「──あ。もしもし名探偵?」
「…………。」
モーニングコール
世界に名立たる怪盗紳士。シークレットナンバーから『怪盗キッド』と呼ばれ、また自らもそう名乗っている1人の男。
人々を魅了し、鮮やか且つ隙のない手腕で犯行を繰り返す彼も、朝になれば唯の一般市民に戻る訳で…
怪盗の衣装を脱いだ彼は、極々普通……とは言えない知能指数を持ってはいるが、それ以外は本当に普通の生活を送っている高校生。
そんな彼の朝は、1本の電話をかけることから始まる──
──事の起こりは数週間前。
いつものようにあっさりと犯行を終わらせ、確認をする為の中継地点へと足を向けたキッドは、本日の獲物であった宝石を月へと翳しつつ、つまらなそうに呟く。
「あーあ。今日も楽勝だったなぁ」
警察とは別に毎回送っているもう1つの予告状。
その受け取り人である稀代の名探偵は、この日も現場には来てくれなかった。
仕事が楽に出来るのはこちらにとってはありがたい。ありがたいが…
「こうも無視されるとなぁ…」
ほんの少しの時間で良いから、会いたい。
…そう思っている自分の心を満たす為の『もう1つの予告状』。
「どうして来てくれない?」
なのに、その相手にこうも悉く振られ続けてしまうと…流石に辛いではないか。
「仕方ねぇだろ? こっちにも都合があるンだよ」
溜め息と共に吐き出されたキッドの問いに、返って来るはずのない答えが返って来る。
しかもその声は常にキッドが待ち望み、声のかかる直前まで思い浮かべていた人物のもの…。
「名探偵?!」
「よぉ。久しぶりだな」
驚きの声を素直に上げた怪盗に、その場に現れた名探偵は軽く手を上げ答える。
「どうなされたんです? 現場にはいらっしゃいませんでしたよね?」
「ああ。今さっきまで一課にいたからな」
「事件でしたか」
「そんなとこ。…で、時間的に間に合いそうだったからこっちに来てみた」
これで納得したか? と続けられた言葉にキッドは頷く事で返事をした後、次にあった疑問をストレートに尋ねた。
「…それで、名探偵のご都合と言うのは…?」
すると怪盗が唯一認めた名探偵は、その問い尋ねに気まずそうな…言い難そうな表情を見せ、
「オレにとっては死活問題なことがあってな…」
と、答えにならない答えを返した。
「何か問題でも…?」
「? ああ、違うよ。組織の方はもう殆ど問題はない。言っただろ? 「オレにとっては」って」
「そうですか…、つまりそれは名探偵個人にとっての問題、ということですか?」
キッドの言葉から尋ねられた言葉に、「組織とのことで何かあったのか」と言う意味を感じた新一。
それに苦笑しつつ首を振れば、その様子から嘘ではないらしいと感じたキッドは安堵しながらも質問を続ける。
しかし新一は、キッドの問いには答えずこう切り出した。
「……オレさ、暫く学校休んでただろ?」
確かにこの名探偵は、暫くの間『江戸川 コナン』として生活をしていた為、『工藤 新一』として帝丹高校には通っていない。
それを知っている怪盗が頷いて見せれば、新一は益々言い難そうな表情を浮かべ、
「だからさ…結構、出席日数がヤバかったんだよ」
「…それは、そうでしょうね」
「それで進級出来た条件が…」
…遅刻しない事、なんだよなぁ。
ポツリ、と最後は諦めた(開き直った?)ように言った新一に、キッドは目を丸くした。
そんな怪盗の様子に気付いた探偵は、補足するように詳細を説明し始める。
新一の処遇に付いて、学校側もそれなりに話し合いをしたらしい。
本来ならば、遅刻・早退・長期休学…確実に留年は間違いないであろう状態だが、新一が復学する際に長期休学などについての説明は大まかにされた為、そう無碍にも出来ない。
まして新一は全国レベルで名前の知れている探偵。学校としても彼を手放すのは惜しい…というか手放したくはなかった。
留年してまで学校に通う気はない、と…彼が友人達に言い切っていたのを、教師達は知っていたのだ(笑)。
…しかし、このまま何事もなく進級させるには他の生徒にも示しが付かない為、2つの条件と補習を受けることで学校側は新一の進級を認めた。
それが…
『要請による途中早退は譲って認める代わり、朝はきちんと間に合うように登校する事』
『もし早朝にも要請を受けるようなら、きちんとその旨を警察側から連絡させる事』
「──警察側からの連絡がない限り、オレは遅刻する事が出来ないんだよ」
今までは適当に誤魔化して遅刻したりしてたんだけどさ…
「名探偵の状況は解かりましたが…それでどうして現場には来られないのです?」
つまり、前までは要請以外でも遅刻をしていたんですね…;
新一の言葉から測らずとも理解したキッド。
しかし、だからと言って自分の現場に来てくれない理由までは解からない。
今聞いた理由だけでは、夜である怪盗キッドの現場に来られない理由にはなっていないのだから…。
「…お前、オレが低血圧なの…知ってるか?」
「え? …ええ、存じてますが」
それどころか夜更かし好きで、読書に夢中になると食事すら取らない事も知っている。
徐に尋ねてきた新一に、キッドが内心でそう続けながらも返事をすれば、新一はそれが答えだと言うように口を閉じた。
「(低血圧…? それが理由?)」
…首を傾げ思案する事数秒。
「もしや…、名探偵…?」
「………」
「…朝起きられないから早く寝ている、とか…?」
「…………。」
昔誰かが言っていた。「沈黙こそが肯定の証」だと…。
「……ですが、低血圧が原因なら、早く寝てもあまり効果はないのでは?」
「それでも多少はマシだろ」
その可愛らしい理由と言い分に、キッドは隠す事無く微笑みを浮かべる。
正直、学校の出席率に負けたのは悔しいが…それでも、きちんと条件を満たそうと頑張っている新一を責める事は出来ない。
彼くらいの能力があれば、最悪退学になっても大検を受けて大学に行く事は出来る。にも関わらず、彼にとっては多少(?)厳しい条件であるそれを真面目にクリアしている。
…それは、彼自身が『学校』に行く事を望んでいるから…。
「まあ、そんな理由があって、今までお前のご招待に応じる事が出来なかったンだ。悪かったな」
苦笑しつつ謝る新一に、キッドは軽く首を振る事で「気にするな」と示す。
「そういう理由では仕方ないですよ。しかし…、今日此処に来て頂けたという事は、明日は大丈夫なのですか?」
キッドの現場は毎回、当然ながら夜である。その上今日は…普段よりも時間が遅い。
本当ならばもう寝ているであろうこの時間に、「間に合いそうだから」と寄り道をした名探偵。
「ん〜、ちょっと微妙だな。正直、早く寝ても起きるのが辛いのは変わらねぇし…」
当然だとも言えるキッドの問いに、新一はどーすっかなぁ…などと呟きながら腕を組む。
「最悪、寝ずに行くって手もあるし…なんとかなるだろ」
「なんとかって…、それでは名探偵のお身体が心配ですよ」
「…ンなこと言っても、寝たら起きれそうにねぇし」
主治医からも注意されていた内容だけに、ちょっと歯切れの悪い返事をする新一。
その歯切れの悪さから、多少の自覚はあるのだと安堵したキッドは、不意に思いついた事を口にした。
「──でしたら、私が起こして差し上げますよ」
「はぁ?」
「今日のことは私にも原因がありますし…そうすれば、名探偵は気にせず寝れるでしょう?」
貴方のことですから、時間を気にしてあまり深く眠ってはいないでしょう?
にっこりと、何処か有無を言わせない雰囲気のキッドに、図星をさされた(笑)新一は何も言い返せず顔を背ける。
「どうせなら毎朝、モーニングコールをかけるのも良いかもしれません」
「…ちょっとマテ。」
「なんでしょう?」
「“なんでしょう?”じゃなくて。お前がそこまでする必要はねぇだろ」
「ありますよ」
「なんであるんだよ」
「私が貴方を起こす事にすれば、名探偵は朝を気にせずに済みます」
「だから! それがお前とどう関係…っ」
良い提案だと話を進める相手に新一がストップをかければ、キッドは軽く首を傾げながらも答えていく。
しかしその内容は新一にとって有益なものであり、キッドにとってはなんのメリットもない。
そう思い、提案する相手の考えが解からず声を上げれば…
「そうすれば、貴方は私の現場にも来てくれるでしょう?」
…さらり、と答えたキッドの言葉に、新一は中途半端に口を閉ざした。
「………」
「私にとっても貴方にとっても、この案はかなり良いと思うのですが?」
「……お前…、馬鹿…?」
「…そういうことを言うのは名探偵だけですよ;」
「だって…普通、探偵に来て貰いたがる怪盗なんていねぇだろ」
しかも、その為にモーニングコールするなんて…問題ないか?
「私が良いと思ってるのですから、問題ありませんよv」
脱力して頭を抱える探偵に、怪盗はにっこりと自分の問題発言を正当化する。
その答えに益々力の抜けた新一が、諦めて『怪盗からのモーニングコール』を依頼するのはこの数分後。
そして…
「おはよう。起きた?」
「………ん。」
「嘘言わないの。どーせまだ布団に包まってるンでしょ?」
「………なんで解かるンだよ」
「名探偵のことはお見通し♪ ほら。とりあえず起き上がって?」
「…わぁった」
完全に寝起きな新一の声と言葉に、快斗はくすくすと笑いながらも彼を起こす作業を続ける。
作業と言っても、電話越しに声をかけ促すだけなのだが…
「名探偵? 起きた?」
「ああ…起きた。はよ」
「はい、おはようv」
「…あのさぁ」
「ん〜? どしたの名探偵?」
「……お前、そろそろその“名探偵”ってやめろよ」
こうして朝、電話かけてるお前は『怪盗』じゃねぇんだし…
新一からの思いがけない言葉に、快斗は受話器を落としそうになる衝撃に堪えながら言葉を…彼の名前を紡ぐ。
「………じゃあ…、新一?」
「ンだよ」
「…新一」
「だからなんだよ」
「……今日の放課後、会いに行っても良い…?」
今まではどんなに口調を崩しても『探偵』と『怪盗』のスタンスは崩さなかった。
しかし、言外に「それを崩しても良い」と言われた快斗が、ドキドキしながら──発した声もちょっと掠れていた気がしたが──問えば、
「…………別に、好きにすれば良いンじゃねぇ?」
と、数秒の間を持って、快斗はお許しのお言葉を頂いたのだった。
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【桜月様後書き】
【ありがとうございます! ありがとうございますっ!!】←選挙?
感謝感激の20000hitぉぉぉぉぉ!!8(>_<)8
すごいよ…、マジで。本気でこんなに早く訪れるとは思っていなかったのデス。
…現に、今回もとある方からのメールで気が付きました;
カウンターを大きくした意味が全くありませんでした(爆)←駄目じゃん。
前回に引き続き、今回も大慌てで作成。前はKコだったんで今回はK新(最後は快斗だったけど;)。←じゃあ次は快コか快新か?(笑)
こんなお話でもよろしければ、6月末までフリーですのでご自由にお持ち帰りくださいv
その際の事前・事後連絡は不要です。…でも頂けたら、桜月は狂気乱舞します(笑)
期間終了! 受け取ってくれた方々、ありがとうございました!!
【薫月の感想】
フリー期間は終了した筈なのに何故貰ってきているのか…。
アンサー、物々交換の末ですv(笑)←桜月様の30000hit祝いに上げたブツと交換で50000hit祝いにこれを貰ってきたらしい。
それにしても新一さん…死活問題なんですね(苦笑)
しかも…今まで誤魔化して遅刻してたんだな;
その辺りに見事に目をつける(つけこむ・笑)キッド様もとい快斗君、素敵ですvv
毎朝彼の声で起こされるなんて…夢ですね、正に夢vv←めろめろv
低血圧で寝起きの悪い新一さんも快斗の声ならちゃん目覚めますよね♪
桜月様、素敵な物々交換を提案してくれてどうも有り難う♪
これからも宜しくねv←厚かましい;
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