好きだという
 愛しているという

 君はそう言うけれど
 何を根拠にそれを信じられるというのだろう

 寄る辺ない想いなど
 信じろという方が無理だろう


 だから―――





 ―――さっさと諦めてしまえばいい
















 百夜通い【第七夜】















「こんばんは。麗しの名探偵」
「………」


 目の前の光景に探偵は思わず天井を仰いだ。

 確かに昨日は女装をした彼を散々『変態』と言って虐げた。
 今日もその恰好で来たらそっこーで追い返すと宣言しておいた。

 だからって……。


「お前、何だよその恰好;」


 ―――何だってオールバックに、びしっとタキシードで決めてくる必要性があるのか。


「だって名探偵が昨日言ったんじゃん。そんな格好で来たら追い返すって」
「だからって何でタキシードなんだよ! しかも、何だその手に持ってる物体は!!」
「ん? コレ?」


 探偵がビシッと指差した先、怪盗の腕の中には数十本余りの紅い薔薇の花束。
 遠目から見ても分かる程ビロードの様にしっとりとした質感からは薔薇の中でもそれが相当に高価である事を感じさせる。

 その花束を少し持ち上げて、怪盗はニッコリと笑った。


「唐紅が名探偵に似合うと思って」
「…あのな、俺は男で花束なんか…」
「良いでしょ。男女問わず、美人さんには花が似合うものだよ」


 一歩ずつ探偵との距離を詰め、椅子に座っていた探偵の膝に乗せる様に怪盗はその花束を探偵に押し付けた。


「……昔の映画みてえだな…」
「おや、そんなにカッコイイ?」
「…格好だけな」


 ふいっと視線を逸らした探偵の頬に僅かばかり赤みが差しているのに気付いて、怪盗はクスッと笑った。


「そういう事にしといてあげるよ」


 小さく笑って怪盗はその額にそっと口付けた。


「てめぇっ…! 何しやがる…!!」
「いいでしょ。折角格好付けて態々来たんだから、ちょっとぐらいご褒美貰ってもv」
「…何で俺がお前にご褒美なんかやんなきゃなんねえんだよ!」
「はいはい。怒らないの。折角の美人さんが台無しだよ」
「だから、美人じゃねえつーの!!」
「はいはい」


 むうっと膨れて見せるのすら、可愛いのだから堪らない。
 押し倒したいのを懸命に我慢して、怪盗はその頭をゆるりと撫でた。


「また来るよ、名探偵」
「…もう来んな!」
「いーや。後、九十三夜ちゃんと通うよ」


 くるりと踵を返した後姿さえ何だか様になっていて、探偵はそれに一瞬見惚れてしまった自分を恥じるかの様にその背から視線を逸らした。


「俺は許可してない」
「知ってるよ」


 何時でも何処まで行ってもマイペースな怪盗に諦めに似た感情を覚えつつも、探偵自身そんな怪盗を嫌いきれない自分に気付きそうで頭を抱える。


「…バーロ。探偵と怪盗が仲良く慣れ合ってどうすんだよ……」

































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