月齢29.35 三十日月-Dark moon-

 こんな日は、アルテミスからの祝福も薄れ…全てのものを闇夜の中に隠してくれる。





                         ──さて。どうやって堕ちようか…?



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 口説き方講座 After
   -Setsuka Ougetsu Writer Side-
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「…どこか、おかしな処はある?」
「いや…全然」

 目が覚めて早々に聞かれた問いに、コナン…新一は軽く首を振って答える。

「──どうやら、完全に戻れたみてぇだな」
「…そうね」
「どのくらい寝てたンだ?」

 ある日、夜空を駆け巡る“白い鳥”から渡された『魔法の書類』。
 それをもとに協力者であり、今では主治医となっている目の前の少女に『魔法』の精製を頼み…漸く出来上がった、ラット検査も不充分なそれを服用した。

 身体の中に入った途端に訪れた激痛。
 コナンになった時とは違い、骨が溶けるのでは無く身体が裂けるような痛み。

 それに耐え…気が付けば気を失っていたようだ。

「2日よ」
「ってことは、今日は27日か…」

 一通りの簡単な検査を行いながら新一の問いに答える哀。

「…今のところは問題ないわね。念の為、もう暫くは大人しくしている事ね」
「大丈夫だよ。まだ表に出るつもりはねぇし…」
「どうかしら。貴方の事だから、釘を指していても無駄な場合があるのだけど…?」
「………;」

 ……否定できない処が痛い;

 黙り込んでしまった新一に、哀はくすりと笑みを零し、

「まあ、お隣りに戻る事くらいは許可してあげるわ」

と、検査道具を片付けながら言った…。

「え…? いいのか?」
「勿論。解っていると思うケド…存在が解らないようにして頂戴」
「………」
「──言っておくけど、目の届く処にいて貰う為よ」
「……サンキュ」

 さり気無い哀の優しさに、新一は素直に礼を口にする。
 その言葉に少し顔を赤らめた哀は、

「もう良いわ…何かあったら、いつでも良いから携帯鳴らして…」

 そう言って新一に背を向けるようにパソコンに向かった…。
 口元だけ歪め、気付かれないように笑みを浮かべる新一。

「ああ…また明日、こっちに顔見せる」
「そうして頂戴」

 哀からの返答を待ち、新一は地下室を後にした。
 扉が閉まり、階段を上っていく足音が遠ざかっていく…

 …それを耳にしつつ、哀はメールの送信画面を開いた──



 久々に帰ってきた自宅。
 この前も、一時的に『工藤 新一』戻った時に来てはいたが…本当に戻ってから帰るのとは、やはり感覚が違う。
 前までは…『帰った』ではなく『寄った』という感覚だった…。
 それは、自分の姿が本当には戻っていなかったせいなのかもしれない。

 …時間の限られた中での本来の姿。

 だからこそ、今、本当の自分でここに『帰って』来れた事を嬉しく思う…

「…それもこれも、全部アイツのおかげ…なんだよな」

 自室に入りポツリと呟く。
 全てはあの“白い鳥”がくれた『魔法』…。

「普段から『魔法』を見せていたヤツだったけど…まさかここまでデカイ『魔法』をくれるとはな」

 くすり、と笑いベランダへ通じる窓を開ける。


 ──外は完全な闇夜。

 月はささやかな淡い光りを瞬かせ、地上全てを暗闇の中に覆い隠す。
 暫く手入れをしていなかった(出来なかった)庭に生い茂る木々は、僅かな風に小さな葉音を立てる…

 月齢29.35──新月までほんの僅か…


「…今日は、ヤツも大人しく羽根休め…か?」

 月下の魔術師と呼ばれる彼が、月夜の晩にしか現れないのは知っている。
 それが何故なのか…直接尋ねてはいないものの、予測の範囲で知っている新一。
 だから、今日のような晩は姿を見せない…と、認識している。

「礼、言いたかったンだけどな…」

 …別の機会に言うしかねぇかな…

 そう内心で自分を納得させた時…その声が新一の耳に届いた…


「──こんばんわ。麗しの名探偵…」


 ふわり…と、いつかの夜と同じように姿を現した真っ白な怪盗。
 突如として目の前に姿を見せた“白い鳥”に、一体何処にいたのか…と思うのが愚問なのだろうか…?

「お戻りになられたのですね」
「…おかげさまでな」

 いつも変わらぬ冷涼とした気配。
 彼の持つその空気を、新一は思いのほか気に入っていて…

「…お前、元からアレを盗る為に予告状を出したんだろう…?」
「さて…? なんの事だか…、私はただ女神に求愛しただけですが…?」

 目的であった宝石──女神──には振られてしまいましたが…

 そう続ける怪盗に、新一はくすっと悪戯な笑みを浮かべる。

「まあ、お前がなんと言おうと、アレのおかげでオレはこうして『工藤 新一』に戻れたンだ…礼が言いたくてな」

 …コナンの時でさえ、見た事の無かった微笑。
 その勝気で妖艶な笑みに、怪盗が一瞬だけ息を飲む。

「何か礼がしたかったんだ。…何が良い?」
「……私は貴方に“返却”を頼んだだけですが…」
「それでも、だよ。オレが出来る事なら何でも良いぜ?」

 ──この時期にしては涼しい風が吹く。
 優しく頬を撫でるその風に、怪盗のマントも微かに揺れる…

「…希望がねぇんなら、オレが勝手に決めちまうぞ?」

 何も言わない怪盗に痺れを切らした新一。

「ですが…」
「オレがしたいって言ってンだろ? 何らしくもなく遠慮してンだよ」
「らしくないって…;」
「普段はこっちの話を聞かない程強引過ぎるクセに…」

 『工藤 新一』相手だと、調子でも狂うのか?

 意地悪そうに、楽し気に笑う新一に、思わず唖然とする怪盗。
 今まで見た事の無い…名探偵の姿…

 …尤も。これが本来の…猫を被っていない『工藤 新一』の姿なのだが…

「ったく。勝手に決めるからな」

 そう言った新一は、そのまま何の躊躇いも無く怪盗に1歩近づき…


「!!」
「──これで、不満だって言うンなら…覚悟しろよ?」


 …小さな音を立てて離れる温かな感触。

 ホンの一瞬だったその口付けは…酷く甘く、酔いしれるもので…

「オレから…ってのは、かなりレアだぜ?」

 ニヤリ…と笑いあっさりと離れる新一。
 突然与えられた、怪盗にとって唯一無二の愛しい人からの口付け。

「…オレは、黙って口説かれる女神なんかじゃねぇからな」


 ──欲しいモノは、自分から手を伸ばす…


 …難攻不落だったブルーダイヤは…自らの意思で、白い怪盗の元へと堕ちた──




 TO:確保不能な怪盗さんへ

   『たった今、貴方の眠り姫が目を覚ましたわ。』



                 FROM:眠り姫の執事-Sherry








と、言う訳で10000hit祝いで続き頂いちゃいました〜♪
きゃ〜(///)読んだ瞬間にノックアウトです…。
素敵に口説いてます。新一さんが男前〜Vv
いや〜これぞ『口説き方講座』!…ほんと読んだ後感嘆の溜め息が漏れました
そして…最後のメール!執事ですよ皆さん!!ほんとぴったり合いすぎてて…素敵過ぎ!
いやぁ…素敵なブツを有難うございましたVv

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