火を見るよりも明らかで…

 …それにしても新一サン。
 さりげなく夜の仕事の事も考えてましたね?


「………」

 室内を見まわして腕を組む。
 すっかりその思考は推理モードになってます(笑)。

「携帯と財布は置きっぱなしだ…となると、外には行ってないな」

 うん、と頷くと、新一は寮内の心当たりを見に行く為に部屋から廊下へと出た。
 日曜日のせいか、いつもは煩いほどの廊下も今日は静まり返っている。
 最近忙しく動いていた新一も、そんな静寂とした雰囲気は久しぶりで…

「なんか改めて認識すると、結構新鮮なもんだな」

 社交辞令でもなく猫かぶりでもない、心からの自然な笑顔。
 新一が余程気を許している相手しか見れないであろう、無防備な笑みが垣間見れる。

 もしも今ここに人がいれば…そして今の新一を視界に入れてしまったとしたら……間違いなく流血(もち鼻から;)し、新一が去った後の廊下には屍累々地獄絵図──になってた事は請け合いだろう(爆)。


 高等部だけでも5棟の建物からなっている寮。
 そのどの棟の1階にも、その棟で生活する寮生達が使用出来るキッチンスペースに食堂。そしてランドリースペースが存在している。

 最上階である3階にある部屋から1階まで降りてきた新一。
 そのまま目的地へと足を進め、

「……いた」

 ランドリースペースで鼻歌混じりに洗濯をしていた(笑)快斗を見つける。
 快斗の方も新一の気配に気がついたのか、お互いの姿を認識したのはほぼ同時で…

「あれ? 新一、読み終わったの?」
「…ああ」
「ごめんね? もう少しかかるかと思って洗濯してた」
「別に構わねぇよ」

 極力、新一の意識が浮上した時には傍にいて、1番に自分の存在を認識させようとしている快斗。
 一方。新一も深く沈み込んでいた意識から覚醒した時には、1番最初に快斗の姿を確認する。

 口に出して言った事はないけれど…それが2人にとっては当たり前で必要な儀式。

「もうすぐ終わるから…そしたら、どこか出かける?」
「………そうだな」


 乾燥機の回る音だけが響くランドリー。
 こんなにも天気が良い日には、近くにある物干しスペースで乾かしたいのだが…
 快斗曰く、

「本当はお日様の匂いをいっぱいに吸い込んで乾かしたいンだけど…目を離した隙に誰が盗って行くか解らないからねぇ」

 …だそうだ。







雪花姉から9月10日記念で頂きました〜♪ いや〜んVvこの学校入りたい〜vv←第一声がそれですか…(爆)
入りたいですよね?ここご覧になってる方なら皆…(妖笑)
快斗君…苦労が絶えないよね…。そう…新ちゃんのは何時盗まれるか…(快斗のもだけどな・爆)
雪花姉ほのぼのとした素敵なブツをありがとうございましたVv


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