好きな人の為なら何でもできる
そんな言葉は本当は嘘だと分かっていた
探偵も―――そして、怪盗も…
矜持(ver.sweet)
受け入れて。
抱きしめて。
口付けて。
全ての柵を捨てて、そう出来たらどれだけ幸せだろう。
深夜の屋上。
風と戯れる様にマントを遊ばせていた白い怪盗は聞こえて来た足音に振り返り、丁重に一礼した。
「ようこそ、名探偵」
「…よっ……」
丁重に迎えてくれた怪盗に探偵は片手を挙げてみせる。
先週、あの時までまさかこんな事になるなんて予想もしていなかった。
怪盗も探偵も。
あの日、この場所で告げられた言葉がもう一度この場所の空気を震わす日が来るなんて。
「覚悟は出来ていますか?」
「お前こそ」
そう言ってお互いにニヤリと笑う。
お互いを強く見詰め合ったままで。
「それなら私も安心して貴方に告げる事が出来ますね」
ふわり、と柔らかく怪盗は笑って手袋に覆われた白い手でそっと探偵の頬に触れた。
それに探偵も抵抗はせず素直に受け入れる。
それにまた怪盗は笑みを深めた。
「名探偵。私は貴方を愛しています」
「俺は男だ」
「知っています」
「男で…そして探偵だ」
「それも重々承知です」
告げられる事実に怪盗は淀みなく返事を返す。
それが全て予測済みであった質問なのだと探偵は内心で苦笑した。
「なら、どうして俺に手を伸ばす? 俺はお前の最大の敵である筈だ」
「ええ。私達の関係はまるでロミオとジュリエットの様ですね」
「…そんな戯曲はどうでもいい。俺はただ事実だけを話したい」
「本当に夢のない方だ」
真っ直ぐに向けられる言葉に怪盗は笑う。
ただ事実を受け入れ、真実を探す瞳のみを持った探偵にふさわしい言葉だと。
「夢ばっか見てちゃ真実は見つけられない」
「それは分かっていますが、夢のない現実はそれだけで辛いモノ」
「辛いから目を逸らすのか?」
「いえ。辛いから夢を見るんですよ。
傷ついてボロボロになっても明日を真っ直ぐに見詰めていく為の糧とするために」
寂しげな怪盗の笑顔を探偵は冷淡な眼差しで見詰める。
怪盗の笑みにはそれを言うだけの現実を見てきた者の持つ闇が映し出されてはいたが、それを探偵が受け入れる訳にはいかない。
引き摺られてやる訳にはいかないのだ。
探偵が探偵である限りは。
「それならお前は勝手に夢を見ていればいい。俺には必要ない」
「…それではいつか壊れてしまいますよ?」
「それでいい。俺は俺が壊れるまで探偵として真実を見詰め続けるだけだ」
壊れてもいいとそんな自虐めいた事は言わないが、それでも壊れる日が来るのは分かっているからその日まで探偵として真実を見詰め続けるだけ。
ただ、それだけ。
「貴方らしいですね」
クスッと笑った怪盗に探偵は自分の答えが怪盗にとって悪くないモノであった事に少しだけ安堵する。
探偵だって怪盗に嫌われたい訳ではないから。
「それなら私の真実も貴方に告げて宜しいですか?」
「ああ。お前が告げたいと言うのならな」
「私の真実は貴方を愛しているという事です」
淀みなく、しっかりと真っ直ぐに届いた告白。
それに探偵は少し頬を赤らめて、けれど一瞬寂しそうな瞳を見せ、怪盗をじっと見詰めた。
「それならお前は俺の為に怪盗を辞められるか?」
探偵の言葉に怪盗は目を見開いて驚いて見せる。
「貴方がそんな事を仰るなんて意外ですよ」
「それならお前は俺がお前を赦して受け入れるとでも思っていたのか?」
「…正直に言えばそう勝手に期待していた、という所かもしれませんね」
探偵の辛辣な言葉に怪盗は苦々しげに自分の浅はか過ぎた考えを探偵に告げる。
それに探偵は小さく、本当に小さく溜息を吐いた。
「俺は探偵だ。幾らお前だと言っても『怪盗』を受け入れる訳にはいかない」
「………」
「俺はお前が怪盗を辞められないというのなら―――お前と手を取り合う訳にはいかない」
「名、探偵……」
告げられた拒絶の言葉に怪盗はビクッと身体を竦ませ、探偵の頬に触れていた手を握りこんだ。
調子に乗っていた訳ではない。
いや、正直に言えば調子に乗っていた…のかもしれない。
本当は探偵が受け入れてくれると心のどこかで期待していた。
本当は探偵が自分の存在を赦してくれるのではないかとどこかで期待していた。
けれど紡がれたのは完璧な拒絶。
『私』という存在の否定。
その現実に打ちのめされ、怪盗は握りこんだ手を重力に任せ力なく身体の横に垂らした。
それに対し、じっと怪盗を伺う様に見詰めていた探偵が反対に不意に怪盗の頬に触れた。
「!?」
「ンな顔すんなよ…つっても無理か…」
「………」
「あのな、キッド。俺は何もお前を…お前という存在を否定したい訳じゃねえんだ……」
「……どういう…意味ですか?」
先程の完璧な拒絶の後だ。
そう言われても怪盗も結局は最後に拒絶されるというのだという絶望しかなく、返した言葉は怪盗紳士と呼ぶには酷く拗ねたモノで。
そんな怪盗の様子に探偵は寂しそうに苦笑してみせる。
「そんなに拗ねるなよ」
「拗ねたくもなります」
「気持ちは分かるけどな…俺は別にお前の事が嫌いな訳でも、お前の告白を断りたい訳でもない」
「!?」
完璧に紡がれた拒絶。
なのに探偵は『断りたい訳ではない』のだと言う。
全く持って正反対のその返事に怪盗は一瞬目を丸くし、そして次の瞬間には訝しげに探偵を見詰めた。
「俺は別に断りたくてあんな事言ったんじゃない」
「意味が分かりません。貴方は私の手を取れないと先程仰ったじゃないですか」
「……だから拗ねるなって」
チクチクと針が刺さる様に刺々しい怪盗に新一もむぅっと眉を寄せる。
それに余計に怪盗もご機嫌斜めになってしまう。
「名探偵の仰る意味が全く持って分からないのがいけないのだと思いますが?」
「…全部俺のせいかよ」
「拒絶するなら、中途半端な事を言うのは止めて頂けませんか?」
先程よりもずっとずっと低く怪盗の声は響いた。
それに今度は探偵がビクッと身体を竦ませて、怯えたような瞳で怪盗を見詰めた。
正直に言えば、怪盗にはそんな探偵が酷く可愛らしく見えるのと同時に殺してやりたいぐらい憎くも映った。
「キッ、ド…」
「貴方は私の告白を断りたい訳でも、怪盗である私の手を取る訳でもないと仰った。
Noでもなく、Yesでもない。一体どうなさりたいんですか? ハッキリして頂けないと私も困るんです」
「困るのか?」
「ええ。貴方にはっきりして頂けないと、私は次にいくことも出来ませんからね?」
「……次?」
怪盗の言葉の意味が分からないと不思議そうに首を傾げた探偵に怪盗は暗い笑みを浮かべてやる。
暗く、淀んだ笑みを。
「次は次ですよ。次の人、と言った方が分かり易いでしょうか?」
「!?」
「どうしてそんなに驚いた顔をなさるんですか? 当然でしょう?
想っても想っても届かない人を想い続けるなんて無駄でしかない。
それならある程度見込みがありそうな次の方を探す方が私も幸せになれますからね」
「っ…」
怪盗の気遣いのない言葉に探偵は怪盗の頬に触れていた手はそのままに、それでも悔しそうに唇を噛み締める。
その強い噛み締めに探偵の綺麗な唇が切れてしまうのではないかと怪盗は少し心配になったけれど、それはそれでいいかもしれないと思ってしまった。
彼を酷く傷付けたかった。
傷付けて苦しめて…楽になりたかった。
ただそれだけの為に紡がれた怪盗の言葉は意外な程探偵に伝わってしまった様で、探偵は気丈にも瞳こそ怪盗に向けていたが、その瞳の透明な涙の硝子は徐々に厚みを増してついに留まり切れなくなった雫達が両方の瞳からぽろぽろと零れ落ちた。
「所詮、俺への気持ちなんて……そんなもんかよっ…!」
「もう、関係ないでしょう? 貴方は私の手を取れないと拒絶した。貴方にそんな風に言われる筋合いはないと思いますが?」
「違うっ! 俺は…俺はっ……!」
言いながら堪えきれなくなった嗚咽でそれ以上言葉を紡げなくなった探偵に怪盗は短く溜息を吐いて。
仕方なく目の前のその細く震えるを抱き締めた。
「一体貴方は何なんですか? 私の事を困らせて楽しんでらっしゃるんですか?」
「…違、っ……」
「それなら一体何がしたいんです? 正直私には訳が分かりませんよ」
腕の中でしゃくり上げる探偵の頭をそっと撫でてやって。
怪盗は泣きたいのはこっちだと夜空を仰いだ。
全く…何が言いたいのかさっぱり分からない。
「……俺は、……」
「?」
「俺は……探偵なんだ……」
「知っていますよ。嫌という程ね」
この状況下でも『探偵』である事を決して忘れぬ様にする為だろうか。
何度も何度も、自分は『探偵』なのだと呟く探偵の頭を撫でるのを止め、怪盗は両手で探偵をぎゅっと強く抱き締めた。
「貴方が探偵なのは分かっています。
だからこそ…私を受け入れられないというのも嫌という程に分かっています。だから…貴方を責めるつもりはないんです」
「キッド…」
「ただ、私を拒絶なさるのなら…きちんと拒絶して頂きたいんです。中途半端な言葉では持たなくてもいい希望を持ってしまいますから」
寂しげに響いた声に探偵は顔を上げた。
泣き濡れた瞳には滲んで映ったけれど、それでも怪盗が寂しそうな顔をしているの探偵は見逃さなかった。
「何で、お前そんなに…悲しそうなんだ?」
自分だって泣いているというのに、そんな言葉をかけて下さった探偵に怪盗は思わず小さく笑ってしまう。
けれど、瞳は未だ寂しげな彩を湛えたまま。
それに探偵は余計に苦しくなって、もう一度同じ事を怪盗に尋ねる。
「……どうして、そんなに寂しそうな目をするんだ?」
涙に潤んだ目でも真っ直ぐに見詰めてくる探偵の真っ直ぐな言葉に怪盗も素直に答えた。
「貴方に、拒絶されたからに決まってるでしょう?」
「俺は拒絶なんてしてない…」
「でも、貴方は私の手は取れないと仰った。それは拒絶以外の何物でもないと思うのですが?」
「違うっ…」
真っ直ぐに怪盗を見詰めたままだった瞳がそんな言葉と共に少し逸らされる。
少しだけ俯き加減になった探偵に怪盗は怪訝そうな顔を浮かべる。
「どういう…意味ですか…?」
「………」
「私の手は取れない。でもそれは拒絶ではない。一体どういう意味なんですか…?」
「………」
怪盗のスーツの胸元辺りの布をぎゅっと掴みぎゅっと目を瞑り、怪盗の胸に顔を埋めた探偵の真意が読めなくて。
怪盗は少しだけ可愛そうだとは思ったけれど、探偵の背に回していた手を離すとその肩を掴んで自分から彼を引き離した。
「…!」
「名探偵。ちゃんと話して下さい。でないと…私もどうしたらいいのか分からない」
「………」
「名探偵」
「……ごめん……」
探偵のぎゅっと閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上げられ、その奥から蒼い双眸が現れた。
蒼い双眸からゆっくりと零れ落ちていく雫と、薄紅色の薄い唇から零れ落ちた謝罪の言葉に怪盗は痛ましそうに探偵を見詰めた。
「どうして謝るんですか…?」
「俺がいけないから…」
「どうしてです?」
「……俺、が……探偵、だか…ら……」
切れ切れに紡がれた言葉に怪盗は訳が分からないと首を傾げる。
「貴方が探偵であるのは最初から分かっている事ですよ? どうして今更謝る必要があるのですか?」
「……俺が、…俺がもし……もしも、探偵でなければ……」
「…探偵でなければ?」
「お前を…赦して受け入れる事が出来たのかもしれない」
「…! 名探偵……」
苦々しげに紡がれた言葉は怪盗の予想を遥かに超えた発言で。
怪盗は唯々、珍しいモノを見詰める様な視線で探偵を見詰めていた。
「お前を受け入れて…協力して……お前の為に何か出来たかもしれない」
ぎりっと鈍く固い音がした。
それは探偵が忌々しげに奥歯を噛み締めた音だった。
「…俺が、……俺が探偵なんて職業を選ばなければ俺は……」
「名探偵!」
更に紡ぎ出されようとした執拗に暗い闇を怪盗は強く探偵を呼ぶ事で押さえつけた。
「貴方が…探偵でなければ私達はこうして出逢うことすらなかったんですよ?」
「…そんなのは分かってる。分かってるけどっ…!」
「…いいんですよ。貴方に受け入れて貰えるとは思っていませんから」
「それは…俺に受け入れて欲しくない……って事か?」
不安げに確かめられた問いに怪盗は緩く首を振った。
「いいえ。受け入れて欲しいと思わなければ『告白』なんてする筈がないでしょう?」
「でもお前、今受け入れて貰えるとは思ってないって…」
「ええ。今はもう思っていません。私が怪盗である限りは」
「………」
「だから、……今此処で別の答えを頂けませんか?」
「別の…答え?」
「ええ」
少し緊張した面持ちで、真っ直ぐに探偵を捕らえる怪盗の藍の瞳に探偵は困惑した表情を浮かべた。
「一体、何を答えればいいんだ…?」
「……私が、もし……もしも、探し物を見つけ出してこの白い衣装を脱ぐ時が出来たらその時は―――私のこの気持ちを受け取って頂けませんか?」
「キッド…」
ゆっくりと、途中途中考える様に紡がれた二度目の告白に探偵は目を見開いて怪盗を見詰めた。
それは…確実なモノではない。
その事を怪盗も探偵も知っていた。
その日がいつになるのか。
その日が果たしてくるのか。
本当に…分からない。
「それなら…もし、見つからなかったら…?」
怪盗の告白に不安げに問い返した探偵に、怪盗はいやに自信たっぷりに言い切った。
「…貴方と私の運命が交錯しなかった。それだけです」
「それだけって…」
「大丈夫。私と貴方の運命は…今までもこれからも……そして、未来も、交錯し続ける予定なんですよv」
パチリとウインクして。
口元に小さく笑みを浮かべた怪盗に新一も思わず噴出した。
「ぷっ……何だよ、そのクサイ台詞」
「失礼ですね。本心なのに…」
「本心ねえ…。でも、予定なんだろ?」
「大丈夫です。貴方と私が出逢ったのも運命。こうして私が貴方に告白しているのも運命なんですから」
「ま、それじゃ俺がお前を受け入れるってのは運命には入ってねえ訳だ」
「名探偵…性格悪いですよ?」
「んー? 別にそんな事ないぞ? まあ、予定は未定って言うしな」
「………そういう方ですよね。貴方は;」
もぅ…夢がない…。
そうぼやく怪盗にクスクスと探偵は笑ってみせる。
「しょうがねえだろ。夢ばっか見てちゃ真実は見つけられないんでね」
「真実ばかり見続けていては、夢が見れなくなりますよ?」
「別に。俺は誰かさんと違って『子供』じゃねえからそんなに夢なんか必要ないんだよ。どっかの夢見がちなお子様とはちげーんだよ」
「…でも、ホームズは好きな癖に……」
「ほ、ホームズは別だ! それにアレは夢じゃなくて小説…」
「でも、そんな二次元の人物が一番好きなんてある意味夢見がちですよね」
「うっ……、と、とにかくホームズは別なんだ!」
「………ホームズヲタク…」
「ヲタクとか言うな! 俺はただ純粋にホームズが好きなだけで…」
「ホームズの誕生日は?」
「1月6日」
「ホームズがワトソンと最初に出会った場所は?」
「病院。ちなみにその時ホームズはヘモグロビンに反応して沈殿する薬品を発見したところだったんだ」
「……ホームズがユダヤ人の質屋から買ったストラディバリウスの値段は?」
「55シリング」
「………充分ヲタクですよ、名探偵;」
自分の放った質問に間髪入れずに答えが返ってきた事に質問をしたのは自分ながら何だか変に脱力してしまう。
はあ…っと怪盗がおもいっきり溜息を吐いてしまったのをきっと誰も責められないだろう。
「うるせえ! それぐらい知ってて当たり前だろ! 常識だ!」
「………彼女、よく我慢してましたね」
「?」
「…いえ、こっちの話です」
会う度会う度ホームズの話ばかりで。
しかもそれが常識だとのたまうこの推理馬鹿、ホームズ馬鹿によく小さい頃から付き合っていられたものだと思う。
ある意味尊敬に値すると思う。本当に。
「で、結局俺はお前が見つけない限り答える事は出来ないのか?」
「ええ」
「俺が…もしも探偵を辞めても?」
「貴方が探偵を辞められる訳がないでしょう?」
「………」
何もかも見透かされた様に返された言葉に探偵はむっとして、それでも返す言葉は結局見つからなかったから口を噤んだ。
怪盗の言った言葉は正しい。
自分には探偵ではない、探偵として生きたくないと思う自分など想像出来なかった。
「貴方は…そのままの貴方で居て下さい」
「そのままの…俺?」
「ええ。私は貴方の綺麗なその蒼い瞳が大好きですが、その瞳が推理をしている時によりキラキラ輝くのを見るのはもっと好きなんです」
「………///」
無言で赤くなって俯いた探偵に怪盗は口元に柔らかい笑みを浮かべて。
笑ったままの唇をそっと探偵の額に触れされた。
「!?」
「今はまだ、親愛の証。でもいずれ……」
そう言って、怪盗から与えられた感触に驚いて顔を上げた新一の唇に白い手袋に包まれたままの怪盗の人差し指がそっと触れた。
「貴方の愛情を奪いに参ります」
「……う、奪えるもんなら奪ってみればいいだろ!///」
「ええ。言われなくても」
探偵の唇に触れていた人差し指を、怪盗はそっと自分の口元に持っていき、そこに愛おし気にそっと口付けた。
その動作に、まるで自分の唇に口付けられた様な錯覚に陥り探偵は赤かった頬をより赤くして口元を思わず押さえた。
「どうかしましたか? 名探偵」
「っ……!///」
「そういう貴方も可愛らしいですが…いつか妖艶に私を誘えるぐらいになって頂きたいものですね」
「なっ…そ、そんな事出来る訳ないだろ!!」
「大丈夫ですよ。名探偵も人生経験を積めば、ね」
ムキになる探偵に怪盗は楽しげにそう言って、最後にクスッと小さく笑った。
「精々、心の準備をしておいて下さいね? 次は、額では済みませんから」
満足気に微笑んだ怪盗を視界に捕らえたのを最後に、新一の視界は白い煙で遮られた。
「バーロ。てめえの方こそ…覚悟して来いってんだ」
最後の悔し紛れの新一の言葉が怪盗に届いたかどうかは…正直分からなかった。