MESIA裏切りは信じるものに与えられる






「まさか、そんな…」

薄暗いビルの屋上に小さな驚愕の声を洩らした者がいた。その者は世間で怪盗キッドと呼ばれる者。
曇りなき真白の衣を纏い予告状を出し、鮮やかに獲物であるビッグジュエルを盗みだす者。
しかしその怪盗紳士はらしくもなく動揺を顕にしていた。
その耳元には小さなイヤホン。警察無線を傍受している最中の事だった。

「名探偵…」

たった今耳にした事を信じられずに我知らず零れた声は夜風に飛ばされ消えていく。
怪盗の呟きを散らした風には嵐の気配が色濃かった。
――月が雲に隠された…



悪魔達の溢れる夜 空と海の初めての邂逅の地で




予告上の内容はとても簡潔でそっけないものだった。明らかに新一を、新一だけを呼び出すためだけのもの。
悪魔達の溢れる夜は古代ケルト人が死者が現れると信じていた10月31日――ハロウィン
空と海とはかつてブルーワンダーの事件の時の二人の会話から来る似ているようで異なるもの――新一とKID
そして初めての邂逅の地はブラックスターの事件の時初めて二人が対峙した場所――杯戸シティホテル屋上
今までにない不可思議な予告
それでもそれを無視する事など新一にはできはしなかった。


ぐっと力を込めてドアを押しあける。以前一度このドアを開けた時はあんなにも苦労したというのに。
そんな事をぼんやりと考えた。
目の前に広がるのはキラキラと光る地上の星そして白い後ろ姿。

「よぉ」
「お久しぶりです、名探偵。このような場所に足を運んで頂き恐悦至極」
言って恭しく礼をする。
「欝陶しいからそれ止めやがれ」
「名探偵はご機嫌斜めだな」
新一がいくら睨もうと意にも解せずキッドはくつくつと笑う

「さっさと用件を言いやがれ。わざわざこの俺を呼び出したんだ、下らねぇ理由だったら容赦しねぇぞ」
脅すように言っても意味のない事は解っているが新一はイラついていた。
仮にも日本警察の救世主とまで言われている自分が怪盗の招待を受け、あまつさえそれに応じてしまうなんて…
その事実は新一をイラだたせ切るような視線を相手へと向けることになる

「そう睨むなよ。今日はあんたに一つ警告をしてやろうかと思ってな」
ひょいと肩を竦めたその仕草や声音はふざけていたがその瞳はひどく真剣だった
「なに?」
問い返した新一にキッドが返すのは何かを迷うような視線

長い沈黙に新一が痺れを切らした頃ぽそりとキッドが呟いた
「日本警察の救世主」
風音に掻き消えそうなその声はかろうじて新一の耳に届いた
「キッド?」
「あんたは自分が救世主と言われている事が解っているのか?」

「どういう意味だ?」
言葉どおりの意味だとは思えなかった。
この男は一体何を言おうとしている?
「救世主と言われているその意味を考えた事があるのかと聞いてるんだ」
「何が言いたい?」

キッドの声に、言葉のはしばしに感じられる恫喝に驚いたがそれを表に出さずに問いただす。明らかにキッドの様子は尋常ではなかった。
「あんたが『メシア』と聞いて真っ先に思い出すのは何だ?」
キッドの真意は解らなかったがいつもとは全く違う気配を放つキッドに新一の口からするりと答えが滑り出た
「キリスト。イエス・キリストだな」

「そう、この世で最も有名なメシアはキリストだ。人類の救世主。だが彼は救世主であるからこそ殺された。違うか?人類の咎をその身に受けて、償うために磔にされた。」
KIDの語る言葉を新一はただ黙って聞いている。
KIDの真意が分からないから。
KIDの真意を分かりたいから。

「それからジャンヌダルク。彼女も救世主だといわれた。今じゃ聖女として認められてるが彼女は殺された時確かに魔女と言われたんだ。他人のために戦い続けたと言うのに。支配者どもの咎を一身に受け、磔にされた。」
二人の哀れな救世主、その事実はKIDを深く暗い闇へと落とそうとする。

「メシアなんて所詮は都合のいい英雄だ。最期には必ず磔にされる。信じていたものに裏切られて。」
「それで?」
新一は冷ややかな目をKIDへと向けていた。
日本警察の救世主
そう言われる自分も裏切りに遭うのだと言いたいのだろうか。

「日本警察の救世主、あんたはどうだろうな?メシアと言われるからにはあんただって避けては通れない。必ず裏切りに遭い磔にされるんだ。」
KIDの顔が微かに歪む。苦しそうに、悲しそうに。
新一は何故だかその表情に反論ができなくなった。
裏切りになど遭わないと、自分はキリストやジャンヌとは違うのだと、言いたいのに出てこない。
新一が黙しているとKIDが思ってもいなかった事を告げてきた。


「もしもそれを望まないなら・・・
俺と一緒に来いよ。
救世主でなくなれば、あんたは裏切られることなんてないんだから。」


長い沈黙の後、ようよう新一の唇から出た言葉はKIDの言葉を否定するものではなかった。
「裏切り・・・ね。一体誰が俺を裏切るって言うんだ?」
掠れた声は辛うじてKIDへと届く。
KIDは目を閉じ、大きく息を吸うと意を決したように告げた。
「警察だ」
新一は大きく目を見開いた。
「この前の仕事の時に傍受した警察無線から聞こえてきたんだ。」


途切れ途切れに聞こえてきた会話。
――今回・・不祥事・・・誰に被って・・う・・もりだ?
――そ・・ですね・・・彼などはい・・がです?
――彼?
――日本・・察の・・世主、工藤新一に・・すよ。


思考の止まった新一にKIDは手を差し出した。
そして新一は、KIDの手を―――取ってしまった。




それはこの世から一人の「救世主」が消えた瞬間。
そして――怪盗は探偵を手に入れた。










【樹耀様後書き】
祝・70000ひっとぉぉぉ!!!!
と、いうわけで
宣言したとおり書きましたのことよ、お祝い品!
日にちが近かったからハロウィンも混ぜたけど、まぁそっちはあんま関係ないんで。
この間送ったハロウィン物小説化は・・・もうちょっと待ってください(滝汗)

由梨香ちゃんの書いた「MESIA」とはまた違ったMESIAですが、やっぱりジャンヌのMESIAから想像してみたのですが・・・いかがでしょう?
この後新一がKID様に監禁・・・されてくれたら嬉しいなw
あんまりこの後の事は考えてなかったりします。

これからも頑張ってサイトを続けていってくださいな♪


【薫月コメント】
きゃvvお祝い品有り難う御座いましたvv
あぷが非常に、ひっじょうに遅くなって申し訳ありませんでした;

見た瞬間に「メシアだメシアだぁvv」とルンルンしていたのは言うまでもありません(笑)
もちろんこの後は監禁ですよねv んでもって新一サンを裏切ろうとした警察に……(以下自主規制・笑)
続きも読みたい……なんてvうふv←キモイからやめなさい

ではでは、これからも遊びに来てやって下さいませ☆


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