好きだという
 愛しているという

 君はそう言うけれど
 何を根拠にそれを信じられるというのだろう

 寄る辺ない想いなど
 信じろという方が無理だろう


 だから―――





 ―――さっさと諦めてしまえばいい
















 百夜通い【第六夜】















「めーたんてーvv」
「……マジキモイ」


 目の前に現れた女子高生に、探偵はそれはそれは盛大に溜息を吐いた。
 そんな探偵に少女はむうっと可愛らしく頬を膨らます。


「ひでーな。もうちょっと違う反応があるだろうが」
「女装した変態相手に他の反応があるとは俺には思えないんだが?」
「女装した変態って…。お前ね、もうちょっと表現があるだろ、表現が」


 ぺしっとその少女に額を叩かれても、探偵の反応は変わらない。


「人様の家の門の前でそんな格好で待ってる変態に言われる筋合いは無い」
「だーかーら、変態じゃねえっつーの」
「どこからどう見ても変態だから安心しろ」
「うっせー! 人を変態変態言うんじゃねえ! 完璧な変装だろうが!!!」
「………まあ、出来は褒めてやらなくもないが、……中身がそれじゃなぁ…;」


 少し脱色した気のある背中まで伸びる茶色い髪。
 少し短めにしたスカートに合わせる様に、少し長めの淡いピンクのカーディガン。
 甘えが見え隠れする様に少し長めに設定されたその袖には計算が滲む。
 ぱっちりとした瞳を彩る長い睫をより強調する様に塗られたマスカラだとか、淡いピンクで合わせたグロスだとか。

 傍から見れば、確かに美少女なのだろうが…。


「ひでーの。名探偵だって“可愛い女の子”は好きだろ?」
「……そりゃ男だから嫌いじゃねえけど、本物の『女の子』ならな」


 何をどう取り繕うと。
 見た目がどれだけ“美少女”であろうとも。

 コイツの中身は―――正真正銘の『男』だ。


「それに…どっちかっつーと、そのままそっくりお前にその台詞返したいんだが?」
「へ?」
「お前だって“可愛い女の子”が好きなんじゃねえの?」
「そりゃ、男だから嫌いじゃないですけどね」


 うんうん、なんて頷いている目の前の(格好だけは)美少女に探偵は満面の笑みで最後通告を突きつけた。


「だったら、こんなとこで油売ってねえで、かわいー女の子でも口説きに行って来い」


 言われた言葉の意味に一瞬遅れて怪盗が青くなって気付いてももう遅い。
 ふいっとそっぽを向いて家の敷地内に入ろうとする探偵の腕を慌てて怪盗は掴んだ。


「違うから!! 俺が一番好きなのは名探偵だから!!!」
「…お前、自分でも説得力無さ過ぎると思わねえか?」
「それでも俺が一番好きなのは名探偵なんだってば!!!」
「………ったく」


 腕を掴んでいる手の強さに新一は呆れた様に肩越しに怪盗を振り返った。


「明日その恰好で来たらそっこーで追い返すからな」
「えっ…。それ、明日も来ていいって…」
「分かったらさっさと帰れ。このド変態」


 ―――げしっ


「っぅ……!!!」


 探偵の辞書には『女子供に暴力は振るうな』という文字は有ったが、『女装をした変態に暴力を振るうな』という文字は無かったようで。
 盛大に黄金の右足の犠牲になった怪盗は暫くその場で蹲ったまま動く事が出来なかった。

































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