『快斗…』


『あ、新一おかえり〜Vv』


『お前何やってるんだ?』










〜今日は何の日?(8月8日編)〜










 8月8日。

 世間では夏休み真っ盛りだが、コナンになっていたことで出席日数が足りない新一にとっては今日も補習に変わり無い。

 しかし、そこは夏休み。
 担任も色々と考えてくれているようで、補習は毎日午前中で終わる。


(どうせなら毎日じゃなくて纏めてやってくんねえかな…。時間長くなってもいいから)


 心の中ではそう思っているのだが、そこは長年培ってきた分厚い猫の持ち主。
 心に思っていることなど表には決して出さずに「毎日お世話をおかけしてすみません」なんて御礼を言ってみたりしている。

 だから毎日平和に補修の日々は続いているのであるが…。



 そんなこんなで今日も補習を無事に終え、新一は家へと帰宅した。
 いつもならドアを開けたところで快斗が犬の様に飛び付いてくるのだが…。


「いない…?」


 ドアを開け、居る筈の人物が居ないことに新一はしばし呆然と固まってしまった。



 ・・・はっ!



「靴…はあるよな」

 出掛けた形跡はないし…。


どうやら新一さん元の自分を取り戻したようです(爆)


「だとすると、まだ家の中に居るって事だよな」

 よっぽど手が離せない事でもあるのか?


 と、一通りの推理をして取りあえず新一は家の中に入った。


 …で、冒頭の台詞になるのである(笑)


「ああ、立ってこねてたら疲れちゃってね。座ってやることにしたの」


 そう言う快斗の膝の上には大きな硝子製のボールがのっていて、その中にはなにやら粉を練りかけの様な物体が入っている。


「何作ってるんだ?」
「出来るまで秘密Vv」

 あ、新一もやる?

「…やる」
「え…?」


 新一の意外な申し出に一瞬止まった快斗だったが、次の瞬間には何処からか取り出したおしぼりで新一の手を拭きその手にボールを渡した。


「はいどうぞ♪」
「これをこねればいいのか?」


 ボールを受け取って首を傾げながら新一は尋ねる。


「そうそう♪」
「解った」


 座ったまま快斗がしていたのと同じ様に、膝の上にボールを乗せて中のものを懸命にこねている新一。

 はっきりいって…。



(超絶に可愛い〜///)



 快斗が新一の可愛さにメロメロになっている間にも新一は懸命に中の物体をこねる。


「快斗」
「ん〜? どうしたの?」


 すっかり新一の可愛さにすっかり魅了されていた快斗だったが、新一の一言ですぐに元に戻る辺りは流石である。


「これぐらいでいいのか?」
「ちょっと貸してね♪」


 新一からボールを受け取ると快斗は中のものを少し押して硬さを確かめた。


「ん〜もうちょっとかな」
「わかった」


 快斗から再びボールを受取りまた黙々とこね始める新一。

 やっぱり…。



(凄く可愛い〜///)



 またしても快斗君メロメロ(笑)



「快斗」
「はいはい♪」


 そうしていたのもつかの間、新一からボールを渡される。
 それを快斗は先程と同じ様に押して硬さを確かめた。


「うん、OK♪ 新一上手Vv」
「これぐらい誰でも出来るだろ」
「ううん、そんな事ないよ。新一が上手なのVv」


 そんな快斗の手放しの賛辞に「ったく、大袈裟なんだよ」と言いながら、新一も悪い気はしていないらしく顔には微笑が浮かんでいた。


「で、それどうするんだ?」
「あ、えっとね…お湯沸かさなきゃ♪」


 おいで♪、と言う快斗に新一は素直にキッチンへと連れていかれる。


「お鍋でお湯を沸かして〜♪」


 ふんふ〜ん♪なんて鼻歌を歌いながら作業をする快斗の姿に新一は首を傾げる。


「何でお前はいつもそんなに楽しそうなんだ?」

 お湯沸かすだけだろ?

「甘いね新一君。俺は新一と一緒に何か出来るのが凄く楽しいんだよ♪」
「そうなのか?」
「そう、例えば今みたいにお湯を沸かすだけでも新一が居れば凄く楽しいの♪」
「そういうもんか…?」
「そういうもんです♪」
「ふーん…」


 新一は何となくまだ納得いかないといった感じだったが、取りあえずそれ以上聞いてこないので快斗もそれ以上その事については言おうとはしなかった。


「お湯も沸騰したし。さて新一君、もう一仕事しましょうか♪」
「何するんだ?」
「さっきこねたやつあるでしょ?」
「ああ」
「それを……こうするの♪」


 快斗はそう言いながら、生地を小さくちぎると掌でころころと綺麗に丸め…。


「で、これが最後仕上げ♪」


 と、丸めたものの真ん中を親指と人差し指で軽くへこませた。


「ほら、新一もやってごらん♪」
「ん」


 快斗に言われるままに新一も快斗がしたように生地をちぎると手の平でころころと転がす。


「そうそう♪」

 それじゃ新一がそうしてる間に…。

「快斗?」
「あ、新一やっぱり気になる?」

「気になる。」


 快斗が何やら他の行動をしようとしていたのが新一は気にかかったらしい。


「じゃあ、新一が一個仕上まで出来たら教えてあげる♪」
「わかった」

それだけ言うと、新一はまた生地を手の平で転がす作業に戻る。


(ん〜Vv 可愛いVv)


「出来た」


 新一は生地を暫く転がしてから満足いく形になったのか、最後に真ん中を軽く潰すと、手の平に乗せて「どうだ!」とばかり快斗に突き出した。


「し、新一…」
「なんだよ」


「可愛いよ〜Vv」


 もう俺ほんとメロメロVv


「ちょっと待て!!!」


 そのまま抱き着いてこようとした快斗を新一は強い口調で止める。


「何で〜!?」
「落ちる」
「あ…」

 そういえばお互い作ったの持ちっぱなしだったι

「早く教えろ」

 出来たら教えるって言っただろ。


 抱き付けなくてがっくりとている快斗に、少しむくれてそう言う新一はそれはもう犯罪的に可愛いのだが…。


(目はしっかり推理モードなんだよねι)


 こういう時に約束を守らないと後が恐いのは身に染みていたから。


「じゃあ新一。こっちおいで♪」

 教えてあげるから♪


 と言って、新一を少し手招きする。


「うん」


 そして新一が頷いた瞬間、快斗は新一の腰を引き寄せた。


「ばっ…何しやがる!」


 顔を真っ赤にして暴れようとする新一の耳元で囁く。


「暴れると落ちちゃうよ♪」
「…卑怯者」


 ぷいっと顔を背けてしまった新一に快斗は更に耳元で囁く。


「はいはい、拗ねないの♪ 教えてあげるからさ。」
「…ほんとか?」


 新一の探るような視線に快斗はおもいっきり微笑みかける。


「新ちゃんったらうたぐり深いんだから♪」

 こうしないとお湯がはねて危ないからこうしたのに…。

「お前の日ごろの行いが悪いからだ!!」

 大体そんなもんは口で言いやがれ!!

「はいはい、教えてあげるんだから怒らないの♪」
「…早くしろ。勿体振ってんじゃねえよ」
「はいはい♪」

 じゃあ見ててね♪


 快斗は正解は…なんて言いながら、沸騰したお湯の中に静かにさっき丸めた生地を入れた。


「で、浮いてくるまでまって…これですくうの♪」


 いつの間にか快斗の手には小さな網の様なものが握られていた。


「快斗これって…」
「あれ? やっと気が付いた?」
「だって普通のやつは丸いままだから…」
「ん〜あれだと中まで火が通りにくいからね」

 ちなみに真ん中をへこませるのは、母さんがやってたのを真似してるだけなんだけどね。

「よく作ったのか?」
「ん〜父さんが死んでからずっと二人だったからね。よく二人でお菓子とか作ってたな…」
「そっか…」


 途端に暗くなる新一の顔を快斗は軽く引っ張った。


「こ〜ら。何辛気臭い顔してるの。俺は新一と楽しく作りたいの!」

 だから笑って?

「…わあったよ」


 快斗に言われて、新一はぎこちなく笑みを浮かべる。


「ん〜、無理に笑って欲しい訳じゃないんだよね…」
「…笑えって言われて直ぐ笑えるかよ」


 笑ってやりたいけどな、と少し寂しげに言われて快斗は何とか新一を笑わせることは出来ないかと考え込む。


「ん〜、本当はこれは後のお楽しみだったんだけど…」
「なんだよ?」
「しょうがない。使っちゃいますか♪」

 んじゃ、とっておきのネタを一つ。


 コホン、と快斗は一つせき払いをすると…。


「今日が何の日だか知ってる?」


 と突然尋ねてきた。


「今日って8月8日だよな?」

 なんかあったか?


 素直にそう答える新一に快斗の目が悪戯っ子の輝きを浮かべる。


「実はね………今日は『白玉の日』なんだよ」
「…………は?」


 快斗の余りにも意外な発言に新一は一瞬目が点になる。



「だから、今日は『白玉の日』なの♪」



 にこやかに快斗にもう一度繰り返され、ようやく新一の頭が回り始める。


「…だからこんなもん作ってたのか…」
「そういう事」
「ったく、お祭り好きだよなお前も」

 むしろこれはそれ以上だろ?


 そう言って、本当に小さくだったけれど笑ってくれた新一に快斗は優しい微笑を浮かべる。


「いいじゃん。新一と一緒に居られるなら俺にとっては毎日が記念日なんだよ?」
「…お前そういう事真顔で言うなよ」

 恥ずかしいだろ……///


 真っ赤になってしまった新一を抱き締めようとした時…。


「快斗」


 冷静な新一の声が響いた。


「なあに?」
「浮いてる」

「あっ…忘れてたι」


 そう、すっかり目の前の新一に心奪われていてお湯に入れた白玉の事などさっぱり忘れていたのだった(爆)


「あちゃー…こりゃ駄目かな…。」


 網ですくってみれば、お湯につかり過ぎていた白玉はすっかりどろどろになってしまっている。


「快斗。それ貸せ」
「えっ…ちょっと新一!」


 捨てるしかないかな…何て思っていた物を新一はあっさりと口に運んでしまう。


「…美味しい」
「しん…いち…?」


 美味しいはずが無いのだ、あんなどろどろの白玉など。
 それでも彼は…。


「美味しい」


 そう繰り返し言ってくれる。


「だってあんなにどろどろだったのに…」
「……お前と一緒に作ったから……///」


 快斗の言葉を遮るように言われた新一の言葉。
 顔を真っ赤にしつつもはっきりとそう言ってた新一に、快斗は今度こそ抱きついた。


「新一〜Vv ほんと愛してるVv」
「…ばぁろぅ…///」
「うん馬鹿。俺新一馬鹿だもん♪」
「…ったく、ほら残り作るぞ」

 そのままほっといたら生地固まるだろ?

「あっ…忘れてた…」
「お前が言い出したんだろうが!!」
「あはは♪」


 軽く笑いながら、取り敢えずは先に白玉を作ってしまう事に決めた快斗は早速生地を千切り始める。


「…なあ、快斗」
「ん?」


 同じ様に生地を千切って丸め始めていた新一が真剣な声色で快斗の名前を呼んだ。


「俺…何となくだけどお前の言った意味解った気がする…」
「俺の言った意味?」
「うん…お前が俺に『新一と居れば凄く楽しいの』って言ってくれた意味…。」

 本当に何となくだけど…解った気がしたんだ。

「ねえ、新一」
「ん?」
「ありがとう」
「え?」


 突然快斗にお礼を言われ、新一は訳が解らず固まってしまう。


「なんかね…凄く嬉しかったから」

 だから、ありがとう。


 何時もの快斗の笑みとは違う穏やかな笑みでそう言われ、新一は頬に熱が集まるのを感じていた。

「……ほらっ、さっさと作んないと生地固まるぞ」
「そうだね」


 快斗の言葉に素直になれず、結局は何時ものように素っ気無い態度になってしまう。
 それがいけないとは解っているのだけれど…。


(だからって…あんな笑い方されて何て言えばいいんだよ…///)


 快斗はよく自分のことを綺麗だと言うけれど…。
 快斗のあの笑い方の方がよっぽど綺麗だと思う。

 そんな事は絶対本人には言えないのだけれど…。


「新一、どうかした?顔赤いよ?」
「うるせえ、なんでもねえよ」

 ほら、口動かしてないでさっさと手を動かしやがれ!

「もぅ…何考えてたかぐらい教えてくれたって…」
「手を動かせって言ってるだろ」
「……はい」


 普段は新一の気持ちの機微には人一倍鋭いくせに、肝心なところで鈍感なこの恋人が新一の本当の思いに気付くのはまだまだ先の話しなのかもしれない。










「なあ、快斗」
「ん?」


 白玉を全部作り終え、今はお茶請けに白玉あんみつ(白玉多め)に舌鼓を打っている快斗に新一は忘れていた疑問を投げつける。


「何で今日が白玉の日なんだ?」

 最初に作られたのがこの日だからとか?


 至極真っ当な意見を述べてくれる新一に、快斗は食器だなから小皿を一枚取り出すと説明を始めた。


「ねえ新一、ここに白玉を一つのせるでしょ?」
「ああ」


 快斗によって白玉ののせられた皿を新一はじーっと見詰める。


「で、その上にもう一個白玉を乗せる」
「……で?」

「おしまい♪」

「は?」


 快斗の説明に訳が解らず戸惑う新一に快斗は最大のヒントを出した。


「新一…これ何に見える?」
「これって言われても…………おい…まさか…」
「そう、そのまさか♪」

「んなもんただのこじつけじゃねえか!!」

「そうだよ♪」

 今更気付いたの?

「もういい…俺は書斎に行く」


 呆れたように新一はそう吐き捨てると、快斗を見放してさっさと書斎へと行ってしまう。


「新一〜!! もっと『白玉の日』満喫しようよ〜!!」
「一人で勝手に満喫してろ!!!」


 その後新一は書斎から8時間近く出てこなかったとか。



 ちなみに…白玉が縦に2個並んだ状態…それは雪だるま…もしくは…?

 そんなこんなで工藤邸の8月8日は過ぎて行ったのであった。











END.


今日は『白玉の日』〜♪
それだけです…(爆死)






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