「駄目〜!絶対駄目!!」
「何でだよ。たかかプールだろ?」
「新一の場合たかがじゃないの〜!!!」
「何で俺だとたかがじゃなくなるんだよ!」
余りの煩さに隣の化学者が乗りこんでくるまでその怒鳴り合いは続いていた…。
〜たかがプールされどプール〜
「で、一体何があったのか教えてくれるかしら?」
聞かなくても大方想像はつくのだけど。
底冷えするような哀の冷たい目線を受け、すっかり大人しくなった二人に満足しながら当然の質問をする。
「このバ快斗がプールに行くなって言うのが悪いんだ」
「新一〜! それがどれだけ危険な行為か解って言ってるの!?」
さっきのやり取りと快斗と一緒になって哀に睨まれた事ですっかり拗ねてしまった様子の新一と、その新一の言い分に今にも叫び出しそうになっているポーカーフェイスが得意の筈の名探偵の恋人。
その様子に哀の口からはこれ以上ないくらいの深い溜め息が漏れる。
「だいたい予想はつくけど、どうして工藤君はそんなにプールに拘ってるのかしら?」
「快斗が行かせてくれないから」
もう待ち合わせまで30分もないっていうのに。
「当たり前でしょ!! 新一の肌を他の野郎に見せてたまるか〜!!!」
叫びまくる快斗に哀の冷たい一言が浴びせられる。
「静かにしなさいと言ったでしょ。そんなに新薬の実験台になりたいのかしら?」
「イエ…すみませんでした…」
途端に殊勝な顔をしてかしこまる快斗に哀の口からは本日二度目の溜め息が漏れる。
(学習能力があるんだかないんだか…)
どうやら今までの成果(?)で恐怖心は植え付けられた様だがすぐにそれを忘れ騒ぎ立てる。
(いっそのこと暫く喋れなくしてやろうかしら…)
いや、いっそのこと暫く仮死状態にでもしてやろうか…等と哀が思っているのを知ってか知らずか快斗の顔が引き攣ってくる。
「あ、哀ちゃん…。折角可愛いんだからそういう笑い方はやめようよ…」
どうやら表情に考えている事が出てしまったらしい。
「あら、それはそれは。お世辞でも嬉しいわ」
それだけ言える口があるのならもう少し工藤君を納得させるように喋れないのかしら。
「…それが出来れば苦労はしません」
新一どれだけ言っても自覚してくれないんだもん。
すっかりしょげてしまっている快斗に、哀は怒るのを通り越して呆れるしかなくなる。
(まあ言いたい事は解らないでもないのだけれど)
とにかく新一はもてる。
老若男女問わず…いや、絶対に男にもててしまうのが心配の種なのだろう。
しかも自覚がない分たちが悪い。
その言い分は解らなくもないのだが…。
「工藤君だって自分の身ぐらい自分で守れるでしょうに」
なんたって犯罪者さえ捕まえてしまう程の黄金の右足を持っているのだから。
「それでも心配なものは心配なの!!」
だいたい大人数で襲われたらいくら新一だって対抗できないでしょ!!
力いっぱいに力説する快斗にそれまで大人しくしていた新一がついにキレた。
「俺を襲ってくる馬鹿はお前だけで充分だ〜!!!」
―――――バキッ!
「………それだけ叫べて、右足のきれもそこまであれば十分でしょ」
ものの見事にリビングの毛足の長い絨毯に沈み込んだ快斗に冷たい一言が浴びせられる。
「身を持って威力を体感したなら素直に行かせてあげなさい」
「…いや…」
涙目になりながらも頑として譲らない快斗に新一が追い討ちをかける。
「ほぅ…そんなにもう一発くらいたいか?」
新一の目がすっと細められたのを確認して快斗の額に冷や汗が伝う。
「し、新一…勘弁して…」
「勘弁して?」
「勘弁して下さい…」
「しょうがねえな」
快斗の様子に満足したのか言葉こそ嫌々といった感じだが、新一の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「じゃあ俺これから行ってくるから灰原そいつの事よろしくな。」
既にプールに行く準備をしてあったらしく、綺麗な青いバックを持ってさっさと扉の向こうに消えてしまった新一を見送る。
残された哀は今だ床とお友達になっている快斗に今更ながらの質問をしてみた。
「工藤君は誰と一緒に行くのかしら?」
「蘭ちゃんと園子ちゃん」
「…だったら襲われる心配ないじゃない」
蘭さんに勝てる人間なんてそうそういないわよ。
「それは解ってるんだけどね…」
語尾を濁す快斗に哀は一つの可能性に思い至る。
「まさかとは思うけど、あなた自分が誘って貰えなかったから拗ねてるの?」
「…………」
「まったく、暑いんだからこれ以上バカップルぶりを発揮しないで頂戴」
「だって〜新一俺より蘭ちゃん達と行くって言うんだよ〜」
お前をプールに何か連れて行けるか!とか言われたし…。
ぐちぐちとこぼし始める快斗に哀は頭を痛めながらも、もう一つ嫌な予想を頭に思い浮かべていた。
(まさかとは思うけど…)
このバカップルなら有り得るわ…と心の中でため息を吐きつつ、快斗の愚痴を聞き流すのだった。
一方、さっさと家を出てきた新一はというと…。
「新一! 遅い〜!!」
10分遅れで蘭との待ち合わせ場所についた新一に当然の事ながらお叱りの言葉が降ってきた。
「わりぃ。出かけに快斗に捕まっちまって」
「あれ? 黒羽君今日は用事あるから一緒に来れないって言ってなかった?」
「えっ…あ、そうなんだよ。あいつも丁度出るところでさ〜」
途端にしどろもどろになる新一に、蘭はふ〜んと訝しげに一瞥したが時計を確認して慌てたように新一を引っ張る。
「急がないと園子との待ち合わせに遅れちゃう!」
「ああ、早く行こうぜ」
蘭と共に待ち合わせ場所に向かって走りながら、出かける前の出来事を思い出し少し罪悪感を覚える。
蘭に誘われた時はあいつも一緒に、と言われていた。
それを快斗に知らせずに、勝手に用事があることにしたのは紛れもなく自分だから。
でも新一にも言い分がある。
(あいつをプールになんか連れて行けるか!)
快斗は恋人の欲目を抜いてもカッコイイと思うから。
只でさえ人目引くというのに、プールになんか連れて行ったら声を掛けられまくる事は必至。
そんな事は出来る事なら遠慮したい。
ならば快斗をプールから遠ざけるしかなくなる訳で…。
(プールなんて絶対に行かせるか!!)
そう心の中で叫んでいた事は新一だけの秘密。
ちなみに彼のその心の叫びと、隣の科学者の嫌な予想とが一致していた事は誰にも知られていない事実である。
END.
夏だ!海だ!プールへ行こう!(ぇ)←海に行けない快斗の宿命(笑)
と言う事で、夏休み記念&3000hit記念フリーssです。
早いもので3000hit。本当に有難うございます♪
これからも宜しくお願い致します。
ちなみにこれは夏休み記念も含みますので8月末までフリーです♪
宜しければ貰ってやって下さい。
その際、BBSやメール等でご一報頂ければ幸いですVv
hit部屋に移動に伴いご自由にお持ちだし可能ですv
宜しければお持ち帰りください。
BBSかメールにてご連絡頂ければ管理人小躍りして喜びます☆
back